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鳳凰作戦(台湾南部の橋頭堡)/Operation PHOENIX #12-2

H+00:05からの1時間。通路は“太さ”で生き残ります。

S-2の二重線で“窓”を閉じ、タグは屋根線085°へ。日本艦は煙と遮蔽、米艦は最小座標射撃。

P-15の“芽”を斜角盾でやり過ごし、次の1分を先に取るまでをご一緒に。

【場所:台湾南部 東港—高雄外港アプローチ 時間:1961-07-05 05:15–06:20 TST(JST)】


 砂が軋む。第1波の履帯が浜を抜け、工兵が杭列にナンバーを振っていく。「A-3、生存。B-1、切断。B-2、深い——残せ」  潮は緩いが、ワイヤの芯が潮で硬化している。ニッパーの刃を変え、二人が左右から引っ張る。「列を太く」の号令で、隊列は縦から幅へ変形した。弾が飛べば穴は開く。だが幅で押せば、流れが止まらない。  後方のLSTが、煙幕の白を重ねる。風向100°、風速は12ktのまま。チャフの金属片が小雨のように落ち続け、海は縞のように暗く明るく変わった。


 05:18。CVSのS-2が内側線を舐めて旋回する。ピンガーの刻む点がCICの透明シートに新しい点線を刻み、オペレーターが読み上げる。「内側線、方位212°、低速1目標。速度4kt——底を擦ってる」  「曳航潜堤かもしれない」劉 航が顎に手を当てる。「浅い。波で自壊する」  マクレーンは頷き、内層へ短く送る。「注意するだけでいい。砲は浜の上を気持ち高めろ。——味方の頭上を通せ」


 05:20。CLGの砲術士が方位線を更新し、Terrierの発射箱は黙ったまま。外層のBARCAPは北面を押さえ、南の縁を浅く舐めるだけにする。敵のH-5が散発に現れては消え、J-6の2機編隊が雲の襞に身を預けた。  「撃てるが撃たない、を続けるのは難しいな」副官が呟く。  「弾は通貨だ」マクレーンは短く返す。「必要なものにしか払うな」


 浜の背後で乾いた爆ぜ音。工兵のひとりが手を挙げ、親指を立てる。「雷管だけ。中身は砂」  「偽装障害、通す」  紙図に赤鉛筆で一本、浜から内陸へ細い線が引かれる。A-3レーン確定、幅12yd。B-2は杭を残し、中央から回り込む。  「タグの準備は?」  「H+04:00から進入予行。外桟橋の白色灯、仮設完了」張 文斌が答え、汗で滑る額を袖で拭った。「針路085°、屋根線でずれません」


 05:28。S-2から新しい報告。「外側線、方位038°、12nm——反応速い、120kt」  CICの空気が一瞬硬くなる。  「小型機か、対艦ボートの高速牽引か」アダム・ケリーは受信紙を睨む。「敵送信、周波数に“濁り”増加。多分、臨時の火管レーダ——」  劉が顔を上げた。「P-15のサイトを“出す”準備かもしれない。港内から外に出れば、こちらの海面に射線が通る」  「どの窓だ」  「東の防波内側。タグの影から出す」  マクレーンは即座に切り替える。「ロケット式チャフ、ポイント投入。座標射撃は米駆逐艦のみ、準備。——日本艦は煙と遮蔽を続けろ」


 05:31。短い放物線がいくつも空に綴られる。金属雲が重なって“壁”になり、陸の影に向けて二条の白い煙が突っ込んだ——米駆逐艦の対地座標射撃だ。劉の“屋根線”が実線に変わる。「方位084°、距離1,900yd、2発修正、3発目で着」  防波の向こうに黒い塵がわずかに盛り上がり、すぐに風に解ける。  「電波、落ちた」ケリーが紙を破る。「火管レーダの“濁り”消失。次の変調へ切替の兆候なし」  「よし。——だが“ここ”で終わりではない」マクレーンは声を落とす。「臨時サイトは何度でも生える」


 05:36。内陸の家並みに日が差し始めた。屋根瓦が金色に錆びたように光り、浜の影が短くなる。  「A-3、通路確保! B-1、半幅で通す!」  工兵の掛け声に、LVTの履帯が泥を跳ねる。歩兵は膝を伸ばし、砂の抵抗を正面から受け止める。遠くで3in/50が短く吠え、小型艇の白波が沈む。  木原信隆は双眼鏡を下げ、LSTの艦橋に立った。「煙幕、持つか?」  機関科の兵が笑う。「風が味方してます。あと20分は壁になります」  「十分だ」木原は時計を見る。「H+00:30までに“幅”を保て」


 05:40。CLGの観測員が上空の光斑を拾う。「真方位012°、高高度、距離48nm」  「Terrier、待機——固定」  F-8C/Dが上に引き抜き、雲の肩へ切り込み、すぐ戻る。応答が薄い。敵の高高度は照準が甘い。ここで弾を使う理由はない。  「S-2、外側線維持。——タグ隊、出番まで機関を抱け」  CICの赤い光に、アダム・ケリーの横顔が固く浮かぶ。「窓、まだ開いている。敵の文書体が荒れてる。勤務交代をやり損ねたまま動いてる感触」


 05:48。浜の背後で乾いた“カン”という音。工兵のひとりが手を挙げる。杭の先に鉄帽を叩いて合図しただけだった。「終わりだ」  A-3レーンの幅が18ydまで広がり、B-1が10ydで確保される。履帯の列がそこへ流れ込み、歩兵が左右の瓦礫へ散っていく。  「列を太く、維持」——指揮官の声が返る前に、次の命令が重なる。「仮設の交差点を作れ。戻る道も作れ」  砂に木杭とロープで四角が描かれ、白い布で矢印が縫い付けられた。工兵の腰から汗が落ち、砂に暗い円を作る。


 05:52。外港の方角から、低い唸り。敵の小型艇群が、チャフの裾を縫って接近してくる。 「砲窓、開け」  DDの射撃長は予め引いておいた“迎撃線”の上に照門を置く。距離は1,200ydまで引き付け、弾帯を短く、密に、間断なく。海面効果の芽を潰すように、最初の数秒だけを極端に濃く。  白い筋が2本走り、艇の前に水柱が噴く。3発目で舳先が折れ、4発目で舷側が潰れて、黒い点が海に崩れた。  「内側線、2目標消滅。3目標、回頭」S-2の報が続く。  「追うな」マクレーンは紙図の角を押さえる。「回頭させたら十分だ」


 05:57。浜の右手、低い民家の裏で、白い煙が線になって走った。  「P-15の“暖機”かもしれない」劉が眉をしかめる。  「CLG、姿勢“斜角盾”。DDも。RCSを絞れ」  艦がわずかに回頭し、正対を避ける。横腹を晒すよりも、角を立てて見かけの面積を減らす。  「座標射撃、準備」  劉のペンが走る。「方位089°、距離2,300yd——屋根線、椰子二本、揃った」  米駆逐艦が3発を段射でずらす。2発が陸の土を叩き、3発目が防波の内側に落ちた。  ケリーの声が落ちる。「周波数の“濁り”、断続。点灯しきれない」  「いい。——時間を奪えている」


 06:04。東港の空が薄青になり、チャフの白が灰色に変わる。  木原がLSTの艦橋で腕を組む。「煙、あと十」  「十分でいい」マクレーンは短く返す。「H+01:00までに第2波を重ねる。——TACC、A-3上空のCASを2分刻みで」  艦隊TACCのサラ・オニールが無線を押す。「了解。A-3の頭に“渋滞”を作らない。F-8C/Dは南縁に圧を残して回す」  「Terrier、中層の穴を埋めろ。撃つな、だが構えておけ」


 06:08。内陸から“コン”という軽い爆音。砂が少しだけ跳ねた。  「対人地雷、残り」工兵が手を振る。「処理中」  浜の左奥で、タグの機関が低く唸る。外桟橋の白色灯が朝の光で見えづらく、代わりに屋根の稜線がはっきりと針路を描いていた。  張 文斌が仮設灯の根元にしゃがみ、古い電線を握り直す。「あと一つ、灯る」  彼は顔を上げ、遠くの海を見た。白い壁がまだ薄く残っていて、その向こうに黒い点がいくつもあった。


 06:12。敵のJ-5が2機、低空で来た。  「内層、砲窓」  3in/50がひと呼吸だけ先に吠え、5in/38が追いかける。曳光が空を縫い、機の下を掠め、2機は横腹を見せた瞬間に失速し、急ぎ上へ逃げた。  「追わせるな」マクレーンはBARCAPの周波数へ声を落とす。「戻ってこさせるだけでいい」 F-8C/Dは雲の縁に刃を立てて見せ、敵は薄くなった朝の影へ溶けていく。


 06:15。CICに短い笑い声。「製氷工場、稼働」  電信の向こう側で、氷の塊が台車に乗せられ、救護所へ回り始めたという。氷は止血に、そして魚市場の初荷に。港の“基準音”が戻りつつある。  マクレーンは頷き、紙図に小さい丸をひとつ描く。「PoDの芯——ここだ」


 06:18。S-2から報。「外側線、静穏。内側線、方位196°、低速反応ひとつ——消滅」  CLGの観測員が上空を見上げる。「高高度、反応なし」  「いい」マクレーンはCICの赤い光の下で、声を落とした。「H+01:00で第2波投入。A-3に重ねて“幅”を太らせる。——鎮海線の材料が、やっと並び始めた」


 06:20。浜の砂はもう白く、足跡が濃い網目になっていた。工兵の手にはワイヤの切屑が絡み、歩兵の頬の汗は乾き始めている。チャフの名残が朝風に解けていく。  タグの汽笛が一度、短く鳴る。仮設灯が、残った薄闇の中で、最後のひとつを点した。  ——次の1分も、その次の1分も、渡さないために。


読了ありがとうございます。幻彗(gensui)です。

今回は通路の維持=幅の管理と、撃たない抑止を軸に描きました。

用語や視界の描き方(砲窓/斜角盾/屋根線085°の見え方)に気づきがあればぜひコメントで。

面白ければブクマと評価(☆☆☆☆☆)で応援を。

次回#12-3は港の“喉”へ——タグが白色灯と屋根線を結び、幅24ydで第2波を重ねにいきます。

次回更新は、明日 12:00 頃(JST)に公開予定。

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