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トライデント第一波(Operation TRIDENT)#13-前編

北岬沖、霧が“窓”を作る8時間。

Ark RoyalとCounty級が上(Seaslug)/中(Vixen)/下(4.5in+Seacat)で線を繋ぎます。

甲板小火と回収サイクルの綱渡り、谷筋を抜ける低空を“砲窓(VT)”で掬う前半戦へ。

【場所:ノルウェー沿岸(北岬南西沖) 時間:1962-03-09 04:12 CET】


 霧は海図の余白のように真っ白だった。04:12、真方位030°。Ark Royalは13ktで風を噛み、飛行甲板の灯だけが濡れた世界に細い航路を引く。ハリントンは艦橋の縁で羅針儀のガラスに浮いた2つの反射を指で払う。自分の瞳と、霧の向こうで揺れる信号灯の光だ。


「風、一定。回頭不要」

「よし。第一撃、予定どおり。05:40ジャストで行く」


 気象科の“窓”は8時間。ここを逃せば、北岬の裏側は氷の蓋を閉じる。上陸艇はその蓋の下で立ち往生するだろう。霧が敵の視界を奪うなら、こちらは自分たちの引く“線”で航路を描くしかない。ハリントンは耳の奥で3層の音を並べた――艦上カタパルトが吐く蒸気の裂け、County級がSeaslugを押し出す瞬間の金属音、そして4.5インチが低空に“砲窓”を穿つ乾いた雷鳴。

(注:“砲窓”=VT信管弾で霧中に置く見えない球体の射界)


 05:37、滑走灯の筋が1本、霧に飲まれた。Sea Vixenが霧の蓋を持ち上げるようにのしかかり、次いで攻撃隊が続く。風は従順で、艦はただ、窓の縁に鉛筆を当て続ける子どものように一定の線を引き続けた。


「County、真方位267°、間に合う位置に」

 艦橋のスピーカーが小さく鳴り、応答は短い。「了解、267°、速力24kt。Seaslugスタンバイ」


 06:11、海岸線の向こうで灯が1つ立つ。沿岸砲座の曳火だ。霧は音を曖昧にするが、砲の呼吸までは消せない。着弾は手前に短く、白い水柱が連なっては崩れ、また立つ。Ark Royalは速力を落とさない。上陸群の時計は、艦のプロペラより正確に刻まれなければならない。


「上陸点〈トライデント・アルファ〉まで、あと12nm」航海士。

「了解。Sea Vixen、低雲下の対砲座ロケットを増やせ。銃座の“目”を潰せば、耳だけでは当たらない」


 08:02、警戒レーダーに霧の斑点とは違う粒が立つ。真方位194°、距離32nm、高度をゆっくり上げる群。Il-28(Beagle)の編隊か。


「County、射界よし」

「よし、撃て」


 SeaslugはType 901のガイダンス・ビームに乗る。発射音は遠い地鳴りめいて、だが確かに空の中腹を穿った。レーダーの1粒が崩れ、編隊は高さを捨て散開。低くなった獲物はSeaslugの得手を外れ、近距離のSeacatと4.5インチが引き受ける。


「低空、真方位211°、距離12nm、2機」

「砲窓を開けろ。方位003°修正、装填VT。……撃て」


 砲術長の声ののち、船体の奥が一瞬だけ息を止め、すぐに乾いた拍手の連続が艦を貫いた。VT信管は霧の中に見えない球を置く。球の表面に触れたものから崩れていく。白い輪が1つ、2つ、雲の底でほどけた。


 10:17、右舷後方で鈍い衝撃。艦の背骨が短く鳴り、艦橋の床がかすかに沈む。

「報告!」

「発着艦エリアで燃料流出。小火あり。負傷2、軽傷。消火班、泡展開中」

 ここで止めれば海兵隊は砂の上で孤立する。止めずに続けるには、甲板の時間と空の時間を同じ線に載せなければならない。


「発着継続。回収はデッキ・フォワード優先。消火は20分で片づけろ」

 命令は短く、艦は長い呼吸で応える。泡の白が霧の白と混じり、甲板の上だけ天候が悪化する。整備兵は硬いパンを片手で噛み、もう片手でレンチを握る。メス(食堂)の豆スープはいつの間にかぬるくなり、湯気は天幕の中で行き場を失って揺れていた。


 11:46、Sea Vixenの1機が帰投しながら、短く震える声。「海岸の稜線に、4つ目の銃座。目だけ生きてます」

「了解。近SAMと砲で目隠しだ。County、反斜面狙いの間接で目を潰せ」


 12:31、ビーチマスターの声が砂混じりの電波で入る。「橋頭保、幅1.9nm。ロープ設置。LCM2番・3番、投入」

 甲板の泡は乾き、焦げの匂いはまだ鉄の奥に残る。だが艦は再び“線”を引き直す。真方位189°、速力15kt。回収サイクルが回り始め、第二波の影が霧に溶けていく。


読了ありがとうございます。幻彗(gensui)です。

今回は三層防空の手順(Seaslug/Sea Vixen/4.5in+Seacat)と、回収サイクル=時間の通貨を芯に描きました。

霧下での“砲窓(VT)”の効きや、英国艦の運用ニュアンスの気づきがあればコメントで教えてください。面白ければブクマと評価(☆☆☆☆☆)で応援を。

次は#13-後編——“窓”が閉じに向かう中、等間隔の小点(外洋側)と撤収線の攻防へ。

次回更新は、明日 12:00 頃(JST)に公開予定。

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