鎮めの針路 — 宮古–沖縄船団護衛戦/Calming the Wake #14-3
外弧はF-8Dが抑え、正面は230°・500ftの低空突入。
本話は“窓”先置き+VT/時限+チャフの層で受け、列を太くで被害を減衰させます。
真鍮の匂い、紙テープの湿り、照準灯の変化を“音”として味わってください。
【場所:宮古島南西〜沖縄本島間/先島外弧 時間:1962-06-02 06:30(JST)】
06:29。外弧で光が跳ね、F-8Dが海面へ爪を立てた。ミサイル艇の舷側が水柱に包まれ、速力を失う。もう1隻は黒煙を曳いて退いた。
「航空、目標圧迫成功。海面の発光は途絶」
「了解。外は押さえた。台船側は射角不足。盾と“窓”は維持」
06:30。
水平線は静かなまま。しかし風が海面を押す感触だけが強くなる。
誰も口を開かない。耳だけが、遠くの金属音を探していた。
「南西、低高度接近。方位230°、高度500ft、速度は推定420kt、編隊4〜6」
「来た。Il-28だ。同条件で続け。上段厚め、発煙は合図まで。船団は列を崩すな」
前列2機は波頭すれすれ、後列はひと息高い。
「5インチ、発射!」
砲塔が吠え、230°の空間に先置きの“枠”が切り取られる。VTが薄皮を裂き、前列の1機が翼根をもがれて海に落ちる。白い飛沫が立ち、後列の1機が慌てて上へ抜けた。
「第二“窓”、続け!」
3インチが時限で空の側面を掃く。破片が雲の切れ目に走り、航跡が歪む。前列の2機が投下、黒い塊が跳ね、1つは列の外側で空しく塔になった。もう1つは内側へ、タンカーの舷側200yd後方で爆ぜ、飛沫と鉄片が雨のように落ちる。
「後尾タンカー、破片少数。外板凹み、航行自力可」
「列は維持。盾の角度そのまま。迎撃窓は同条件」
甲板の熱が上がる。薬莢が帆布へ転げ、真鍮の匂いが風に混じる。
「発煙、第一!」
発煙器が低く唸り、灰色の幕が黒い箱形の隙間へ流れ込む。レーダは緩く曇るが、230°の方位線は保たれている。
「3インチ、掻け。下段は近距離を掃け」
砲身が素早く角を変え、低空へ斜めの線を引いた。浅い角度で突入してきたIl-28の腹に火が走り、機体は腹から海を掠めてばらけた。
06:36。
S-2が外弧を横切り、無電が落ちる。
「外側クリアを維持。台船は沈黙。小艇の再接近なし」
「受領。対空は“窓”維持、チャフはまだ温存」
砲側で弾庫から補給。揚弾機の金属音が一定に刻まれ、号令が抑えた声で往復する。
「5インチ、上段残44。下段64。3インチ、良好」
「了解」
06:41。
「潜、方位008°で小変位。速力は出していない」
「米駆逐、右舷十字を続けろ。こちら保持」
古い手順が海面下で続く。上は対空、下は対潜。両方の歯車が噛み合い、船団の密度がそれを支える。
06:45。
雲底がわずかに上がり、光が砲身に白い線を置く。電測の紙テープが湿って指に張りつき、若い電測員が1枚めくった。
「雑音回復……待て。南西、再探知。方位230°、距離不確、ドップラー増加」
「同条件で続け。上段厚め。発煙は第二段まで許可」
砲塔がわずかに身を沈め、照準器の髪が“窓”の縁を撫でる。
06:49。
灰の幕の向こう、海が一瞬だけきらめいた。Il-28の影が低空を走り、最初の“窓”に入った瞬間、翼の縁がちぎれて斜めに落ちる。
「至近弾1、船団後尾へ破片。損傷軽微」
艦橋のガラスに遅れて小さな鳴音が来る。呼吸が戻りかけ、すぐ締め直される。
06:54。
チャフ第2段が空にほどけ、銀の雨が落ちる。レーダ・レンジは短く曇るが、方位線の骨は生きている。
「対空終息……一時。砲側、砲身温度確認」
「5インチ、発射間隔を+1目盛延長。3インチ、問題なし」
「受領。船団は12ktを厳守」
06:58。
米駆逐艦から短い報。
「右舷十字、維持。泡痕なし。保持中」
「よし。上は対空、下は対潜、両方継続」
07:03、港湾局の定時。気圧は+1目盛のまま、視程良好。
「S-2、外側クリアを再確認。CAPの燃料、あと1回転は持つ」
「了解。外は屋根が残る。こちらは“窓”だけ厚く」
07:08。
艦首の風が湿り、金属の匂いが少し強くなる。旗手の手袋が汗で重く、布地が掌に貼り付いた。
「電測、更新。南西、低高度。方位230°、高度500ft、編隊規模4。速度は420kt前後」
佐伯は送話器を握った。必要な語だけに削る。
「同条件で続け。上段厚め、チャフは第2段まで。……船団は列を崩すな」
07:10。
砲塔が浅く息を詰め、“窓”がもういちど空に置かれる。揚弾機が律動を刻み、金属の鎖が短く鳴った。
07:12。
「南西、再接近反応。高度500ft、編隊4──」
読了ありがとうございます、幻彗(gensui)です。
当てるより“外させる”——密度と“窓”で投下角を甘くし、列を守る回でした。
表記や用語の気づき(時刻体裁/角度3桁/チャフ段数の書き分け等)をぜひコメントで。
面白ければブクマ&評価(☆☆☆☆☆)が続話の密度を上げる燃料になります。
次話#14-4は07:15の再接近(230°/500ft/編隊4)から、被害最小化の詰めへ。
次回更新は、明日 12:00 頃(JST)に公開予定。




