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龍門前夜(Eve of Dragon Gate)#06-5

CAP切れ直後の臼砲に対し、「列は細く」で“間”をくぐり抜けます。

Komarの反転チャフで偽帯を延命、沈はワイヤを+1目盛で支点確保。――時間と物理の一話です。

【場所:高雄湾口—仮桟橋前線/旗艦CIC—前進P-15台船 時間:1961-04-19 04:45 TST】


 04:47。仮桟橋前線で第一門の板が鳴り、靴音が黒い水の上で増えていく。砂背の肩に薄い光。海は灰を取り戻しつつある。

「第二梯隊、針路328°で最終接近。」CICで劉が告げる。

「列は細く、間隔保持。」張は繰り返し、送話器を置いた。短い言葉は強い。

 04:50。空でJ-6の影が薄くなる。CAPの窓が尽きる。

 その瞬間を待っていたように、林園側の暗がりが白くほどけた。臼砲の弾道が“間”を狙い、第一門と第二門の中間に水柱が突き立つ。

「間を断ちにきた。」ヤーコフが低く言う。

「列は細いまま押す。」張は即答した。「太らせれば、向こうの計算になる。」

 04:52。仮桟橋前線で沈が命じる。

「ワイヤ、+1目盛張れ。舷側にマット、板を濡らすな。」

 第二梯隊の舳先が波の呼吸に合わせて沈み、浮く。その合間に、金具が緩まず噛みつく位置を取った。岸の白柱が背で倒れ、塩卵の殻が甲板を軽く転がる。殻は蓋に戻され、油の匂いを押さえる。

 04:54。前進P-15台船で若い水兵がレーダーの端を見つめ、舌を噛む。

「方位030°、20.9nm……。」

「越距離は撃たない。」船長。

「……撃てます。」

「任務は拒止だ。数字を破れば、作戦が破れる。」

 風がわずかに変わり、錆びた手すりが冷たくなった。水兵は頷き、管制箱の蓋を閉じる。閉じたまま、忘れないために。

 04:56。CICで通信士が身を固くする。

「第二梯隊、仮桟橋へ——」紙片を握ったまま言葉が切れる。

 レーダーの端に細い棘。帯の向こうで迷っていた小さな光が、角度を変えてこちらへ寄る。

「哨戒艇、方位132°、速度上がらず。間へ差し込み。」劉が言う。

「Komarは回頭。4.5nmで反転、チャフ1で帯に重ねろ。砲戦は避ける。」張が命じる。

 命令は手で渡り、指の温度が紙に移る。温度は恐れより重い。

 04:58。仮桟橋前線で第二梯隊の舷側が噛みついた。鉄と木の乾いた悲鳴。

 沈は板の端に膝をつき、締具を叩く。

「第二門、確保。」

 背後で空気がざらつく。CAPはすでに閉じていた。最後の機影が薄明の中へ消えた。

05:00。CICで張が短く告げる。林園側の臼砲が“長”に振れ、白柱は列の外で崩れた。

「砲座の補正、速度鈍い。偽帯はまだ効いている。」劉が透明定規を外す。

「よし。」張は送話器を取る。「第一門・第二門、接続を維持。上陸隊は足場を広げ、砲戦を望むな。」

「夜は人民にも敵だと言ったが、今は味方だ。」陳玉蘭が肩を落とし、しかし口元は締まっていた。

「夜が味方をやめる前に、陸の時計に移る。」張は答える。


 05:03。前進P-15台船で若い水兵が息を飲む。

 「方位030°、20.2nm……目標、舷灯……味方。」

 船長はようやく笑った。短い、喉の奥だけの笑い。

「撃たないで通した。それでいい。」

 索の金具が低く鳴り、朝の色が甲板へ這い上がってきた。

05:05。仮桟橋前線で板を渡る靴音は増え続ける。人の列は細いまま、しかし確実に岸へ線を引く。遠くでH-5の黒い腹が雲に溶け、偽の帯は薄れていく。役目を終えた幻は潮に攫われた。

 沈は最後の締具に手を添え、指を離す。

 甲板の片隅、羅針盤の蓋に敷いた殻が朝の光を受けて鈍く光る。油の匂いは弱まり、土の匂いが勝ち始める。

 張は送話器に口を寄せ、短く言った。

「——龍門、第二門開く。」

 そして、自分だけに聞こえる声で、もう一度。

「目的は上陸。目的は上陸だ。」


読了ありがとうございます。幻彗(gensui)です。

#06-5は“CAP切れ下の接続戦”でした。

細い列=被覆面積の最小化と門間の空隙管理を軸に、臼砲の測距(短→長)をくぐっています。

表記(角度3桁/nm・yd/時刻4桁)や読みやすさの指摘をぜひ。

面白ければブクマ&評価(☆☆☆☆☆)で応援を。

次章は民間サイドへ――教室が地下へ降ります。

更新は、あさって9/10 00:00頃(JST)に公開予定(章が変わるので推敲してます)。

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