鳳凰作戦(台湾南部の橋頭堡)/Operation PHOENIX #12-3
H+01台。A-3の“幅”を太らせつつ、敵P-15の芽を斜角盾+チャフで摘みます。
S-2の“音の門”、米DDは座標最小、日本艦は煙と遮蔽。
撃たない抑止で時間を買い、港の“喉”へ寄せる1時間をご一緒に。
【場所:台湾南部 東港—高雄外港アプローチ 時間:1961-07-05 06:20–07:40 TST(JST)】
砂は白く、汗は塩の粉になって袖に残る。A-3の幅は18yd、B-1は10ydまで広がった。工兵が杭の頭に白布を巻き、砂に矢印を縫いつける。「A-3、前進許可。B-1、歩兵優先」 LSTのランプが再び落ち、履帯が低い唸りで砂を噛む。列は太いまま、穴を踏んでも流れが止まらない。木原信隆は双眼鏡を持ち上げ、浜の右手に視線を走らせた。「右斜、杭列を残せ。——中央で押す」 風向100°、12kt。煙はまだ壁を保ち、チャフの薄灰が朝の光にほぐれていく。
艦隊TACCのサラ・オニールが時限スロットを刻む。「CAS、A-3上空、06:25、06:27、06:29——2分置き。F-8C/Dは南縁に“圧”だけ置いて戻れ」 CLGでは砲術士が方位線を更新し、Terrierの箱は口を閉ざしたまま。副官が呟く。「撃てるが撃たない、の持久戦だ」 マクレーンは短く返す。「弾は通貨だ。必要な場所にだけ払う」
06:24。CVSのS-2が内側線を舐め、ピンガーの点がCICの透明シートに整列する。「内側線、方位198°、低速1目標、速度3kt——上げ潮に乗る」 「沿岸潜の匂いがするな」アダム・ケリーが受信紙の端を折る。 マクレーンはDDEへ送る。「外側に網を張れ。——直上は避けろ。爆雷は浅深2段」 DDEが緩く回頭し、真方位220°へわずかに振る。曳航のパラベーンが海へ滑り、続いて浅深2段の小さな爆雷が“トン”と落ちた。水面が丸く盛り上がり、白い泡が帯を作る。S-2のオペレーターが首を振る。「反応、消滅。——追跡不要」
06:27。浜の背後で短い爆ぜ音。「雷管だけ。中身は砂」 工兵は杭列の合間に“戻る道”を描き、木杭とロープで仮設の交差点を作る。「負傷者逆走レーン、白布で明示!」 氷の台車がそこを通る。製氷工場から出たばかりの塊が、救護所のテントへ押し込まれ、額に、脇に、血の匂いのする布を通じて冷たさを渡す。港の“基準音”が少しずつ戻る。
06:30。CLGの観測員。「真方位008°、高高度、距離52nm」 「Terrier——待機固定。F-8C/D、上に“刃”を入れて抜け」 F-8C/Dが上へ抜け、敵の高高度は遠のく。撃たない抑止——その分、弾は浜の頭上に残せる。
06:34。港の裏手で、赤茶けたスレート屋根が日を返す。劉 航が透明下敷きに線を足した。「“屋根線”が見やすくなった。針路085°、椰子二本を結べば、タグは外さない」 張 文斌が仮設の白色灯に身をかがめ、古い電線の結び直しを終える。「電圧は落ちるが、夜よりは持つ。——もう一本、灯れる」
06:38。S-2が内側線の端で鋭い点を拾う。「方位211°、12nm——120kt」 「小型機……いや、牽引の高速艇か」ケリーが受信紙を睨む。「敵送信、周波数の“濁り”がまた増えた。火管の臨時運用……合わせが乱れてる」 劉が顔を上げる。「P-15を“出す”前振りかもしれない。港内から防波の影を使って外へ出す」 マクレーンは即答した。「ロケット式チャフ、ポイント投入。——米DD、座標射撃準備。日本艦は煙と遮蔽を続けろ」
06:41。短い放物線が幾本も空に縫い取られ、帯状の金属雲が“壁”を増やす。米駆逐艦は方位084°/距離2,200ydに3発を段射、劉の“屋根線”に合わせて修正2回。防波内側に黒い塵がふっと盛り上がり、すぐ風に溶ける。 ケリーが紙を破る。「濁り、消失。点灯しきれない」 「いい。時間を奪えている」マクレーンは声を低くする。「臨時サイトは繰り返し生える。——根を張らせるな」
06:45。A-3の先で歩兵が塀越しに身を低くし、路地へ白布の矢印を結わえる。LVTは半クラッチで角を曲がり、砂から土へ音が変わる。 「列を太く——維持」 隊長の声に合わせ、後続の小隊が間隔を詰める。被弾で列が切れても、幅があれば流れは生きる。古いが、今の戦場で一番新しい知恵だ。
06:49。CLGの見張りが声を上げる。「真方位026°、中高度、距離34nm——増速」 「Terrier、ひと息だけ準備」 箱が静かに角度を変え、CICの空気がわずかに重くなる。マクレーンは自分の指が机の角を叩いているのに気づいて、やめた。 F-8C/Dが前へ出て、雲の縁で敵を脅かす。中高度の点は進路を変え、海から離れる。 「撃たずに済んだ」副官が息を吐く。 「それが最善だ」マクレーンは頷く。「砲は浜の上に残す」
06:52。DDEが内側線の端に沿って浅い弧を描く。「曳航、軽く当たる。障害物、針路092°側に偏り」 「タグ、聴いてるか」木原が艦橋のマイクに口を寄せる。「H+04:00、進入予行。085°基準、タグは手前で左10°。白色灯と屋根線を合わせろ」 受話器の向こうで、港湾パイロットの声が短く笑った。「楊 文斌、了解。外の白い“雨”がやみ次第、乗り込む」
06:56。浜の左方、低い家並みから白い線が走った。 「P-15の“暖機”、再」劉が眉間に皺を寄せる。 「斜角盾」マクレーンは即座に告げる。「CLG、DD、わずかに回頭。RCSを絞れ」 艦の姿勢がほんの少し変わり、横腹の平面が角に化ける。見かけの面積は小さく、海面の乱れも少し整う。 「座標、更新」劉のペンが踊る。「方位090°、距離2,450yd——椰子二本目、風に揺れる。修正必要」 米駆逐艦が段射を一段増やし、4発目で砂の壁を叩き崩す。 ケリーが頷く。「濁り、小さく点滅。合わせ切れてない」 「続行」マクレーンの声は平坦だ。「敵に“判断の時間”を与えるな」
07:02。A-3の背後に、木杭で囲った四角が2つ増えた。片方は“帰路”の標識、片方は“救護”。工兵の手袋は砂で硬くなり、指が動かしづらい。 LSTの陰で、若い海兵がゴーグルを額にずらし、喉を鳴らす。「まだ夜だと思ってた」 先任が笑いもせず頷く。「夜の手順のままやれ。——朝に油断するな」
07:06。S-2が外側線でかすかな反応を拾う。「方位039°、20nm——点滅、消失」 「餌だろう」ケリーが紙を丸めた。「向こうも焦ってる」 「焦っているのは双方同じだ」マクレーンは短く言う。「だが手順が勝つ」
07:10。CLGの観測員。「真方位354°、高高度、距離41nm」 「Terrier、固定のまま。——F-8C/D、北を刈れ。刃を見せて戻れ」 甲板の上で補給士官ルース・ハドリーが帳面を閉じる。「JP、H+04:00以降にピッチ上。弾薬、対空優先、対地は座標のみ継続。削り貸しは——まだ凍結」 「続けろ」マクレーンは答え、指で紙図の角を軽く押さえた。角が、湿気でやわらかい。
07:14。浜の向こうで、白い布が一枚、風に躍った。A-3の幅は22ydへ。B-1は12yd。 工兵が声を張る。「C-2、仮開設! 銃座に沿って半幅!」 列がさらに太り、兵の流れが分かれてまた合流する。砂に描かれた矢印は増え、杭の白が点々と続く。
07:18。S-2の声色が変わる。「内側線、方位089°、2.4nm——固定目標、強い反応」 劉のペンが止まる。「——来た。P-15、臨時サイト確定」 CICの空気が1秒だけ硬直し、次の瞬間には音が戻った。 「米DD、対地座標射撃、許可。——日本艦、遮蔽の維持。CLG、中層の穴を塞げ。F-8C/D、南縁に圧を残しながら外へ押せ」 命令は短い階段になって落ちる。 「座標、方位089°、距離2,300yd。屋根線と外桟橋白色灯で合わせ。——修正2回で着」劉が続ける。 最初の弾が土を叩き、2発目が壁の根を崩し、3発目で黒い塵が防波の向こうへ噴いた。 ケリーが息を飲む。「濁り、消滅。——火管、落ちた」 「よし」マクレーンは短く言う。「“今”を渡すな。次を先に取る」
07:22。内層の“砲窓”が一度だけ濃く咲き、小型艇の白波を2本折った。S-2が静かに読み上げる。「内側線、2目標消滅、残り回頭」 「追うな。回頭させたら十分だ」
07:26。港の裏手の路地から、子どもの泣き声が一度だけ聞こえ、すぐに消える。歩兵が手を振って路地を塞ぎ、白布の矢印を別の角へ付け替えた。 張 文斌は仮設灯の台座を蹴って埃を払い、額の汗を袖で拭った。「最初のタグ、動かす」 木原が頷く。「楊、出番だ。——針路085°、屋根線で外すな」
07:30。タグが低い唸りで桟橋を離れ、白い息を引きずる。楊 文斌は膝をゆるく開き、舵輪に手を置く。「真方位085°——灯と屋根を結べ」 海面には薄い白い雨が漂う。チャフは朝風に解け、ところどころで“夜”の名残を作る。 DDEは“斜角盾”の姿勢を保ち、CLGは中層の穴を埋める位置で待つ。F-8C/Dは南の縁で刃を返し、S-2は2本の点線を新しい紙に写し直す。 「H+02:20、通路は保たれている」オペレーターが静かに言った。
07:34。タグの艫に仮設の白色灯が見え、外桟橋の根元で小さな人影が手を振る。屋根線はまっすぐで、椰子は二本、風に同じ方向へ揺れている。 楊は舵をほんの少しだけ左に入れ、戻す。「良し」 彼の背後で、若い甲板員が小さく祈った。「今日は潮が優しい」 楊は振り向かない。「潮に優しくしてもらう手順は、もうやった」
07:38。CICで、マクレーンは時計のガラスに映る光を指で遮る。 「H+02:30、A-3の幅を24ydに。B-1は12yd維持、C-2は半幅でいい。——第2波を重ね、港の喉へ移る」 声に余計な力はない。だが、その平坦さが、場の呼吸をひとつにする。
07:40。朝は完全に立ち上がり、砂の網目は濃く、海は薄い青に戻った。 白い“雨”はゆっくり消える。だが、手順はまだ夜の慎重さを保っている。タグの汽笛が一度、短く鳴り、港の喉が、初めて今日の音で震えた。 その奥で、誰かが紙図の角をもう一度押さえる。——次の1分も、その次の1分も、渡さないために。
読了ありがとうございます。幻彗(gensui)です。
今回はP-15短落の論理(斜角盾/チャフ/最小座標)と、幅=生存率の管理を芯に置きました。
方位3桁°/時刻4桁/距離ydの数式めいた数値列で気づきがあればコメントへ。
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次回#12-4はPoD進入予行へ——白色灯と屋根線085°を結び、A-3は24→30yd、港の喉で“次の1分”を先に取ります。
次回更新は、明日 12:00 頃(JST)に公開予定。




