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有名商人に、ホンモノとニセモノを交えて鑑定を頼んだら、見抜ける? 見抜けない? 準備編3

「まず、お二人に失礼なことを言ってしまった非礼をお詫びさせてください。賢者様を引き止めるのに、少々強引な手段を使ってしまいました」


 そう言って頭をさげる商人のおじさん。


『商人の頭は金塊より重い』

 

 そんな言葉があるこの世界で商人が頭をさげるのは、なにか商売と密接に関係する事情があるということだ。

 

 もちろん、前世の常識的には、悪いことを言ったら頭をさげて謝るのは当然なのだけど、ここは異世界。

 商人が頭をさげれば、莫大な金が動くのは間違いない。


 それくらい、重大な話に巻き込まれたと言うわけだ。


 しかも、俺のことを知っている。

 確実に厄介ごとだ。

 話の主導権を握るため、つとめて冷静に言葉を返す。


「まずは話を聞かないことには判断ができない。頭をあげてくれ」

「しかし……」

「いいから。そのままだと話にくいんだよ」


 そこまで言うと、おじさんはようやく頭をあげた。

 なかなか上がらない頭は、たしかに金塊並みの重さだったのだろう。

 正直、金が絡む話には関わりたくないけど、そうも言ってられないからな。


「……わかりました。改めまして、私はガランと言います。以後お見知りおきを」

「知っていると思うが、俺はユウヤだ。世間では冤罪の大賢者と呼ばれているらしい。呼びやすいように呼んでくれ」

「わかりました、賢者様。改めてになりますが、お連れ様を悪く言ってしまい、本当に申し訳ありません。こちらもなりふり構っていられなかったのです」

「それを許すのは俺じゃないからな」


 視線を二人に向けると、クレアは口を尖らせながら、短く言葉を発した。


「……私はクレアです。こっちはシローネ」


 ごく短い自己紹介。

 少し不機嫌なのがうかがえるな。

 ここを指摘すると話が進まないので、さっそく本題に入った。


「……それで? なぜ身に危険がおよびそうな挑発までして、俺たちを引き留めようと?」


 姿勢を正したガランは、詳しく説明しはじめた。

 

「……先ほど名前があがったゴルディン商会ですが……我がガラン商会と勢力を二分する巨大商会でして、国のお抱え商人という立場を争っている間柄なのです」

「そんなに大きい商会の割に、ここには人があまりいないようだけど……?」

「それが、いままでは拮抗を保っていたのですが、先日、ゴルディン商会が、伝説にしか存在しないような素材を何個も国に献上したことによって、情勢が一転。城の方から私どもに声がかからなくなるのと同時に、多くの取引先との契約が切れました。それがきっかけで従業員が引き抜かれるようになり、残ったのは私に恩義を感じてくれている数名のみ。傾いた経営を立て直そうと各地へ顔つなぎしに出向いているのでここにはいませんが、国に見捨てられた我が商会は、そこまで尽力してくれている彼らを雇うのも厳しくなるほど、評判が落ち始めているのです」


 ……明らかに俺が売った魔物の素材のせいだよな?

 そんな価値があるなんて知らなかったとはいえ、申し訳ないことをしたかもしれない。


「すまない……まさか路銀欲しさに売ったものが、そこまで影響があるとは思いもしていなかった」

「ゴルディン商会に伝説級の素材が運び込まれたことについて、思うところはありません。ただあちらが幸運だったというだけです。しかしながら、価値あるモノを買いたたき、その勢いを悪用してこちらを追い落とそうとするその姿勢には、同じ商人として嫌悪を覚えますね」


 憎々し気に吐き捨てるガラン。

 クレアたちを軽んじたのはいただけないが、彼なりに商人の矜持があるのだろう。

 そんな彼が、恥を忍んで俺たちを引き止めたのだから、そこまで追い詰められていたということか。

 

「……まぁ、今までライバル関係だったのなら、有利になったところで一気に詰めるのも無理はないだろうな。……となると、もしかしてさっきの冒険者も……?」

「そうですね。毎日のようにあの類の買取依頼が舞い込むので、ゴルディン商会がこちらの風評を少しでも悪くしようと画策しているのでしょう。たまに本物が混じってくるので、それはそれで経営が傾いている我が商会には痛手ではあります。流通経路が大きく失われた今、貴重な素材は腐る一方ですから。ただ財源が減っていくだけです。そんな時に賢者様が現れたものですから、思わず呼び止めてしまいました」


 なるほど。いくら大規模な商会と言えど、取引先を失って、風評を悪くされた上に不良在庫を抱えると、立ち行かなくなるのか。

 これは、明らかに俺が悪いのだろうけど……冗談まじりとはいえ、クレアとシローネを商品扱いしたのが気に食わないんだよな。


 商人ジョークと言えど、不快なのは確かだったから、助けの手を差し伸べるのも少し悩む。謝られたとて、許すかは別の話だ。

 せめて、二人の意見を聞いてからの方がいいだろう。

 一番嫌だったのは、この二人だろうから。


「二人はどう思う? 俺が原因の一端を担っているのは確かだと思うんだが、個人でどうにかできる範囲を超えている。パーティーにも迷惑をかけてしまうと思うんだが、それでも協力していいと思うか?」


 返事はすぐにこなかった。

 ひとつ瞑目したクレアは、意を決したように口を開いた。


「助けましょう。残りの二人にも事情を説明して、協力させていいくらいです」


 いやに乗り気だな。ここまで前向きだと、なにか事情があるんじゃないかと勘ぐりたくなる。

 なにやら、ゴルディン商会の名前に思うところがあるみたいだし。

 そう思って、クレアに向かって問いかける。


「いいのか? 二人にとっては嫌な思いをさせられた相手だと思うのだが」

「……それはそうなのですけど、このまま放っておくと、もっと嫌な思いをするというか……」


 そう言って、シローネをちらりと見るクレア。

 なんだ? シローネになにかあるのか?

 奇妙な目配せに疑問を抱いていると、シローネがゆっくりと口を開いた。


「クレアさんは優しいので、私が傷つかないよう配慮してくれているのでしょう。でも、そうは言ってられない状況なので、事情をお話しいたします」

「シローネ」


 咎めるように言葉を放ったクレアに対し、かぶりを振るシローネ。


「いいんです、クレアさん。いつまでも黙ったままでは、賢者様に不義理です。すでに賢者様もパーティーメンバーの一員です。事情を隠したまま、協力させたくはありません」

「シローネがいいならいいですけど……」


 なにやら、込み入った事情がある様子。

 もしかすると、商人を助けてはい終わりという話でもないのかもしれない。

 その予想を肯定するように、シローネが事情を語り始めた。


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