沖縄海戦(Three-Layer Shield)#09-3
#9-3は指揮所(CIC)と砲側、そして病院船。
Terrier/Talosの“壁”に砲窓の“面”を噛ませ、上空CAPの蓋と同期させます。
【場所:沖縄本島東方〜宮古・久米島海面 時間:1961-06-27 04:40 JST】
艦橋のガラスは塩で曇り、真鍮の枠が朝日に鈍く光っていた。米ミサイル巡洋艦の戦闘指揮所では、3本の鉛筆線が重なる。外層は戦闘機、ここは中層、そして海の表面に近いところで、日本の駆逐艦が“窓”を構えている。
「後続、低空2。真078°、レンジ34nm。Talosは危険域、Terrierで行く」
「Terrier 2連続、目標分離。チャネル1・3使用」
管制の声は乾いている。装填員の手は速い。金属音が2度、甲板を通じて腹に落ちた。白い尾が空に刺さり、離れていく。指揮所の空気は湿っているのに、喉だけが乾く。
「命中1、外し1。上からCAPに入る」
上空の影が交差し、H-5の形が崩れる。指揮所の端で、砲術士官が海図を覗き込む。
「日本側から座標。前進サイト、岩礁北側、台船1。CA、用意」
別の艦の砲声が、地面のない地面を震わせる。茶色い水が泡立ち、台船の角が1回だけ現れて、すぐに消えた。
「対地効果確認。日本側、護衛継続」
短い承認。規則を守るための手順は、砲煙よりも淡い。だが、その淡さが列を生かす。
「あやなみ」の砲塔は温かい鉄の匂いがした。砲側員の指先は黒く、汗で重くなった手袋が鳴る。
「砲窓、第1 真075°維持、第2 真082°。VT続行」
「了解」
照準器の線が水平線に重なり、揺れの頂点を掴む。弾が出るたび、甲板が拳のように上下する。
「3番、散弾、海面起こせ」
濃い煙が、潮の匂いを押し返す。破片が雨のように落ち、波がざわめく。低い矢がそこで脚を取られる。
「至近、タンカー1。被害軽微、続航」
その報告の向こうで、誰かが短く息を吐いた。見ないふりを続けることでしか、列は前に進めない。
「チャフ、間欠。回頭角2°、維持」
ロケット式チャフの帯が発射筒から吐き出され、風に割かれて上昇気流に乗り、列の上を流れた。駆逐艦のマストをかすめ、補給船の煙突を越え、数分かけて白い船腹へ落ちる。
〈ALL SHIPS THIS NET〉
〈医療区画へ:擦過傷2、歩行可。病院船への移送予定なし。隔離室 空き1〉
〈こちら病院船:受領。甲板診療を継続。列は太く、針路 真075°〉
無線のやり取りが一拍遅れて甲板の隅々へ染みる。砲側の耳にも、同じ文言が届く。戦闘の言葉と医療の言葉が、同じネットの上で重なる。
病院船の甲板は、塗り直したばかりの白が夏の匂いを持っていた。看護婦の山田は、紙コップに薄いコーヒーを注ぎ、甲板の手すりに並べる。遠くで音が重なり、すぐに薄くなる。
「怖い?」と聞かれて、彼女は首を横に振った。怖いのは、音が遠くなりすぎることだ。音が近い間は、誰かが仕事をしている。
コップを受け取った少年が、空から落ちてきた銀色を拾う。細い帯は軽く、すぐに風を掴む。
「なにそれ」
「雨。銀の」
少年は笑った。彼の言葉は、嘘ではなかった。雨は上から降るだけではない。横からも、下からも、時には人の手からも降る。
放送が鳴る。短い指示、短い感謝。船は列から外れ、ゆっくりと港の方へ頭を向ける。白い建屋が近づき、赤い印が揺れる。
甲板の端で、山田は空を見上げる。1つ、2つ、遠い光が消えた。音はもう小さい。誰かの仕事が、別の海へ移ったのだ。
「次は?」
誰にともなく、彼女は呟く。風は答えない。だが無線の向こうでは、もう次の名が呼ばれている。冷たい海の名だ。
TRIDENT。
読了ありがとうございます。幻彗(gensui)です。
中層の切り取りと砲窓の面受け、そして白い甲板――三層の役割分担を描きました。
表記(JST/真方位3桁+°/距離=nm・yd)や用語(VT=近接信管、3-inch/50、Terrier/Talos)で気づきがあればコメントでぜひ。
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次はAARと改善策の#9-4へ。
次回更新は、明日 00:00 頃(JST)に公開予定。




