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有名商人に、ホンモノとニセモノを交えて鑑定を頼んだら、見抜ける? 見抜けない? 準備編4


「私がテレーゼ教の信徒というのは、パーティー加入の際に賢者様へお伝えしたと思いますが、実はそれが、少々厄介な話を運んできているのです」

「厄介な話?」

「教会は営利団体ではないので、商会による後ろ盾が必要となります。その一角を担っているのがゴルディン商会なのですが、実はその長たるゴルディン氏に、私は求婚され続けているのです」

「求婚され続けている、か……成婚に至っていないと言うことは、シローネは嫌で、教会も断っているというこだね?」


 こくりと首を盾に振るシローネ。

 

「そうなります。私もそこそこの立場にいるので、おいそれと差し出されることはありませんでしたが……最近、王城と懇意にできるほどゴルディン商会が力をつけたことによって、雲行きが怪しくなって来ました」

「……本当にすまない。即金が欲しいからって、よく考えもせずに売るんじゃなかった」


 シローネの目に、悲壮感のようなものはない。ただ、強い決意が宿っている。

 

「そこは、ここの商会長であるガランさんと同じ意見です。ゴルディン氏は機会に恵まれただけ。それを恨むことは致しません。ただ、こういう時のために、私は実力のあるパーティーに入っていたのです」

「有事の際に守ってもらうため、か?」


 力強く頷いたシローネは、同じくらいはっきりと言い放った。

 

「ええ。お相手がいればゴルディン氏も興味を失うのでは、という思惑もあって男性がいるパーティーを選びました。ダグラスさんは恋愛に興味がないようでしたが、加入後しばらくしてから事情を話したところ、偽装恋人になってくれたのです。一時は収まって、効力を発揮したのですが……」

「また求婚されるようになった、と?」

「はい。嘘だと勘付いたのか、今度は教会に圧力をかけてくるようになりました。いまのところ断っていただけていますが、情勢が変わった今、それもいつまで続くかわかりません。こうなることを見越して、賢者様のいるダンジョンへの挑戦を、皆さんに手伝っていただきました」


 はて。どうしてそこが繋がるのだろうか?

 

「俺がいるダンジョンに挑戦したのと、シローネの事情は関係してるのか?」

「はい。賢者様にお会いして、お知恵を貸していただくか、仲間になってもらうか、あるいは対価を払ってゴルディン氏を遠ざけていただくか……どうなるかは未定でしたが、助けていただくつもりでダンジョンに挑戦いたしました。例え断られたとしても、お会いできただけで名声が手に入り、おいそれと手は出せなくなる、という目論見もあったので」

「……なるほど。じゃあ、今は理想的な形になっているのか」

「そうですね。賢者様に頼み事ができる今が、もっとも私に有利な状態です。しかし、ゴルディン氏も力をつけてしまわれたので……焦って、賢者様を引き込もうとしてしまいました。賢者様がお相手なら、ゴルディン氏にも諦めていただけるのではないかと思い……」


 あぁ……だから俺に対して積極的なアピールをしてきたのか。

 

「それでさっき、あんなことをしたのか……別に色仕掛けなんてしなくても、協力するのに」

「実際は違うとしても、対外的な関係性の誇示が重要なんです。賢者様が好き、というアピールをしなければ、ゴルディン氏が勢いづくので」

「なるほど……でも、俺でその役が務まるのか?」

「私より強い殿方でなければ、お付き合いはご遠慮いたしますと常々アピールしているので、賢者様以上の方はいないと思います。ゴルディン氏は、莫大な資産を持つ男もまた強い者であると言ってはばかりませんが……そういう意味では、名声も勝る賢者様が適任なのです」


 その目には、決して屈することのない、たくましい意志が宿っている。

 そんなシローネに対し、クレアがぼやいた。

 

「……だからって、別に誘惑までしなくてもよかったじゃないですか。あれ、わりと本気でしたよね?」


 クレアがぶーたれると、シローネはからかうような声色で、クレアを煽った。


「クレアさんは、思いを寄せている方が私になびかないか心配なのですよね?」

「なっ……いまそれはいいじゃないですか!」


 うーん。クレアが好いてくれているのは嬉しいけど、この雰囲気で言われるとなんだか台無しな気もするな。

 しかも、シローネは別に俺が好きなわけじゃなくて、最悪身体を求められることになってもゴルディンよりマシだから、お願いしてきてるんだろうし。

 

 ……まぁいい。どちらにせよ、他人事ではなくなった。俺のせいでパーティーメンバーが困るのは見過ごせない。


「シローネの事情はわかった。俺が蒔いた種だし、惜しみなく協力したいと思う」


 俺の言葉に真っ先に反応したのは、この件の発端であるガランではなく、シローネだった。

 

「……申し訳ありません。同情を引いたみたいになってしまって」

「そこは、ありがとうと言って欲しいな。仲間が悲しむ顔は見たくないし」


 頭をさげるシローネの肩をつかみ、顔を上げさせる。

 目があったシローネは、やわらかく微笑んできた。

 

「ありがとうございます。クレアさんだけでなく、私まで助けていただくことになるなんて」

「まだ手伝うと決めただけだ。なにも終わっちゃいないぞ」


 気が早いシローネをいさめると、こちらの様子を見ていたガランが、遠慮がちに問うて来た。


「そのご様子だと、ついでに私どもも助けていただけるということでしょうか?」

「人手は多い方がいいからな。気に食わないことを言ってきた相手だとしても、協力できるならするべきだろう」


 まぁ、ひどいことを言われたのは俺じゃないしな。

 不快感は残っているが、二人が気にしていないなら、俺がいつまでも引きずるわけにはいかない。

 少し嫌味な言い方をしたからか、ガランは申し訳なさそうな様子だった。


「ありがとうございます。ただ、お恥ずかしながら、私どもには打つ手がありません。一体、どのようにしてゴルディン商会の力を削ぐのでしょうか?」


 ガランの言葉をもっともだと思ったのか、二人も不安そうにしている。

 だが、先ほど行われたガランの鑑定を見て、思いついたことがある。


「パーティーの配信チャンネルを、もう一度借りようと思う」


 期待のこもった顔をするクレア。雰囲気に似合わない獰猛な笑みをたたえるシローネ。なにがなんだか分かっていなさそうなガラン。

 三者三様の顔を見渡しながら、構想案を伝えた。


 

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