鳳凰作戦(台湾南部の橋頭堡)/Operation PHOENIX #12-4
07:40–09:15。A-3の幅=生存率を維持しつつ、P-15の“刃”を斜角盾+チャフで鈍らせます。
S-2の“音の門”、米DDは座標最小、日本艦は煙と遮蔽。
H+04:00 PoD進入予行までの“次の1分”を先取りする回です。
【場所:台湾南部 東港—高雄外港アプローチ 時間:1961-07-05 07:40–09:15 TST(JST)】
朝は立ち上がったが、手順は“夜”の慎重さを捨てない。A-3は24yd、B-1は12yd。C-2は半幅で息をしている。工兵の指は砂で固く、白布の矢印は潮で濃くなった。 「A-3、前進維持。B-1、歩兵優先」 木原信隆が短く告げ、LSTのランプが落ちる。履帯は低い唸りで砂を噛み、歩兵の列は太いまま、杭の白へ吸い込まれる。港内の仮設白色灯は二つ。屋根線は朝の光で鮮明だ。
07:44。S-2が内側線の端で点を拾った。「方位204°、低速反応1。速度3kt」 劉 航が首を振る。「曳航の潜堤。浅い。——放置」 「内層、砲は浜の上を“気持ち高く”。味方の頭上を通せ」マクレーンは平坦に言う。 CLGは中層の穴を塞ぐ姿勢で待機し、Terrierの箱は口を閉ざす。BARCAPのF-8C/Dは南縁で刃を見せるだけ。弾は通貨、払う先は選ぶ。
07:48。製氷工場の台車が再び往復を始め、救護所のテントに白い塊が滑り込む。氷は包帯の上で水に変わり、血の匂いを薄める。港の“基準音”が少しずつ戻った。 張 文斌は仮設の白色灯に身をかがめ、もう一度、古い電線を握り直す。「午前は持つ。——最初のタグ、外へ」 「楊、聞こえるか。針路085°。灯と屋根を結べ」木原がマイクを押す。 「楊 文斌、了解。——今日は潮が素直だ」
07:52。S-2が声色を変える。「外側線、方位041°、12nm——高速、120kt」 アダム・ケリーが受信紙を睨む。「敵送信、周波数の“濁り”増加。火管の臨時運用——合わせが乱れてる」 劉が顔を上げる。「P-15の“出”が近い。防波の影から外へ」 マクレーンは即座に切り替える。「ロケット式チャフ、ポイント投入。——米DD、座標射撃準備。日本艦は遮蔽継続」 短い放物線が空に縫われ、金属雲が“壁”を増やす。米駆逐艦は劉の屋根線に合わせ、方位089°/距離2,300ydへ段射。黒い塵が防波の向こうでふっと盛り上がり、風に解けた。 ケリーが紙を破る。「濁り、いったん消失」
07:57。A-3の先で歩兵が塀の角を取り、白布の矢印が路地を曲げる。LVTは半クラッチのまま、砂から土へ音を移す。 「列を太く——維持」隊長の声は短い。幅は流れ、流れは生きる。 CLGの観測員が空を指した。「真方位016°、高高度、距離46nm」 「Terrier、固定。F-8C/D、牽制して戻れ」 撃たない抑止が続き、弾は浜の上に残る。
08:02。DDEが曳航パラベーンで水面をなぞり、浅深2段の小爆雷を“トン”と落とす。白い泡が帯となり、S-2の点は消えた。「内側線、反応消滅。追跡不要」 マクレーンは紙図の角を押さえる。「よし。——H+03:00までにA-3を28ydに」
08:05。空気が変わる。CICの奥で誰かの呼吸が止まり、次の瞬間には世界の音が凝縮した。 「内陸側——白い線!」 劉が顔を上げる。「P-15、“点火”! 防波の影から出る!」 ケリーの声が低く速い。「周波数の濁り、複数——火管、間に合ってない!」 「斜角盾!」マクレーンの声がCICの壁を叩き、艦がわずかに回頭する。CLG、DDが角を作り、横腹の平面を消す。 「ロケット式チャフ、重ねろ! ——米DD、座標即応、3段で!」 放物線が空を白くし、金属の雨が“夜”を作る。米駆逐艦が3発を段射で防波の影へ送り込み、2発目で土が裂け、3発目で黒い塵が噴く。 灰色の空に鈍い尾が低く伸びる。P-15だ。 最初の白帯は金属雲の裾で千切れ、次の瞬間、海面が黒く盛り上がる。チャフが“海”を偽り、斜角の船影は角だけを見せる。 音は遅れて来た。深い腹の底で鳴るような一撃が“前”で咆え、水柱が広く立つ。 「命中なし」CLGの観測員が絞り出す。「手前で落ちた。——誘導、荒い」 ケリーの紙が破れる。「火管の合わせ、崩壊。濁り、途絶」 マクレーンは頷き、一言だけ置く。「今の1分を、次の10分に変えろ」
08:09。浜の空気が戻る。砲窓は短く濃く咲き、小型艇の白波を2本折る。S-2が淡々と重ねる。「内側線、2目標消滅。残り回頭」 「追うな」マクレーンが平坦に言う。「回頭させたら十分だ」 木原は双眼鏡の奥で瞬きもしない。「煙、まだ壁になるか」 機関科の兵が笑った。「風向100°、変わらず。あと15は壁」 「十分過ぎる」木原は時計を見た。「H+04:00、PoD進入予行(深度・標識・遮蔽の確認)へ移る」
08:14。A-3が28ydへ広がり、C-2が10ydで“息継ぎ”を始める。工兵が杭の白を増やし、砂に描いた矢印を一本付け替えた。「戻る道は、こっち!」 救護所のテントで氷が割れ、銀紙のような音が一度だけ走る。 ルース・ハドリーが帳面をめくった。「JP、H+04:00からピッチ上。弾薬、対空優先、対地は座標のみ継続。“削り貸し”は継続凍結」 「続けろ」マクレーンは紙図の角を軽く押さえた。角は湿気で柔らかい。
08:18。CLGの観測員。「真方位008°、高高度、距離44nm」 「Terrier、固定——撃つな。F-8C/D、北を刈れ」 F-8C/Dが雲の肩を払い、敵の輪郭は海から離れていく。撃たないことで、砲が浜の上に残る。手順が勝つ。
08:23。内陸の家並みで土埃が上がり、劉のペンが走る。「座標、方位090°、距離2,450yd——修正1回で着」 米駆逐艦が段射を送り込み、黒い塵が再び膨らんだ。ケリーが紙を破る。「濁り、微弱。——点灯に至らず」 木原は受話器へ口を寄せる。「楊、外の白い雨は薄くなった。——行け」 「了解。085°を外さない」楊 文斌の声は、舵輪と同じ重さで落ち着いていた。
08:30。タグが白い息を引いて外桟橋を離れ、屋根線と仮設灯を結ぶ。艫の後ろで若い甲板員が小さく呟く。「風が味方してる」 楊は応えず、舵をほんの少しだけ当てて戻す。「段取りは済んでいる」 DDEは“斜角盾”の姿勢を保ち、CLGは中層の穴を塞ぐ位置で止まる。S-2は点の列を新しい紙に写し直す。 「内側線、静穏」オペレーターが読み上げた。「外側線、反応なし」
08:36。浜の先で誰かが笑い、その笑いはすぐに砂と汗の匂いに溶けた。A-3の幅は30ydに届き、B-1は12yd、C-2は12yd。工兵の指先は震えているが、杭の白は増えていく。 「仮設の交差点、もう一枚!」 白布の矢印が増え、戻る道と進む道が二重に描かれる。列は太く、流れは生きた。
08:42。CLGの観測員。「真方位032°、中高度、距離29nm——増速」 「Terrier、ひと息だけ準備」副官が声を押さえる。 マクレーンは机の角を叩きそうになり、指を止める。F-8C/Dが前へ出て、雲の縁で敵を脅かし、中高度の点は進路を外へ曲げた。 「撃たずに済んだ」副官が息を吐く。 「その弾は、港の喉のためにある」マクレーンは短く言う。
08:49。S-2が外側線で一瞬だけ点を拾い、すぐ消した。「餌」 「急いでいるのは、向こうだ」ケリーが紙を丸める。「交代の手順が崩れた。——“窓”は、まだ開いている」 「なら、渡すな」マクレーンは頷く。「H+04:00、PoD進入予行。タグは楊、LSTは1隻のみ。——列は太いまま」
08:55。港の喉に風が走り、仮設の白色灯が昼の光に負けそうに瞬く。張 文斌は台座を蹴って埃を払い、電線を握り直す。「持て。——あと二時間」 彼の背中越しに、誰かが小さく言った。「灯は、消えるのも点くのも、人の手だ」 張は振り向かず、短く頷いた。
09:02。S-2の声が静かに落ちる。「内側線、静穏。外側線、静穏」 CLGの観測員が空を見上げる。「高高度、反応なし」 「行け」マクレーンはCICの赤い明かりの下で、紙図の角を軽く押さえた。「PoD進入予行、開始」
09:05。タグが舫いを解き、仮設灯と屋根線を結ぶ。舳先がほんの少しだけ左を指し、すぐ戻る。 「真方位085°——良し」楊は独り言のように言う。 LSTが低い唸りで続き、白い煙の残りが薄い帯になって背中を押す。DDEは“斜角盾”、CLGは中層の穴を塞ぐ。S-2の紙には二本の点線が重なって走る。
09:10(H+04:00)。PoD進入予行。 外桟橋の白色灯が、朝の光に押されながらも確かに灯っている。 楊は舵をわずかに当て、戻す。「左10°——戻す。——今」 LSTの艫で若い甲板員が息を止め、次の瞬間、船体が喉を抜けた。 港の奥から、短い汽笛。 喉が乾いた音。笑いは飲み込まれた。 CICでアダム・ケリーが小さく呟く。「“窓”、まだ開いてる」
09:12。CLGの観測員。「真方位354°、高高度、距離52nm——遠のく」 「Terrier、固定」 マクレーンは紙図に小さな丸をひとつ描く。「PoD——ここだ」 彼は深く息を吸い、吐く。「A-3を32yd、B-1を14yd。C-2、全幅へ。——第3波、喉の手前で待機」 紙図の角は、もう癖で、彼の指を待っている。
09:15。白い“雨”はほとんど消え、朝は背筋を伸ばした。 タグの汽笛が再び短く鳴り、LSTの影が港の喉に沈んでいく。 浜では矢印が増え、交差点がもう一枚描かれ、氷の台車が一度、軋んだ。 ——夜の慎重さは、まだ手放さない。 その慎重さで、次の1分も、その次の1分も、渡さないために。
読了ありがとうございます。幻彗(gensui)です。
今回はP-15短落の因果(チャフで海面偽装→斜角で見付減→火管の濁り崩壊)と、幅=流れ=生存の管理を芯に描きました。
方位3桁°/距離yd/時刻4桁など数式めいた数値列の気づきはコメントへ。
面白ければブクマと評価(☆☆☆☆☆)で応援を。
次回#12-5は日中〜夜間運用へ移行、札打ちとPoD「暫定開港」条件の詰めに入ります。
次回更新は、明日 12:00 頃(JST)に公開予定。




