石にされたはずの仲間そっくりの石像を持ってこられたら、その仲間たちは気づく? 気づかない? ざまぁ編4
諦めムードが漂い始めた中、賢者様はメンバーに告げます。
「……そうだな。金貨5000枚でいい。さっき売った時にそれくらいだったからな」
「それは……随分足元見られたのね」
マチルダの目がぎらりと光ったのを私は見逃しませんでしたが、他のメンバーは気が付かなかった様子。
勘が良いものの世間に疎いダグラスは、馬鹿正直にマチルダに尋ねました。
「安いのか?」
「私たちのパーティー資金に個人資金を合わせたら、ギリギリ買えるくらいの額よ? 明らかに釣り合ってないわ」
マチルダの説明に、賢者様が口を挟みます。
「まぁこちらとしては、しばらく生きていく分になればいいからな。別のところで売った以上の値段をふっかけるつもりはない」
嘘です。パーティーの帳簿は私が管理していたので、共有の資金と、各メンバーの所持金は把握しています。
なので、ギリギリ買える値段設定をして、本当に買うのか、観察しようということです。売ったことにした大蛇の目は私の解呪に使われているので、存在しない相場に踊らされているというとになります。
これを視聴者さんに伝えると、反応は別れました。
:なるほどね。これでクレアちゃんを大切に思っているメンバーがわかるってことか
:ほんと嫌らしい女
:初見だけど人の本性が暴かれていく様が見ててわくわくする
こちらで盛り上がっている間にも、場は進行していきます。
まず反応したのはシローネです。
「買いましょう。これでクレアさんが戻るなら安いものです」
「一文無しになるのはちときついが、クレアがいないまま冒険する方がリスクあるしな。手が取れた事故がどう影響するかは分からんが……まぁ後遺症が残るなら治癒して貰えばいい。今回は身の丈に合わない難易度のダンジョンに突っ込んだ授業料として、必要経費だろうな」
ダグラスも、理由は合理性に偏ったものですが、私を戻すにことに賛成のようです。
「あぁ。なら決まりだな。クレアを戻そう」
私を好いているロイドも当然賛成。しかし、マチルダだけが、妙な言い回しをしました。
「そうね。相場より安いのなら、買わない以外の選択肢はないわね」
一人だけ、私を戻すとは言っていません。
その違和感に気がついたのは、視聴者さんでも極少数。
リーダーであるロイドが話をつけて目を受け取ると、マチルダが口を挟みました。
「待ちなさい。目を手に入れても、クレアに使うのは反対だわ」
「……何を言っているんだ?」
「考えてもみなさいよ。国の金庫を空にするほどのアイテムなのよ? それを売れば、クレアより優秀な人員が何人も雇えるわ」
あまりの内容に、メンバーは空いた口が塞がらないようです。
唯一、賢者様だけはお見通しのようでした。
「もう売ったものだから好きにしてもいいけどさ。やっぱり、あんたは話に聞いていた通りの……いてっ」
このバカ賢者様!
いくら事前情報があるからって、それは失言でしょう。
私の石投げに反応して、ロイドが賢者様を気遣いました。
「どうされましたか?」
「いや、久しぶりに地上に出たから身体がつったみたいだ」
「俺としては、その話を誰に聞いたのかが気になるところだがな」
あー。これはもう何か察してますね。
ロイドだけならまだしも、勘の良いダグラスのいるところでそんなこと言ったら、バレるに決まっています。
……投石した私も悪いのでしょうけど、止めないとダメな場面でしたので仕方ないでしょう。
あいも変わらず口だけは回る賢者様は、言い訳を述べました。
「噂で聞いたんだよ。彼女は合理で動く、感情を考慮しない魔女だって」
「好きにいってくれて構わないわ。どう言われたって、私の方が理にかなってるもの」
マチルダが意見を押し通そうとすると、シローネが感情的に噛み付きました。
「そんな! クレアさんはどうするんですか!?」
「仕方ないけど、諦めるしかないわね。その方がパーティーにとって利益になるもの。手が折れたことがどう影響するかもわからないしね」
「手を折ったのはあなたじゃないですか! それに、純粋な利益で測っていいことではないでしょう!? クレアさんは仲間なんですよ! 彼女を見捨てたらパーティー内での信頼が損なわれますし、なにより私が嫌です! 絶対に戻します!」
シローネ……。やっぱり、あなたは大事な友達です。
そんな彼女を騙すのは心が痛みますが、まだ出ていくことはできません。
しかし、どうやら私の企みを見抜いている人もいるようで。
「クレアより優秀ねぇ……本当にそんなやつがいるのかね」
ダグラスはこちらを見て、呆れるように言いました。
カメラと目線がバッチリあって、コメントも沸き立ちます。
:これ気づいてね?
:ダグラス以外はまだみたいだが
:やっぱり野生児だよこいつ
やっぱり彼は騙せませんでしたか。
これからどういう動きをするかはわかりませんが、進行の妨害だけはしないでくれると助かりますね。
そんなことを考えていると、ダグラスはロイドに話を振りました。
「とにかく、俺も戻すのに賛成だ。信用を落としたくないからな」
明らかにこちらを意識したような物言いですが、戻すには賛成のようです。
これで3対1。
パーティー内での意見は戻す方に偏っているからか、ロイドは強気に言い放ちました。
「できれば満場一致が良かったのだが、ほとんどの者が戻したがっている。ここは折れてくれないか、マチルダ」
「仕方ないわね。でも、戻し方は知ってるの?」
「それは……知らないが……賢者様が知っているのではないか?」
「わざわざ手を煩わせなくても私が知っているのだけどね。任せてちょうだい。私が戻すから。それに、折れた手も修復しないといけないしね」
タイミングを逃して未だに石像の手と握手していたマチルダは、空いている手をロイドに差し出しました。
目をよこせと言うことなのでしょう。
ロイドはマチルダの言葉を信じて、疑いもせずに渡しました。
唯一ダグラスだけは、興味深そうな目で観察していました。
そして、マチルダの手にヴェノムチェイサーの目が渡った瞬間――。
「――あははっ。本当に渡すなんておまぬけさんね! こんな高価なもの、使うわけないでしょう? それじゃあ私は、これを売ったお金で余生を過ごさせて貰うわね。あなたたちは、何が起こったかもわからず、仲間を失って失意に暮れなさい!」




