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鎮めの針路 — 宮古–沖縄船団護衛戦/Calming the Wake #14-4

本話は再接近の230°・500ftを“窓”で受け、チャフ第2段と列の密度で投下角を甘くさせます。

下では十字走が粘り、終盤は那覇入港へ。真鍮と油の匂い、帆布に転がる薬莢の音で、通過戦の終章を体感してください。

【場所:宮古島南西〜沖縄本島間/先島外弧 時間:1962-06-02 07:15(JST)】

 07:15。

「南西、再接近反応。方位230°、高度500ft、編隊4、推定420kt」

「同条件で続け。上段厚め、チャフは第2段まで。船団は列を崩すな」

 砲塔が浅く身を沈め、“窓”が再び空に置かれる。弾庫から上がる真鍮の匂い、帆布に転がる薬莢の鈍い音。

「5インチ、発射!」

 VTが薄皮を裂き、1機が翼を落として海に斜め刺し。残りは散開、投下角が甘くなった。

「3インチ、掻け!」

 低空の腹を斜めに刈る。黒い塊が2つ跳ね、1つは列の外で白塔に、もう1つは内側200yd後ろで水柱。破片は風に削がれ、甲板へ稀に降るだけだった。

「後尾タンカー、外板凹み。航行自力可。負傷1(切創)」

「了解。医療班、応急で止血。列は12ktを維持」


 07:20。

 風向が南へ1度振れ、海がざわめく。

「潜、方位015°で小変位。速力は出していない」

「米駆逐、右舷十字を継続。こちら保持」

 古典の歯車が海面下で回り続ける。上は対空、下は対潜、真ん中を“列を太く”が押さえ込む。旗手は汗で湿った手袋を握り直し、合図旗を小さく振った。

 07:28。

 発煙器の残量が点検され、チャフ箱の蓋が再び閉まる。

「砲側、砲身温度+1目盛。発射間隔を+1目盛延長」

「受領。迎撃窓は同条件で維持」

 静けさが一拍。S-2のプロペラ音が薄く渡り、レーダは安定。艦内に波と風の音だけが残る。

 07:40。

「対空終息、いったん」

 対空指揮が低く告げ、呼吸が戻る。通信兵は金属マグを握り、古いティーバッグを外へ放った。新しい袋を破る指が、今度は震えなかった。

 08:15頃。

 電測の針が一瞬だけ跳ねる。

「短発光。周波数10cm帯、2秒間」

「同じやつだ。台船が動く」

 S-2が追随。

「北西、曳航中の台船を視認。甲板に覆い、作業員2。射角形成の動き」

「航空へ。外弧を叩いて作業中断。こちらは盾と“窓”を維持」

 F-8Dが低く走り、海面に黒い線を引いた。台船の縁が跳ね、曳船が急に方位を変えて遁走。

「電測、以後沈黙」

「よし。“届く位置のみ”を作らせない。列はそのまま」

 08:42。

 艦尾でロープが軋み、掃海の曳索が水を叩く。

「曳索テンション上昇、右舷」

「回頭3°で負荷逃がせ。列は保て」

 波頭に赤錆の皮が浮き、ちぎれて沈んだ。

「回復。曳航具、正常」

 09:10。

 港湾局の気象が流れ、気圧は+1目盛、雲底はさらに上昇。視程良好。

「CAP、あと1回転可能。S-2は外側線を維持」

「受領」

 09:50頃。

 米駆逐艦が十字走を完遂。

「泡痕のみ。音紋は遠のく。持久戦完了」

「礼。こちらも保持解除はせず、列の密度だけ維持」

 ソナー室で鉛筆の斜線が止まり、音響員が軽く肩を回した。

 10:10。

 掃海列が沖縄北方の外弧へ差し掛かる。曳航具が重くなり、古い錆の匂いが風に乗る。

「帯の端だ。ここを通せば今日の航走はつながる」

 船団は11ktへ−1kt。角を回る間も「斜角盾」は解かず、迎撃窓は必要最小限。

「右舷掃海、反応微弱。鈍い」

「通過を継続」

 10:42。

 砲側が帆布を叩いて薬莢を揃え、弾庫のハッチを締め直す。真鍮と油の匂いの上を、港の潮の匂いが薄く覆った。

 11:10。

 沖の色が浅くなり、港の煙突とクレーンの骨が陽を拾う。

「船団先頭、集合点へ。速力11kt、針路295°。後尾タンカーは軽損のまま、曳航不要」

 司令塔の声が柔らぎ、甲板の空気が少し緩む。

 その緩みの隙間で、遅れた震源が小さく牙を見せた。

「左舷後尾で破片。手すり2枚、内側に曲がり。軽傷1」

「了解。医療班、受け入れ準備。港で引き継ぐ」

 11:32。

 岸壁から荷役の掛け声がとどき、ディーゼルの低い鼓動が海面を震わせる。曳船の黒い影がこちらへ寄り、旗竿の白地に青線の小旗が風に合わせて揺れた。

 11:40。

 船団は那覇外港の集合点へ入り、曳船が脇につく。

「本船団、通過完了。被害軽微、全船自力」

 事務的な声に重なるように、陸の生活音が届く。汽笛、運搬車の軋み、短い笑い声。

 佐伯は送話器を外し、海図を畳んで鉛筆を耳に挟んだ。

 岸壁には、白い服の子どもが1人、肩の高さで手を振っていた。

 佐伯は帽の鍔を指で押さえ、わずかに頷くと、体を港の方へ向けた。

「次は、那覇だ。……人を降ろす。受ける手が要る」

 無電手がうなずき、短い信を打つ。那覇沖で避難船の曳航要請、医療班は手薄。

 今日の“通過”はここまで。次に渡すのは、海ではなく街の手だ。


読了ありがとうございます、幻彗(gensui)です。

当てるより外させる設計で、被害最小化→通過完了までを描きました。

表記・用語の気づき(時刻体裁/チャフ段数/十字走の描写密度など)をコメントでぜひ。

面白ければブクマ&評価(☆☆☆☆☆)が次章の燃料になります。

次は那覇から医療へバトン——白衣の厚みが戦場を受け止めます。

次回更新は、明後日 10/17 12:00 頃(JST)に公開予定。

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