有名商人に、ホンモノとニセモノを交えて鑑定を頼んだら、見抜ける? 見抜けない? 準備編1
「女の子二人で買い出しが危ないのは分かるんだけどさ、その付き添いが俺でいいの? 元からのパーティーメンバーの方がやりやすいんじゃない?」
マチルダが大蛇の目を盗んで行ってから、二日が過ぎた。
彼女がどうしているかは、ネットを見ればすぐに情報が入ってくる。
民間人の多くはこちらの味方だ。さぞ動きづらいことだろう。
いまは、盗んだ大蛇の目の売り先を探しているようだ。
思ったような値段を付けてもらえず、査定して貰っては、売るのを拒否しているのだとか。
商人側も見たことのない品物だったら、そりゃあ価値がわからないに決まってる。
大蛇の目がどれくらいするのか知っているマチルダにとっては、そこらの商人がつける値段は許せないことだろう。
近いうちにでかいオークションが控えているから、そこでやらかすに違いない。だって、小道具に使った目は偽物だし。
ある意味で、マチルダが受けた査定は当たっているのだ。
本物そっくりの偽装をかけているから、彼女が憤慨するような値段をつける商人の目は節穴だけど、実際はその程度の価値もない。
マチルダは、なんの成果も得られず、ただ悪い意味で有名になっただけ。
そこに同情は覚えるも、やったことがことなので、申し訳ないとは思わない。
顔が割れていてやりにくいだろうが、これに懲りたら真っ当に生きて欲しいと思う。
しかし、有名になったのはあちらさんだけではない。
あの配信もかなり拡散され、街中で声をかけられることも増えて来た。
それなのに、クレール・ロマリアのメンバーと来たら、クレアとシローネの女子二人だけで買い出しに行かせようとするものだから、待ったをかけたのだ。
曰く、買い出しはいつもこの二人の仕事らしく。
男二人はなんの疑問も持たず、送り出そうとしていた。
いくら実力派パーティーのメンバーとはいえ、クレアとシローネは女性である。
ただでさえ、コアな人気をほこっていたのだ。
それが配信によって、爆発的に露出が増え、あまり機能していなかったファンクラブにはどかんと人が増えた。
だが、人気になればリスクがつきまとう。
なにか卑劣な手段で誘拐される可能性もあるし、闇ギルドの怪しげな依頼を、実力者が引き受けないとも言い切れない。
二人はシーフと僧侶で、どちらかと言えばサポート職に分類される。
超高難易度ダンジョンに潜れるくらいなので、攻撃が全くできないわけではないが、やはり本職のアタッカーには劣るだろう。
彼女らより強い人間だっているだろうから、万が一を考えると、彼女ら二人だけで買い出しに行かせるのは危険なのだ。
それなのに、男二人はついて行こうともしない。
パーティーの歪な構図に口出しすると、返って来たのは意外な言葉だった。
「あの二人はダメです。まともに買い物ができないので」
「まともに買い物ができない?」
クレアの言葉におうむ返しすると、彼女はわかりやすく説明してくれた。
「ロイドは商人の口車に乗せられて、いつも余計なものを買うんです。止めても聞きっこないので、つれていくのをやめました。ダグラスはふらっといなくなったと思ったら、必要ないものを買って来て、持たせたお金を空にするんです。まだ必要なものを買っていないのにそういうことをするので、あの二人には買い出し禁止令を出しました」
なるほど。思っていたよりろくでもない理由だったな。
そりゃあ女子だけで行くわけだ。
とはいえ、二人だけでは危ないのも事実。
これからは俺もついていくことにしよう。
「理由はわかったけど、やっぱり女の子二人じゃ危ないよ。今度からは俺もついていくから、必ず声かけて。……あぁ、隣を歩かれるのが嫌だったら、影から見守るから、遠慮なく言ってくれ」
「別に嫌じゃないですけど、なんで別行動しようとするんですか? もしかして、なにかやましいことでも?」
クレアからじとっとした目をむけられたので、慌てて弁明する。
「ちがうちがう。周りを見れば分かる通り、俺を妬みの目で見ている人がいるんだよ。俺は、美女二人を侍らせるハーレム男だと思われてるんだ。俺のハーレムメンバーみたいに見られるなんて、そんなの嫌だろう?」
「私は周りからどう思われても構いません。むしろ、私たちを侍らせていると思われるのが、賢者様は嫌なんですか? 私、そんなに魅力ないですか?」
むっとした顔をするクレアを刺激しないよう、玉虫色の言葉ではぐらかす。
「君らに好かれて嫌な男なんて、この世にいないんじゃないか? 羨ましそうな目で俺を見てくるくらいだし」
「いまは世の中の男性ではなく、賢者様の所感を聞いてるんですよ? 賢者様的に、私はアリなんですか? ナシなんですか?」
なんだこの子。今日はぐいぐいくるな。
かわいい子にこんなに迫られて、嬉しくないわけがないだろう。
普通なら、だけどな。
神様チートのせいというか、おかげというか。
俺はこの世界に来て、すでに百年以上生きていると判明した。
つまり、彼女らとは百歳近く違うわけだ。
目の保養にはなるけれど、孫をこえてひ孫でもおかしくないような年齢の子を捕まえて、恋愛対象として見るのは無理だ。
いや、無理なことはないけど、あちらに申し訳が立たない。
「そりゃクレアはかわいいと思うけど、百歳は離れているんだよ? そっちからすれば生理的に無理だろう?」
「賢者様は見た目が若いですし、話していてもそんなに歳を重ねているとは思えません。なにより、賢者様は私の命の恩人です。ご要望とあらば、私は全てを差し出す覚悟です」
なんかすごいことを言われた気がするけど、正直それどころではない。
「話していてもそんなに歳を重ねているとは思えない……?」
俺ってそんなに幼く見えるんだろうか……?
年甲斐もなくショックを受けていると、予想していた反応と違ったのか、クレアが慌て出した。
「あ、ちがっ、そうではなくてですね! 実際過ごしたであろう年月より若く見えるってだけですよ! 見た目相応なので、むしろプラスです!」
「見た目相応……俺、学生くらいの年齢で見た目止まってるんだけど……」
俺、そんなに子供っぽいかな……?
あまりにも落ち込んでいたからか、調子が狂ったクレアは勢い任せに妙なことを口走った。
「そ、そんなことより、私、結構勇気出したんですけど!? そっちはスルーですか!?」
なんだっけ。命を救ってくれた恩返しだっけ。
と、言ってもなぁ……。
「実質ひ孫みたいなものだしなぁ……そういう目で見るのは憚られるというか……そんな無理して尽くそうとしなくてもいいよ。かわいいんだし、他に引く手は数多だろう」
そう告げると、クレアは打ちひしがれたような顔をして固まった。
固まるクレアを見てくすくす笑ったシローネは、今のやりとりを見ていたはずなのに、変なことを言って来た。
「私は? 私にはかわいいと言ってくださらないのです?」
「シローネもかわいいよ」
「それはどのような意味で?」
「じじいが孫やひ孫を見るようなかわいさかなあ。まぁ、子孫なんていないけどな」
「では、こんなことをしても、女としては見られない、と?」
そう言って、俺の腕を抱き寄せるシローネ。
彼女の体型でそんなことをすれば、俺の腕は必然的に柔らかいものに包まれることになる。それがわからないシローネではないだろうから、自覚的にやっているんだろう。
さすがに咎めようと口を開こうとする前に、復帰したクレアがシローネを引き剥がした。
「もう! シローネのむっつりスケベ! そうする事情は知っていますけど、いくらなんでもがっつき過ぎです!」
「賢者様をとられそうになったからって、そこまで必死になるなんて。クレアさんったら可愛いんだから」
「そんなんじゃありませんよ! ふざけてないで行きますよ!」
一人で先に進みそうな勢いで、俺の腕を引っ張って進むクレア。
このまま二人にしておくと良くないという判断なのだろうが、急に引っ張られると転びそうになる。
「そんなに引っ張らなくても、いなくならないって」
「シローネと二人きりはダメなんです! この子より強い賢者様は絶対に!」
「それはどういう……」
疑問を呈するも、クレアは答えてくれずに引っ張ってくる。あとに続くシローネも、微笑みをたたえたまま、沈黙していた。
結局疑問に答える声はなく。
深く踏み込んで聞こうとしたその時、外野から騒がしい声が聞こえた。




