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超強い剣士が老人に化けて武闘大会に出ていたら、相手は気づく? 気づかない? 準備編2

「……それで? どうしてあんなところに?」


 介抱されて目覚めた私は、さっそくとばかりに質問を受けていた。

 私を囲んでいるのは五人。

 メンバーは、時の人になったクレール・ロマリアのパーティーメンツ四人と、『冤罪の大賢者様』。

 その賢者様が代表して、私の前に座っていた。


 他のメンバーは焚き火をかこんで、興味深そうにこちらを見ている。

 

 面識もない私を助けてくれたのだ。

 悪い人たちでは、ないのだろう。

 しかし、無警戒に答えるわけにはいかない。

 まずは、相手の出方をさぐらねば。


「質問に質問で返すようで悪いのだが、その前に一つ聞かせていただけないか? あなたたちこそ、なぜあそこにいたのだ? 私の思い違いでなければ、この森は現在、立ち入り禁止命令が出ていたはず」


 聞き返すと、目の前の賢者様はぽかんとした顔をして、問うて来た。

 

「……そのお触れが出たのはいつ頃で?」

「昨日だが……」

「俺たちは三日前からこの森にいる。森の様子が少しおかしかったから、観光を兼ねて調査に来たんだ。なにぶん、俺は地上に出るのが久方ぶりでな。ここのところ根詰めていたから、気分転換もかねてピクニックキャンプというわけだ」

「……わざわざこんな危険な森を?」


 少なくとも上級に位置する魔物が蔓延る森だ。

 事実上の上限とされる最上級魔物もいるこの森で、ピクニックキャンプ。

 正気の沙汰とは思えないが、彼らくらい実力があれば可能なのだろうか。


 できれば民間人はこの森にいて欲しくなかったが、彼らのおかげで助かったのも事実だし、避難命令が出るより先に来ていたなら仕方ない。


 そしてどうやら、一般人から恐れられるこの森は、彼らにとってはその辺と散歩道と変わらないようで――。


「俺が住んでいたダンジョンの方がよほど危険だ。そして、一緒にいるこのメンバーは、俺が住んでいた場所までたどり着く猛者。それぞれ単独行動をしても、一週間は余裕で生き延びれるだろう。だから、心配してもらわなくても大丈夫だ」


 確かに、心配するだけ無駄なのだろう。

 だが、私が気になるのはそちらではない。

 国が民に秘匿して依頼して来た、邪竜の存在が露見したことだ。

 下手に言いふらされたら私が困る。


「あなたたちの実力は疑うべくもない。私が苦労した相手をいとも簡単に倒したのだから。……だが、あの魔物は民間には公開されていない手合だ。下手に吹聴されると困ってしまう」

「同意も得ずそんなことはしない。ただ、あなたの目的も教えて欲しい。危険とされるこの場所に、どうして援軍もつれずに一人で?」


 ごまかすのは悪手な気がする。

 確信はないが、向けられた目を見てそう思った。

 眼前の賢者様は、なんだか心を見透かしてくるような目をするのだ。

 全ては言えないが、言えるところまでは話すべきだろう。


「……邪竜討伐の依頼を国から承ったんだ。剣聖などと大層な名前で呼ばれているが、私とて一介の騎士。国の命とあらば、どんなに無茶でも受けるしかない。それに、本来ならば邪竜の一匹や二匹、私の敵ではない。他の者はわからないが、私にとっては簡単な依頼のはずだった……のだが、事前情報では、邪龍があんな数の魔物を従えているとは聞き及んでいなかった。それも、全てが最上級に匹敵するような魔物であれば、従えている邪竜は伝説級と称されても不思議じゃない。そんな手合、私一人での討伐令が出るなんておかしいんだ。斥候が力量を見誤ったか、あるいは……」


 ここから先は言えることでもないので、口をつぐむ。

 が、最初に賢者様の隣にいた女性が、言葉を続けた。


「――意図的に隠されたか、ですね」


 頷くこともせず、黙ったままやり過ごす。

 剣聖である私が、国に対する懐疑心を持っているなど、知れ渡ったらことだ。

 例え助けてくれた相手でも、そんな素振りは見せられない。

 だが、相手はそんなものお見通しだった。


「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ、『剣聖』ミダス様。あなたが背心を抱いていたとしても、報告はしません。むしろ私たちは協力する立場です」

「それは、どういう……」


 言っている意味がわからず問いかけると、目の前の賢者様が話のつぎほを繋いだ。


「俺がこの国を恨んでいるからだ」

「……恨んでいる。それはやはり、親しい者を殺されて、ご自身を迫害されたから、というのが関係して?」

 

 冤罪の賢者様と言えば、その逸話は誰でも知っている。

 が、どうやらそれには、裏話があったらしく。


「俺も先日知ったばかりだが……俺が迫害されたのは、勇者という偶像の力を守るためだったらしい。勇者より人気の者がいては、勇者ビジネスに影響が出るからな」

「勇者、ビジネス……?」


 なんだ、それは。

 初めて聞く言葉に、困惑を隠せない。

 私が戸惑っていると、賢者様は続きを話した。


「簡単に言うと、この国は魔王と手を組んでいる。詳しい仕組みはこちらに協力してくれるまで言えないが、要は勇者をかつぎあげ、魔王を討伐するという名目で盛大に送り出し、その影響力で経済を回すというのが、勇者と魔王のからくりだ。そして、それを邪魔するような輩。つまり、俺やあんたのように、『神の使い』だの『剣聖』だのもてはやされて、あまつさえ単独で『魔王』を討伐できてしまいそうな、あるいは実際討伐してしまった輩は、危険分子という訳だ」

「私が危険分子、だと……?」


 国のためにと尽力していた私が、危険分子?

 それが本当なら、今回の依頼は……。


「あぁ。だから、こんな無茶な依頼に駆り出されたのだろう。調べればわかることだが、あの召喚陣は人為的なものだ。あのドラゴンに描けるものじゃない。まぁ、召喚トリガーはドラゴンが握っていたみたいだが、それはどうでもいい。重要なのは、あんたを始末するために仕組まれた依頼だった、というわけだ」


 ……そんなもの、信じられない。

 信じてはいけない。

 

 ひとつかぶりを振って『剣聖』としての自分で言葉を返す。


「――よくできた作り話だ。思わず信じそうなほどに。だが、それを信じるわけにはいかない」

「……どうしてか聞いても?」

「私は国の手足だ。手足はいついかなる時であっても、頭を疑ってはならない。そんなことをすれば、国という身体は成立しなくなる。例え疑念があったとしても、黙って従う他ないのだ」


 そう。だから、怪しいと思っても表には決して出さない。自分の中で消化して、いつも通り振る舞うだけだ。

 私が言い切ると、さしもの賢者様も口をつぐんだ。

 だが、その後ろにいた先ほどの女性が、私の意思を崩しに来た。


「――でも、国の方はそうは思っていないみたいですよ」


 彼女の手にあるスマホに映っていたのは――。

 

 私の、訃報……?


 思わずスマホを奪い取って、内容を精査する。


 発行元は、王国新聞社。

 国と提携している報道機関だ。


 そして、私が邪竜に踏み潰され、どうあがいても助からない状況の写真が掲載されている。


 知覚できなかったが、監視されていたのだろうか。


 しかも、掲載時刻は数時間前。

 私が眠っていたのもそのくらいだ。

 やられたのを確認してから書いたにしては、いくらなんでも早すぎる。


 まるで、写真以外は最初から用意されていたみたいに――。


「――こ、こんなのはでっちあげだ! 私をだますためのフェイクニュースを作ったのだろう!? そもそも、勇者ビジネスの話からして荒唐無稽だ! 仮に真実だとして、どうしてただの冒険者がそんなことを知っているのだ!」


 自分でもなにを言っているかわからないぐらい取り乱しているという自覚はある。

 だが、これを信じてはいけない。信じてしまえば、全てが崩れる。

 私にこのニュースを見せて来た女が、冷めた目でこちらを見据えて来た。


「なら、その姿のまま国に帰りますか? 監視者の確認が甘かったのか、あなたの底力が強かったのか。いずれにせよ、あなたは死んだと思われています。生きていると分かれば、道中で刺客を向けられるでしょう。私たちは、私たちを信じていない者を、そこまで面倒見るつもりはありません。先ほどの情報は、とある筋から得たものを、現地に忍び込んで確認を取った確かな情報です。きちんとデータも記録してあります。が、いまのあなたにそれを聞かせる義理はありません。賢者様はパーティーメンバーになったので、皆で彼のお手伝いをしていますが、あなたは違いますから」


 突き放してくるような言葉に冷たさを覚えるが、何も間違ったことは言われていない。

 むしろ、チャンスを貰えているだけありがたいのだろう。


 しかし、きちんと思考できるだけの冷静さは、いま持ち合わせていなかった。


 私を殺すために仕組まれた依頼。

 

 それが本当だとしたら、私はなんのために――。


 民のため、国のためにと振るって来た剣。

 ……それが、全て無駄だったというのか。


 悔しさのあまり拳を握りしめて黙っていると、細くも男らしい手が目の前に現れた。


「俺たちと一緒に、この国に復讐をしないか?」


 その言葉は、弱っていた心にすっと染み入り、私の手を前に出させるには十分な力を持っていた。

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