沖縄海戦(Three-Layer Shield)#09-2
空側視点の#9-2。
CAP(直衛)が“蓋”となり、Terrier/Talosの壁、下の砲窓の“面”と噛み合います。
J-6の牽制をいなしつつH-5の形を崩す、角度と影の使い方がテーマ。
【場所:沖縄本島東方〜宮古・久米島海面 時間:1961-06-27 04:40 JST】
太陽の縁が海から外れる前、編隊は持ち場へ。巡航150kt、天蓋の向こうで副翼が微かに震え、F-8Dの鼻先は真075°を指している。無線は短い英語と短い日本語が交じる。どちらも要らない飾りを落として、温度だけが残る言葉だ。
〈レーダーピケット→CAP:低高度群、レンジ70nm、真083°、速度高〉
「Lancer 1、了解。下降、エンゲージ」
海面は鉛色の紙のように平らだ。そこへ、黒い点が4つ、5つ、やがて尾を引く。H-5の編隊が波頭を噛む高さで来る。さらにその上、細い針のようなJ-6が2機、こちらを横目で刺してくる。
「サイドワインダー、ウォーム」
翼端の冷たい箱が鳴る。機は200ktに乗り、陽の出際で影が濃くなる。正面を避けて、編隊の横腹に回り込む。ここは海だ。山の影はない。影は自分で作る。
前を行くH-5が、爆弾倉を開く。腹の線がふくらみ、光が一瞬だけ金属を撫でる。照準に入った瞬間、J-6が牙を見せて降りてきた。
「反転、逆ロール、引け」
体が椅子に押し付けられ、視界の端で太陽が転がる。J-6の機首が行き過ぎ、こちらの背後が風切り音で裂ける。もう一度ロールして、J-6の噛み跡を外す。
〈Terrier発射、注意、上空交錯〉
遠い空で白い線が立った。米巡洋艦の中層が、こちらのさらに上の空を切り取っていく。そこが“壁”で、こちらは“蓋”だ。三層の境目に、いま自分が乗っている。
「Lancer 1、2時方向、低い、H-5、離脱中」
相棒の声が落ち着いている。機を傾け、太陽を背にして降りる。海が近づき、計器が速くなる。翼端の鳴きが硬くなった瞬間、赤い点滅が耳に噛みつく。
「発射」
短いキック。白い軌跡が海と機の間に弧を描き、H-5の尾に噛みつく。黒い煙が薄く伸び、編隊がほどける。
追いすがるJ-6が、こちらの下に沈む。反転、軽く引いて、照準に過不足なく収める。撃たない。射線の先に船団がいる。ここでは無駄な弾を使わない。
〈P-15発射光、真090°、レンジ不明。船団回頭、チャフ散布〉
無線が日本語になり、すぐ英語が重なる。機の影が海面を滑る。下では白い帯が走り、煙幕が指の線みたいに伸びていく。
「Lancer 2、カバー入る。H-5後続2、北から再進入」
「了解、上がる。速度維持、陽を背に」
鼻先を陽の方向へ軽く持ち上げる。J-6は高い位置でまだ粘っている。サイドワインダーは1本。距離はある。ならば、噛みつくふりをして、H-5の形を崩せばいい。
機を翻して、J-6の前を横切る。相手が反応した一拍で、H-5の編隊がほんの少し上を向く。そこを、巡洋艦の白い爪がさらっていく。
〈Talos発射。上空危険域、1,000yd上昇〉
「上げる」
Gが背骨を押し、胸がつかえる。空は薄く、海は硬い。波と雲の境い目に、点滅する光が1つ、2つ。H-5の尾が欠け、J-6がバンクを深くして退く。
「Lancer、燃料チェック」
「いける。あと1往復、CAP維持」
遠く、病院船の白が見える。赤い印が揺れ、その脇で小さな船が列の隙間に頭を入れる。銀の紙片が風に舞う。下の海の匂いは届かない。ただ、匂いのある世界を守るための熱だけが、手袋越しに伝わってくる。
無線が短く鳴る。
〈船団よりCAP、感謝。引き続き真075°、敵低空群は減衰〉
「こちらLancer、了解。上空監視継続」
機は東の薄明に鼻を向ける。まだ1枚、盾は残っている。下の“砲窓”が、こちらの上げた蓋にぴたりと合うまで、ここにいる。
読了ありがとうございます。幻彗(gensui)です。
#9-2は空から見た三層同期の回。陽の角度・横腹取り・一発の使いどころで“形”を崩し、下の層に渡しました。
初出語の補足は最小にしたつもりです。
(CAP=直衛、BARCAP=防空哨戒、Sidewinder=赤外線誘導AAM)
表記(JST/真方位3桁+°/速度kt)で気づきがあればコメントでぜひ。
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次は指揮所・砲側の#9-3へ。
次回更新は、明日 00:00 頃(JST)に公開予定。




