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石にされたはずの仲間そっくりの石像を持ってこられたら、その仲間たちは気づく? 気づかない? 準備編

 異世界転生したからって、誰もがうまくいくわけじゃない。前の世界で失敗するくらい要領が悪いのに、どうして新しい世界になった途端に、何もかもがうまくいくと思うのか。

 

 今ならそう考えられるのだけど、転生した当初の俺は、それをわかっていなかった。

 だから、神様から貰った強大な力を闇雲に振るい、あっという間に居場所がなくなった。

 

 端的に言えば、暴れすぎたのだ。

 圧倒的な力で当時の魔王を倒し、魔族はおろか、人間からも恐れられた。


 強大すぎる力の前で、人間が取る行動はいくつかある。

 戦う。逃げる。排斥する。

 しかし、俺という存在は、戦うには強すぎて、逃げるには影響力が大きすぎだようだ。

 そして、多くの意思が揃った結果、俺は排斥されることになってしまった。


 国を救った英雄のはずなのに、パンの一個すら売ってもらえない。売れば極刑に処すと各国が御触れを出したからだ。


 最初のうちは信じていない人もいて、優しい人が恵んでくれたりもしたけれど。

 その人たちは、全員生首になってしまった。

 

 こうなると、生活するには魔物の肉を食うしかない。

 本当に死ぬとわかっていて恵んでくれる人なんていないし、いたとしてもすぐにこの世から旅立った。

 

 あまりのむごさに全て滅ぼすことも考えたが、それをやってもあまり意味がない。そんなことをしても、行先は世界で一人ぼっちだ。

 結局誰も相手にしてくれないなら、誰も来ない場所でひっそり暮らした方がいい。

 

 そうして、住む場所はダンジョンの中になった。

 しかも、神様チートで寿命も長いと来た。

 若い容姿のまま、ダンジョンの奥底でゆるやかに歳をとる。

 

 暇すぎて独り言が多くなったし、変な趣味も初めてしまった。

 石像彫刻がそのもっともたるものだ。

 無心でやれるからちょうどいいのだけど、それはそれとして、娯楽が少ない。

 

 日本人の魂である風呂は作ったが、他になにがあるわけでもなし。

 食事だって、毎日同じような魔物肉だ。

 楽しみはほとんどないけれど、生きるには困らない。

 

 そんな微妙に不自由な生活を続けてから、どれくらいの月日が経ったのだろう。

 ダンジョンの中だと時間感覚がわからない。

 もういい加減、外に出てもいい気がするけれど。

 迫害された記憶が、俺の足を重くさせた。


 そんな風に、いつもと同じように重い足取りでダンジョンの奥底をさまよっていると、ここに住んでから初めて人の声が聞こえた。


 本当に初めてなのだ。

 だって、俺が外にいた当時の人間たちは、ここのダンジョンの中層ですら引き返していたから。

 それくらい、ここの魔物は強い。


 俺にとってはちょうどいい遊び相手なのだが、神様が戯れで作ったダンジョンだから、普通の人間が来ることはありえないはずなのに。


 久しぶりに、胸が高鳴った。


 ここに辿り着いた人たちは、どんな人たちなのだろう。

 それくらい強い人間が生まれたなら、もしかしたら俺も地上に戻れるんじゃないだろうか?


 知りたい。いま、地上がどうなっているか。

 そのためには、ここに来た彼らと話さないと。


「久しぶりに人と話すのは緊張するなぁ」


 ひとりごちて、声が聞こえる方に向かうと、思っていた光景とは少し違うものが映った。

 巨大な蛇の魔物に追いかけ回されてる人たちがいたのだ。


「あらま。先輩にいいように遊ばれてるレベルなのか」


 初めに浮かんだ気持ちは、落胆。

 大蛇先輩は俺の心の師匠でもあるが、あの程度にいいようにされているとなると、あまり期待ができないな……。

 

 まぁ、神様チートをもたない普通の人にとっては、それも仕方のないことなのかもしれないが。


 睨んだ獲物を石に変え、バリボリ食べてしまう凶悪な魔物。出会ってしまえば命はない悪夢のような存在。

 

 世間ではそう称されているのを大昔に本で確認したが、俺にとっては石像造りの師匠である。

 彼の目の前に別の魔物を連れてきて石にしてもらい、それを持ち帰って、そっくりの石像を造るのだ。


 ダンジョンだから石はそこらへんにあるし、彼のおかげで俺は退屈を紛らわせることができた。


 まぁ、大蛇先輩はきっと俺のこと嫌いだけどな。

 毎回、目の前で餌をかっさらっていくんだから。


 そんな大蛇先輩だけど、久しぶりに俺より弱い人間を相手にしたからか、調子に乗って、石にせずに追いかけ回していたぶっていた。


 助けに入るべきかなぁと迷っていると、逃げていた人間のうちの一人が転んだ。

 集団のひとりが引き返そうとするも、仲間に説得されたのか、そのまま逃げていった。


 そして大蛇先輩は、逃げ遅れた一人を逃すわけもなく。

 再び走り出そうとしたそいつを、石に変えてしまった。


「あーあ……胸糞悪いもん見た」


 転んだ時に魔力の波動を感知したから、あの集団の誰かが、意図的に転ばせて囮にしたのだ。

 そんなこと、捕食者側には関係ない。所詮は魔物である大蛇先輩は、あっさりと餌にくいついたのであった。


 放っておいたら、あの人間は大蛇先輩の養分になるだろう。

 横からかっさらってもいいのだが、そのままでは元に戻せない。


 元に戻すには、大蛇先輩の目をくりぬく必要がある。

 神様チートをもってしても、あの呪いを解く方法はそれしかない。

 

 つまり、長年お世話になった大蛇先輩か、見ず知らずの他人の命かを選ばなければならないのだ。

 

 第三の選択肢で、いつものように石のまま持ち帰り、元に戻すことなく石像のモチーフにするのもありだけど……さすがにあの人間に罪はない。


 いくら人間に酷いことをされたとは言え、魔物と同族を天秤にかけて、魔物を選ぶほど落ちぶれたくはなかった。

 

 大蛇先輩には悪いけど、ここは救助の一択だ。


 ……まぁ、本音をいうと、外の世界がどうなってるか教えて貰いたい欲が勝っただけなのだが。

 大蛇先輩は教えてくれないけど、助けた人間なら教えてくれるだろうし。


 そんなこんなで少し迷っているうちに、大蛇先輩は石像を喰らおうとしていた。


「あ、やばっ、貫け!」


 慌てて力を発揮したものだから、大蛇先輩の身体にいくつもの大穴が空いた。

 神様チートのひとつ。見えない構造物での攻撃。


 若い頃はサイレントなんちゃらとか言ってカッコつけていたけど、今はもう見せる相手なんていないから、掛け声だけだ。

 

 嫌なことを思い出す前に大蛇先輩へむきなおると、生命反応は消え失せていた。

 

 目視されたら終わりなら、範囲外から大火力で打ち取ればいい。

 世間では恐れられる魔物でも、俺に取ってはこんなもの。

 目を二つくり抜いて、石になった人間に近づく。


 石の状態だからわかりにくいけど、たぶん女の子だ。

 それに、この状態でも顔がいいのがわかる。

 恐怖に染まったまま石化されているのを見て、俺のいけない部分が刺激されてしまった。


「この子の石像を複製したいなぁ……」

 

 本当ならすぐにでも元に戻すべきなんだろうけど、あまりにも美術的で、戻すのが惜しいくらいだ。

 

 戻さない選択肢はもうないが、なにもせずに戻したら、この世から価値のあるものがひとつ消えてしまうことになる。

 それならば、いまのうちに複製するしかないだろう。


 少しばかり元に戻すのが遅れたところで死にはしないが、こんなに綺麗なものが確実に失われるのは世界の損失といってもいい。


 申し訳なさはあったけれど、この子をモチーフにして石像をつくることに、もはや迷いはなかった。


 それからどれくらいの時間がたったのか。


 我も忘れて作っていたが、完成するのにそれほど時間は掛からなかったように思う。

 せいぜい風呂に三度入ったほどだ。


 大作をつくるにはかなり短い時間だったろう。

 それくらい、そっくりに作れたのだ。

 正直、どっちがどっちだったか分からなくなりそうなくらいだ。

 ……いや、本当にどっちだっけ?


「……たしか、こっちだよな?」

 

 おそるおそる大蛇先輩の目を押し当てると、押し当てた目はぐずぐずに溶けて、代わりに女の子の石化が解け始めた。

 よかった。正解だったみたいだ。


 けれど、新たな問題が浮上した。

 

 本当にどっちか分からなくなる前に解呪したから、話す準備をしていなかった。


 とても久しぶりに人と話すのに、なにを話すかも考えていなかった。


 だから、動き始めた彼女に対する第一声は、すっとんきょうなものになった。


「や、やぁ。元気?」

「人……? えーと、状況がよくわからないですが、とりあえず元気ではないですね。すごく疲労感があります」


 くそっ。なにが、元気? だ。

 彼女からすれば、追いかけられていたと思ったら、目の前に知らない男がいたのだ。

 まずは状況把握と説明からだろうが。


「えーと、君は大蛇先輩……たしか正式名称は、ヴェノム……えーと……とにかく大きな蛇においかけられて、仲間に転ばされて石化した。そこまでは覚えてる?」

 

 言った途端、彼女はすごい顔をした。

 

「……私、誰かに転ばされたんですか?」


 あ、気づいてなかったのか。これは失言だったかもしれない。今からごまかせないかな……?


「あー……まぁそれはいいじゃないか。それよりどうやってここまで来たの?」

「よくないです! 私、囮にされたってことですよね!?」


 そう言って、彼女はつかみかかってきた。

 石像を複製したいくらい丹精な顔が近づいてきて、俺はもうたじたじだ。


「近い、近いって! あとで説明するからまずは落ち着いて情報を交換しよう! ほら、まずは名前を教えてくれ」

「……ごめんなさい。きっと助けてくれたんですよね? それなのに、恩人につかみかかってしまって……失礼しました。私はクレア・ウィンストンと言います」

「クレアおばさんだ……実在したんだ……」

「誰がおばさんですか!? 恩人だとしても許しませんよ! 私は成人したてです!」


 やばっ。声に出てた。こっちの世界の人が前世ネタを知るわけないんだから、伝わるはずないのに。

 成人はおばさんじゃないかと言う人たちもいるけど、俺は特殊な趣味はもっていないので、慌てて弁明した。


「違うんだ。君の名前と同じ名前を冠した商品があって、それが思わず口にでたんだ。なにぶん、違う世界の話だったから、一致したことがあまりにも感動的で」

 

 あー、やばい。あまりにも久しぶりすぎて、余計なことまでべらべら喋ってる気がする。

 そんな心配を他所に、クレアは神妙な顔をした。

 

「……違う世界? もしかして、あなたは『冤罪の大賢者』様ですか?」

「なにそれかっこいい。そんな人がいるの?」

「はい。百年ほど前に魔王を打ち倒し、そのあまりの強さにどの国も彼を恐れ、関わった者は極刑に処すという御触れをだされたと言い伝えられているお方です」


 俺だな。もう百年も経っていたのか。

 それから、クレアは興奮気味に語り出した。


「世界を救ったのに酷な扱い受けたにも関わらず、なに一つ文句を言わず、魔物の残党を狩るくらい誠実なお方で、その人徳に惹かれ、多くの民が死ぬのも厭わず関わりを持とうとしていたとか」


 あれ、本当に俺かな? そんなできた人間ではないが、確かに多くの人が助けてくれようとして、命を失ったからな。魔物もその達が困っていたから狩ったは狩ったけど、そんなに多かったかな?

 

「自身に関わると死んでしまうことを嘆いたのか、国に復讐する力を持ちながら、滅ぼすこともなくこのダンジョンにお隠れになったようでして……彼の知識を求めて、多くの人間がこのダンジョンに挑戦してきましたが、未だに会えたという話は聞いていません。いたとしてもただのホラ吹きか、道中の魔物の幻覚にやられた哀れな人間だけです」


 あれ? 俺じゃないかもしれない。たしかに強いは強いけど、そんな知識なんてもってないし。そこまで会うことを求められるような人間じゃないぞ?


「そして、そんな彼が残したとされる遺物は、明らかにこの世の常識をこえ、世界を数百年発展させたとも言われているほどです」


 いや、やっぱりこれ俺じゃないだろ! そんなもの作った覚えがないけど!?

 さすがにこれはつっこまざるをえない。


「熱く語ってくれるから黙って聞いてたけど、ちょっと心当たりのないことがあるね……もしかしたら人違いじゃないか?」

「ですが、こんな深層にいる方なんて、大賢者様しかおられないかと……作った物に覚えはありませんか? 例えば電子レンジやスマホなるものですが」


 電車レンジとスマホか……。明らかに前世の産物だな。いや、この世界の大天才が発明したか、新たに転生者が呼ばれたとか、他にも可能性はあるけど。

 このダンジョンに潜ったやつが発端となると、俺以外ありえなさそうではある。

 けどなぁ……。

 

「……どっちも名前は知っているし、実物も見たことはあるけど、俺が作ったわけじゃないな」

「あれ、おかしいですね。それらを販売しているエーブル工房は、大賢者様がお造りになられた物を伝え続けていると言っていましたが」


 エーブル? エーブル……どっかで聞いた名前だな……。

 あぁ! 思い出した。酒の席で前世の製品のしくみとかを語って聞かせたおっちゃんの名前だ!


 あいつも殺されちゃったけど、メモとかに残してたのかな?

 だとしたら律儀だな。あんな与太話みたいな物を信じるなんて。でも、それを本当に再現したんだからあいつの子孫は凄いよ。


「たしかにアイデアは伝えたけど、作ったのはその工房の創始者とその子孫だよ。褒められるべきはその人たちであって、俺じゃないな。別の世界にあったものをそのまま教えただけだし、俺はなにもしてないよ」

「そうなのですね。ですが、その話のおかげで世界が発展したのも事実ですので、あまりご謙遜ならさなくてもいいと思います。大元がなければ、産まれることもなかったのですし」

「いや、本当に手柄をかっさらったみたいで申し訳ないんだけど……」


 罪悪感にさいなまれていると、クレアはそれ以上突っ込んで来ず、話を変えた。変えてしまった。

 

「そうですか。では、この話はひとまず置いておきましょう。……ところで、隣にあるこの私そっくりな石像も、その御業が関係しているのですか?」


 ですよね……そりゃ聞かれるよね……。

 

「……あぁ、いや、これは完全に趣味で……君の石像があまりにも美しかったから、複製しないと世界の損失だったし……」


 しどろもどろになりながら俺が開き直ると、クレアはあきらかにたじろいで、言葉をつっかえた。


「そ、そうですか。ま、まぁご趣味は人それぞれですしね……」


 あー、これ明らかに好感度下がっただろ。

 なんで解呪する前に隠しておかなかったんだ。

 俺の馬鹿!

 いやまぁ、あまりにも出来がよすぎて、本人をしまいかねないくらいだったから、仕方ないんだけど……。

 これから話を聞き出すのに、少し支障がでるかもな……。


「本当にごめん……許可を取ろうにも石だったし、解呪してから作るとなると、再現できる気がしなかったから。どうしても作りたかったんだ」


 クレアはなんとも言えないような顔をしてから、責めるでもなく諭してきた。

 

「あぁ、まぁ、はい。そこまで言われると悪い気はしないですが、他の人にはやらない方がいいと思いますよ」

「肝に銘じます……」


 俺があまりにも小さくなっているからか、クレアも居心地が悪いのだろう。彼女は一つ咳払いをして、話を改めた。

 

「……こほん。それはいいとして、そもそも私が石になったのは、意図的に転ばされて囮にされたからでしたよね?」

「そうだね。微細な魔力のゆらぎを感じたから、明らかに人為的な物だと思う。大蛇先輩はそんな繊細な魔法のコントロールできないし」

「そうですか……仲間のはずの誰かが……まぁ、検討はつきますけど」


 裏切られたにしては、随分と落ち着いているな。さては、これは心当たりがあるな?

 

「誰がやったかわかってるんだ?」

「マチルダが……っていっても分からないですよね。パーティーの中にロイドという剣士がいるのですけど、どうやら彼は私に気があるみたいで。そのロイドを好いている女性がマチルダなんです」

「あー、痴情のもつれってやつね」


 異世界でも三角関係ってあるんだ。

 

「私としては興味なかったんですけど、拒絶してややこしくするのも面倒くさかったので放置していたんですが……まさか命に関わるようなことをしてくるとは。賢者様に助けていただかなかったら、本当にどうなっていたことか……」

「いいよ、あんまり気にしないで。大蛇先輩は惜しかったけど、人の命には変えられないし」


 俺の私欲のために助けたところがあるしな。

 あまり畏まられるとこちらも申し訳ない。

 そんな風に思っていると、クレアは全く違う話題をなげかけてきた。


「あの……話がそれてしまうのですが、大蛇先輩とは、あの魔物のことですか?」

「……あぁ。あまりにも暇だったから石像造りをしていたんだけど、彼が他の魔物を石化してくれると、複製をとても作りやすいから心の中で慕っていたんだ」

「……そうなんですね。私としては、石にされたので複雑な気持ちではありますが。獲物を横取りされて、相当怒っていたのではないですか? よく対処できましたね」


 驚きとともに、若干の畏怖が混じった視線を投げかけてくるクレア。

 まぁ、彼女が手も足も出ない魔物を倒したともなれば、そういう反応にもなるのだろう。

 この階層までこれるなら、正直相性の問題な気もするけどな。かろうじて倒せたからと言って、ここに住めるかは別の話だけど。

 

「まぁあの程度に手こずるようじゃこんなところで生きていけないからね。五秒で倒して解呪の生贄になって貰ったよ」

「生贄というと……殺してしまったんですか?」

「そうだね。君を助けるにはそれしかなかったから」


 そう告げると、クレアは物凄く申し訳なさそうな顔をして、頭を下げてきた。

 

「……本当にありがとうございます。愛着のある魔物でしたでしょうに、私のために倒さなきゃいけなくなって、ごめんなさい」

「いやいや、顔をあげてよ。愛着があるといっても、魔物は魔物だ。魔物か人間かだったら、そりゃ人間を助けるよ。あと、地上が今どうなってるか知りたかったしな。よければ色々教えてくれるかな?」

「それはもちろん! ですが、地上のことを知るなら、これが手っ取り早いかと思います」


 そうしてクレアが取り出したのは、前世のスマホそっくりな薄い板。

 どんな構造になってるかは知らないが、透明な板に画面が表示されており、ぬるぬる動く。

 これは前世の操作感とあまり変わらないんじゃないか?


「すごいなこれ。本当に俺の知ってるスマホそっくりだ。どうやって作ったんだ、マジで」

「詳しいことは私にもわかりかねますが、魔導回路が組み込まれた魔石がちりばめられてるとは聞いたことがあります」


 この世界の技術もあなどれないな。

 あのおっちゃんの子孫凄すぎだろ。むしろ、あのおっっちゃんを処した国の偉いさんたちこそ処罰されるべきだったのでは?

 危うく革新的技術の損失だったんだからな。

 まぁ、百年も経ったならどうせ死んでるだろうけど。恨み言のひとつくらいは良いだろう。

 せめて王様たちが地獄に堕ちてくれていることを願おう。

 まぁ、今はそんなことよりもスマホだ。

 

「すごいな。そうやって代用したんだ。で、これで何ができるの?」

「検索サイトなるものがあるので、それで調べていただければ、大抵のことは分かります」

「ネットもあるんだ。ちょっと触ってみてもいい?」

「どうぞ」

「どれどれ……うわ。動画サイトまである。えーと、これはダンジョン配信……? それに、魔法講座? すげーな、こんなのまであるんだ」


 本当に前世のスマホそのままと言っていい出来だ。

 むしろ、こんなダンジョンの奥深くでも通信できるのだから、こっちのが上まであるな。

 俺の情報だけでここまで再現するのは本当に神技だぞ。

 あるいは、百年という年月がそうさせたのかもしれないが。

 あまりの出来に感動していると、クレアは無邪気な子供を見るような目で笑いかけてきた。

 

「楽しんでいただけているようでなによりです」


 しまった。はしゃぎすぎた。

 クレアは殺されかけて疲れていたというのに。

 スマホそっくりのものがあることに、一人浮かれて舞い上がってしまった。

 彼女のおかげで、世論では俺が同情されていると分かったし、地上に戻る決心もついた。

 これは、お礼をしなければならないだろう。


「ありがとう。お礼と言ってはなんだけど、俺ができることなら協力するよ」

「いえ、そんな大袈裟にしてもらうほどでは……ですが、甘えさせてもらうなら、地上まで送っていただくか、ここに住まわせていただけると助かります。私一人では帰れる気がしないので」


 なんだ。そんなことか。それだとお礼には足りないな……。

 

「どっちにしろ地上に戻ろうかと思っていたからな。当然送るよ。それ以外になにかない?」

「それ以外ですか? 地上に帰していただけるだけでも大助かりなのに、それ以上なんて恐れ多いですよ」


 恐縮するクレアに、ひとつ提案をしてみた。

 

「例えばほら。そのマチルダ……あるいはロイドを含む、君を見捨てたパーティーメンバーに復讐してみたい、とかさ」

「復讐、ですか……? やり返したいとは思いますが、命を奪いたいまでとは……」

「殺さなくとも、拷問するとか」

「いえ……そこまでしたいとは思わないですね。……ただまぁ、彼女がやったことを、周りに周知できたらいいなとは思います。それがささやかな望みですかね」


 周りに周知、か。

 ネットもあるし、比較的簡単にできそうだが……ただ言い回るだけでは、嘘だと流されてしまうだろう。

 どうすれば、クレアの言が真実だと信じてもらえるだろうか。

 少し考え込んでいると、クレアの顔と、その隣に佇む石像が目に入った。

 ……そうだ。前世のテレビで人気だった番組を参考にさせて貰おう。

 

「よし。この石像を使って、ドッキリをしかけようか」

 

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