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石にされたはずの仲間そっくりの石像を持ってこられたら、その仲間たちは気づく? 気づかない? ざまぁ編2

 コメントに目を通しながら賢者様の後を追いかけていると、やがて目的地に辿り着きました。

 私たちが根城にしている一軒家です。

 皆がいることは私の探知魔法であらかじめ調べてありますし、ここならある程度騒がしくしても、他の人に聞かれることはありません。


 まぁ、私が全国配信しているので、近所にバレなかったからといって、何になるわけでもないのですけど。


 賢者様が扉をノックすると、少し間が空いてから、人が出てきました。

 剣士のロイドです。

 パーティーのリーダーでもある彼は、率先してメンバーが嫌がることをやってくれます。今回も皆の心境をおもんぱかって、客人の対応を買って出たのだと思います。

 まぁ、だからと言って、私が好意を持つかは別の話なのですけど。


 彼が私に恋慕を抱いていたせいで、マチルダの怒りを買ったのだと思えば、あまりいい気はしません。

 とはいえ、彼本人には関係ないことでしょう。

 ロイドに怒りをぶつけるのはお門違いなことは誰でもわかります。


 しかし、彼自身はそうではないのでしょう。

 なんでも背負い込む性格の彼は、やつれ気味な様子です。

 私を心配してのことなら、大変申し訳なくなってしまいますね。

 特にこれから起こることを考えれば、少しかわいそうな気もします。

 それは視聴者さんも同じなのか、同情するコメントが流れていきました。


 :うわ……あんなにやつれてかわいそう。クレアちゃんが石になったのが、よほどショックだったんだろうな

 :今すぐにでも顔を見せてやれよ

 :後でどんな顔するか楽しみだからまだ行かないで


 私たちをよく知っている視聴者さんは、早く無事を伝えろと急かしてきます。

 しかし、初見さんや否定的な方は、今の状況を楽しんでいる様子。

 良心に従うならすぐにでも出ていくべきなのですが、自分を慕ってくれる人のやつれた姿を見ただけで、別の人間の所業を許せるほど、私は心が広くありません。


 それにここでやめてしまうと、手伝ってくれた賢者様のお気遣いを無駄にしてしまいます。

 少し揺らぎましたが、ここは続行の一択。


「……ごめんなさい。可哀想だとは思いますが、まだ出ていくことはできません」


 :そんなに性格悪いとは思わなかったよ

 :ロイドがかわいそうすぎる

 :自分の目的のために人を食い物にするごうつくばり女


 案の定、コメントは大荒れ。それでも人は増えていくので、複雑な気持ちになります。

 こんな気持ちになるのなら、最初からやらなければよかったのでしょうか?

 後悔しても、事態は待ってくれません。

 そうこうしているうちに、ロイドと賢者様のやりとりが始まります。


「こんにちは。えーっと……重そうな荷物を背負っているということは、郵便かなにかですか?」

「あぁ、まぁ、はい。似たようなもんですね。あなたたちのパーティーに、忘れ物のお届けにまいりました」

「……忘れ物?」


 そんなものあったかなと訝しむ様子のロイドに、賢者様は私の石像を披露します。

 その瞬間、ロイドは驚きの声をあげました。


「クレア!? 無事だったのか!?」


 興奮するロイドに、賢者様はぼそっと呟きます。

 

「……いや、石になってるから無事ではないんじゃないかな」

 

 ぶふっ……

 とぼけたことを言う賢者様に、私は思わず吹き出してしまいました。

 隠密スキルが高レベルでなければ、危うくこの時点で計画が頓挫しているところです。

 賢者様のおとぼけっぷりは視聴者さんにも刺さったのか、荒れていた中に、好意的な意見が流れました。


 :この人ちょっとおもろいぞ

 :なんでみんな笑ってるの?

 :そうか、百年引きこもってたから感覚がおかしいんだ


 変なツッコミを賢者様がいれたせいで、ロイドのまとう空気が微妙なモノになります。


「いや、あの、確かにそうなんですが、あの流れだと大蛇になにかされると思ったので……それが無事に帰ってきて、驚いたんですよ」

「でも石のままだけど……?」

「それはそうなんですけどね? そういうことではないといいますか……」


 帰ってこないと思っていた仲間が石のままとは言え帰ってきたことに喜ぶロイドと、石像を持ってきただけで大喜びされたことに困惑する賢者様。

 あれは本物の私ではないという認識が強いせいか、余計にその気がありそうです。

 ロイドとしては、0だった希望が1になったのですから、ああして喜ぶのも無理はありません。

 大多数の視聴者さんはそれが分かっているからか、賢者様の様子がおかしく見えるのでしょう。


 一部、本当に意味がわかってない方もいらっしゃいますが。

 ……まぁ、そういう人もいるのでしょう。人間なんて沢山いますからね。全員が全員、同一の意見を持つわけではありません。


 微妙な空気を察した賢者様は、早速、次の段階に話を進めました。


「実は、石化の呪いを解く方法も持ってきたんだ。だから、石のままで喜ぶのがなんだかおかしくて」


 ……ちょっと保身が入ってませんか? 賢者様。

 自分の感覚おかしいわけじゃなくて、『あくまでそういう予備知識があったから変な反応をした』と言わんばかりの言い草です。


 取り繕う様子は視聴者さんにも見え透いていたのか、コメントが少し沸きました。


 :やっぱ好きだわこの人

 :賢者様と言えども人間なんだねえ

 :さっきから皆はなんで賑わってるの? 意味がわからん


 コメントが盛り上がってるのをもう少し眺めたいところですが、衝撃的なことを言われたロイドは、こちらの状況を待ってはくれません。


「戻る!? クレアが!?」

「あぁ。戻るよ」

「本当なんですか……? いや、そもそもあなたは誰なんでしょう? 深淵の穴ぐらは超高難易度ダンジョン。俺たちの他に、パーティーがいた様子もなかったんですけど――」


 ロイドの目には、疑りと期待が混じっていました。

 ただのホラ吹きじゃないかという懐疑が半分。

 残りの半分は……。


「――あそこに人間がいるとしたら、あのダンジョンに住む『冤罪の大賢者』様しかいないんです。失礼ですが、お名前をお伺いしても?」

「……人に名乗るのは久しぶりだが、以前はユウヤと呼ばれていた」


 隠しきれぬ期待。ロイドの目は、喜びで満たされました。

 

「……やはり! 冒険教本で見た通りの名だ! 本当におられたんですね」

「まぁ、俺もそこまで語られてるなんて知らなかったけどね」

「どなたから聞いたんですが?」

「クレアから――」


 あ、まずい!

 賢者様がぼろを出しそうなので、急いで小石を投げて、賢者様にぶつけます。


「――いてっ」


 なにか変なことを口走りそうになったら、石を投げて知らせてくれという通達をいただいています。

 賢者様に石を投げるなんて……と思いましたが、今のはわりと本気で投げたくなったので、了解をもらっていてよかったです。合法的に石をぶつけることができるので。


 :暴力!

 :まぁ投げたくなる気持ちはわかる。一瞬で企画が頓挫しそうだったからな

 :向こうが言ったとはいえ、なんで名前知ってるのという話ではある


「違うんですよ。これは賢者様からストップをかける時の合図として渡されているんです」


 :本当? 投げたくなっただけじゃない?

 :合図じゃなくても俺なら投げてる

 :偉い人に石ぶつけるのってどんな気持ち?


「恐れ多くて投げれないと思っていましたが、わりと本気でぶつけたくなりました。何してるんでしょうね、あの人は」


 :クレアちゃんおこ

 :そらそうよ

 :心が狭いなぁ


 コメントは賛否両論ですが、私は悪いことをしたとは思っていません。

 変なことを口走る賢者様が悪いのです。


 不自然に言葉を詰まらせた賢者様に、ロイドが心配の声をあげました。

 

「……どうされましたか?」

「……いや。クレアの石像を地上に運んで、この人のパーティーメンバーはどこにいるのか聞いた時、色々教えて貰ったんだ。俺は地上のことを全然知らなかったから」


 なんとか軌道修正した賢者様の言を、ロイドは信じ込みました。

 

「……そうですよね。ずっとダンジョンにいたんですもんね」

「そうなんだよ。まさかネットや配信もあるなんて、思いもしてなかった。クレアに聞いた時はびっくり……いてっ」


 もうっ! なにしてるんですかあの人は!?


 :いくらなんでも抜けすぎじゃね?

 :賢者様わざとやってる?

 :このままだと何回ぶつけることになるかわからんぞ

 

「……クレアから聞いたんですか? 石になってるのに?」


 ……もうこれ、企画はおしまいじゃないですか?

 諦めていると、賢者様は苦しい言い訳を述べました。

 

「あ、違う。あの人はクロアだった。ほら、俺って地上に出てきたばっかりだから、人の名前をちゃんと覚えられなくて。色々教えてくれた人の名前がクロアで、さっきロイドさんが言った名前と似てたから、間違えたんだ」

「あれ? 俺、名乗りました?」

「……あー、パーティーの場所を聞く時に、リーダの名前を教えて貰って……」


 それでどうして目の前のロイドがパーティーリーダーだってわかるのかっていう話ですよ。


 :もうグダグダで笑う

 :この人ほんとおもろい、むり

 :名前がそっくりな親切な人もいるんだねえ


「どうも。クレア改めクロアです。本当、何してるんですかねあの人は。これだとこっちが試されているみたいじゃないですか?」


 :仕掛け人がアレだと違った意味で緊張感がある

 :バレて欲しいようなバレて欲しくないような、微妙な気持ち

 :これだとすぐバレそうだね

 

 もうめちゃくちゃですが、抜けてる人だと思ったのか、ロイドは気にしないことにしたようでした。


「そうですか。わざわざ探して訪ねてくれたこと、感謝します。クレアは大切な仲間なので、本当に助かります。ひとまず、大事な話ですので中でしましょう」


 中に入るみたいなので、急いで距離を詰め、二人の後に続きます。


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