鳳凰作戦(台湾南部の橋頭堡)/Operation PHOENIX #12-7
06:10–12:40。PoDは“今日の音”で鳴り始めます。
高高度にはTerrierの一発、それ以外は撃てるが撃たないで時間を買う。
S-2の“窓”はやがて鍵へ——幅=生存率を太らせ、札打ちと初荷の通過までをご一緒に。
【場所:台湾南部 東港—高雄外港—鎮海線内側 時間:1961-07-06 06:10–12:40 TST(JST)】
朝は完全に立ち上がったが、手順はなお“夜”の慎重さを保っている。PoDは06:00に暫定開港。A-3は32yd、B-1は14yd、C-2は全幅。白布の矢印は増え、木杭の角は兵の肩で丸くなった。 「A-3、前進維持。B-1、歩兵優先。C-2、LVTは半クラッチ」 木原信隆の声に合わせ、LSTの唸りが低く揃う。タグは喉の入口に並び、楊 文斌は舵輪の上で膝をわずかに開いて、針路085°を見据えた。
06:18。S-2が内側線で点を拾う。「方位203°、低速、速度4kt——底を擦る」 「曳航の潜堤」劉 航が短く言う。「潮で潰れる。放置」 内層の“砲窓”は浜の上を気持ち高く保ち、味方の頭上を通す。DDEは“斜角盾”の姿勢を維持し、CLGは中層に穴を作らない角度で待つ。BARCAPのF-8C/Dは南縁で“刃”だけ置いてから戻る。弾は通貨、払う先は選ぶ。
06:30。救護所のテントへ氷の塊が滑り込み、額と脇の下を冷やす。製氷工場の煙突は細い湯気を絶えず吐き、港の“基準音”は昼の音へ移っていく。
張 文斌は外桟橋の白色灯に手を当て、電圧の落ち方を指先で測る。「午前は持つ。午後は補強がいる」 「落ちたら上げる」楊が短く応える。「灯は人の手で戻る」
06:52。A-3は34ydへ。B-1は16yd。砂の上の白布が一枚はためき、工兵は“戻る道”の矢印をもう一枚縫い付けた。 「列を太く——維持」隊長の声は短く、太い。歩兵は塀を背に、矢印を路地へ回す。穴が開いても流れは止まらない。
07:05。CLGの観測員が空を指す。「真方位012°、高高度、距離58nm——増速」 副官が囁く。「今度は……来るかもしれない」 マクレーンは紙図の角を軽く押さえ、息を整えた。「Terrier、準備。弾は1段——“払う価値”が生じたら払う」 F-8C/Dが雲の肩を払っても、今回の光点は海から離れない。高度と速度は“言い訳”を許さない線を描いてくる。 「高高度、距離42nm——進路維持」 「Terrier、撃て」 CLGの箱が開き、白い閃光が一つ、空へ吸い込まれる。 数秒後、雲の高いところで、黒点がほどけた。観測員が呼気を漏らす。「高高度、目標喪失。——1」 副官が小さく笑う。「撃たずに済むのが最善だが、払うべき時は払う」 マクレーンは頷く。「弾は通貨だ。港の喉のために払った」
07:22。S-2が外側線の端で点滅を拾い、すぐに消す。「餌」 ケリーが受信紙を撫でる。「敵側の文書体はまだ荒い。勤務交代の乱れ、継続」 「なら、“窓”は我々が管理する」マクレーンは短く言う。「哨戒の交代表は前倒し。——鎮海線、札打ち続行」
07:40。タグが敷設箱を曳き、口の狭い湾へ等間隔で“印”を落とす。 「標識、灯→屋根線→椰子二本。針路085°から左10°、戻す」 楊は復唱し、若い甲板員は舷縁の綱を握ったまま呼吸を短く刻む。白色灯は昼の光に押され、なお芯だけは揺れずに残る。
08:05。沿岸砲が一度だけ低く唸り、劉のペン先が紙図に触れる。「座標、方位092°、距離2,800yd——煙柱で合わせ」 「米DD、座標三発、最小で抑えろ。日本艦は遮蔽継続」 段射の3発で音が途切れ、屋根の稜線に溜まっていた埃が風にほどける。 ケリーが紙を破る。「敵送信、断片化。——観測が追いつかない」
08:30。PoDの岸壁へ初荷が入る。麻袋の小麦、被服の箱、消毒用アルコールの缶、薄い鉄板が少し。次の艀には砲弾と弾帯。 張 文斌は古い方位灯の根元で、外した端子を布で拭く。「赤は死んだまま。白で行く」 「白で十分だ」木原が応える。「“針路”が見えれば、船は通る」
08:56。内陸の家並みで土埃が上がる。P-15の“暖機”の癖に似た白い線。 「斜角盾」 CLGとDDがわずかに回頭し、横腹を角に変える。ロケット式チャフが帯を重ね、金属雲が再び“夜”を作る。 米駆逐艦は劉の“屋根線”に合わせ、方位090°/距離2,450ydへ段射。2発目で壁の根が崩れ、3発目で黒い塵が噴く。 ケリーの声が低い。「濁り、点滅。——点灯できない」 「時間を奪い続けろ」マクレーンは平坦に言う。「臨時サイトは生え、こちらは刈る。——そのあいだに列を通せ」
09:20。A-3は36yd、B-1は16yd維持、C-2は全幅。工兵は杭頭の白布を換え、砂の矢印を太く描き直す。 「交差点、もう一枚!」 戻る道と進む道が二重三重に明示され、列はさらに太る。歩兵は路地を抜き、LVTは半クラッチで角を曲げる。砂の音が土の音に変わる。
10:05。S-2の声が落ち着いている。「内側線、静穏。外側線、静穏」 CLGの観測員が空を見上げる。「高高度、反応なし」 「よし」マクレーンは紙図の角を押さえる。「“鎮海線”、午前の札打ち完了。——午後は維持。PoDは“暫定開港”の手順に昇格」
10:40。港の喉を抜けるタグが一度だけ短く汽笛を鳴らし、岸壁で拍手が弾けかけて、誰かが手で制した。油断は要らない。 ルース・ハドリーが帳面に線を引く。「JP、ピッチ維持。対空弾、消費は想定内。——“削り貸し”は段階解除、ただし申請要」 副官が笑う。「支払い窓口が開いた」 「払うべき先にだけ払う」マクレーンは同じ言葉で返す。
11:18。内陸から、遅れた一度の砲声。劉のペン先が止まる。「単発——観測なし」 「無視」 CICに静かな呼吸が戻る。S-2の点線は整い、赤い光に二本の細い川のように流れる。 「窓、維持」ケリーが短く言い、受信紙を切って横に積んだ。「敵側の文書体、乱れのまま」
11:50。氷の台車が軋み、救護所のテントから乾いた笑い声が一度だけ漏れて消える。 張 文斌は仮設白色灯の箱を叩いて埃を払い、古い端子を指で押さえた。「まだ行ける。——昼のうちは」 楊は舵輪に手を置いたまま、うなずく。「夜になったらまた人の手で持たせる」
12:22。CLGの観測員が空を見上げる。「真方位026°、高高度、距離61nm——回頭」 「Terrier、固定。——撃つ必要なし」 マクレーンは紙図の角から指を離し、深く息を吸って、吐く。 港の喉は、もう“今日の音”で鳴っている。 列は太く、流れは生きている。 “窓”は鍵へ変わり、鎮海線は細いが確かな線で外海へ続いている。 彼は時計を見て、数字を祈りの順番のように並べ直した。 「午後、維持。夜に補強。——これでいい」
12:40。CICでアダム・ケリーが短い電文を打つ。「“PoD暫定開港。鎮海線、日中維持。敵火管、未回復。”」 マクレーンは頷き、紙図の角を一度だけ押さえてから離した。角には柔らかい癖が残る。 「ハンナの机に届く言葉は、もう書いた」 副官がうなずく。「“港の灯が戻った”」 「そうだ」 彼は静かに言い、CICの赤い明かりの下で、次の1分も、その次の1分も、並べ続けた。
読了ありがとうございます。幻彗(gensui)です。
今回は払うべき時の一発(Terrier)と、撃たない抑止で時間を増やす運用、そして窓→鍵への移行を描きました。
方位3桁°/時刻4桁/距離ydの数式めいた数値列や、PoD(港の“喉”)の見え方に気づきがあればコメントで。
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次章は戦域転換——#13-前編「トライデント第一波」へ(北岬沖/Ark Royal・Seaslug・“砲窓”)。
次回更新は、明後日 10/9 12:00 頃(JST)に公開予定。




