表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/74

安息なき夜 -11-

 未来は叫んだ自分の声で目を覚ますことになった。

 顔の側にある右手が軽く握られているが、何も持ってはいない。

 身体はしんとして寒い寝室のダブルベッドに横たわり、暖かい毛布にくるまっている。が、額と背中は汗で濡れており、呼吸が乱れていた。スエット地のパジャマが汗に濡れて肌にまとわりつき、気持ちが悪い。

 寝返りを打ってから額に張りついていた髪を払うと、彼女はそこで初めて携帯電話が本当に鳴っていることに気がついた。身を起こしてサイドテーブルのスタンドをつけ、細めた目で充電器に差し込んである仕事用の携帯電話を覗き込む。

 白熱灯に照らし出されている青っぽいディスプレイでは、ウォーリーの名前と携帯電話番号が点滅を繰り返していた。他の物音が何一つしない、静まり返った家の中に無機質な呼び出し音が小さく響き渡り、早く出ろと目に訴える催促を続けている。

 夢で聞こえていたこの音だけは、現実のものだったのだ。

 胸がつぶれるほど嫌な予感がする。

 しかし、無視するわけにはいかなかった。

 敢えて頭の中を空っぽにしてから、乱暴に携帯電話本体を掴み上げる。

『ミキか?クラークだが』

 受話ボタンを押して電話を耳に当てるなり、ウォーリーの声が事務的に話し出した。

『身体をちぎられている死体が発見されたと、郡警察から連絡があった。場所はコロニアルビーチ、キングス・ハイウェイ4798。被害者は黒人の若い男だ』

 彼が間髪入れずに告げたのは未来の中で最悪ではなくとも、まだ顔を知らない誰かにとっては最悪のものであった。嫌な予感は当たらずして遠からずというところで、かなり悪い知らせであることには変わりない。

 つい昨日もクワンティコのオフィスで目にした、凄惨な現場写真が頭の中で鮮明に蘇る。

 その光景が彼女のまだぼやけている意識を揺さぶり、覚醒へと導いた。起き抜けの声は掠れているが、はっきりとした口調でウォーリーに問う。

「例の人形も見つかったの?」

『まだ確認はしてないが、多分あるだろう。地元の駐在事務所の連中と、ジャクソンにも連絡が行ってる。CVCの担当者では多分お前が一番早く着けるだろうから、記者連中に嗅ぎつけられる前に、できるだけ現場の状況を押さえるようにしてくれ』

 もしマスコミにこのことを勘づかれて現場に殺到されたら、現場が土足で踏みにじられることになる。重要な証拠となり得る繊維やごみなどの微物類は、ちょっとしたことで失われる危険があるのだ。

「了解。すぐ行くよ」

 ウォーリーの言葉に頷いて電話を切ると、未来はベッドから飛び降りた。枕元の目覚まし時計は午前3時17分を指しており、家の中はおろか外もまだ真っ暗だ。

 未来が疲れ切った身体をベッドに潜り込ませたのは1時過ぎだったから、浅い眠りを2時間程度しか取れなかったことになる。しかし顔を冷たい水で洗い、長い髪を頭の後ろでひっつめて服装を整え、手袋やカメラ等の犯罪現場捜索道具を詰めた黒いナイロン地のバッグを取り上げたときには、眠気などすっかり吹き飛んでしまっていた。

 10分の後、彼女は黒のダウンジャケットにインディゴのデニム、NOTSの訓練でも使っているコンバットブーツといういでたちで家の玄関ドアを閉め、防犯ベルをセットした。回りの家々のポーチに掲げられた玄関灯やクリスマスツリーが暗闇にささやかな光を投げかける中、白い息を散らしながらガレージへと走る。

 ダークブルーのフォードの運転席へ飛び込んでエンジンキーを回し、メーター類を鮮やかな緑色に点灯させて、冷え切った車へ命を吹き込む。ナビに目的地の住所を告げると音声認識が働き、小さなモニターに所要時間と道のりがガイドされた。

 静寂に満たされた冬の早朝に未来のおんぼろフォードが滑り出したのは、11月29日午前3時32分だった。現場までは直線距離で約25マイル程度で、キングス・ハイウェイは自宅から2マイルと離れていない、フレデリックスバーグのダウンタウンから乗り入れることができる。現場到着は4時30分頃の予定だが、それまでにマスコミのヘリコプターが現場上空まで辿り着いていないことを願わずにはいられない。

 ヘリコプターのローターが巻き上げる強風は付近の地上を煽り、微細な証拠を吹き飛ばしてしまう可能性が高い。故に警察関係者やFBIは、この忌まわしき空飛ぶ箱が大嫌いだった。

「ったくもう、こんな時に……」

 ナビの音声に従いながらヘッドライトの先を見つめ、暗い道を疾走する未来は、日本語でぼやかずにはいられなかった。自分は杉田の行方不明の件だけで頭が一杯だと言われても仕方がなかったが、そんなことはお構いなしに事件は起きるのだ。

 夜中に同僚や警察関係者からの一報で叩き起こされる日常に慣れつつはあるものの、世間を騒がせている連続殺人事件の現場に行くのは初めてだ。それにティアーズの被害者の死体は、恐らく自分が扱ってきた事件の中で最も酷い状態にされているだろう。詳しい検分のためには、捜査官が解剖を含む検死作業に立ち会う必要も出てくる可能性がある。

 よほど度胸が座っているか、変わった趣味をしている者でなければ、解剖に直接立ち会うことを好む捜査官はいないと言っていい。刑事や警官の中にはモルグ、つまり検死局の解剖施設に決して近寄ろうとしない者もいるぐらいだ。

 今の未来は姿を消した愛しい男が冷たいステンレスの解剖台に横たわり、メスで身体を切り開かれているところをどうしても連想してしまっていた。彼の変わり果てた姿を考えると、それだけで発狂しそうになる。

 もし立ち会わねばならなくなったとしたら、自分は外観観察だけにしておいた方が良さそうだ。

 幸いジャクソンも、未来の精神的な負担を考慮するだけの気遣いをしてくれる男である。

 しかし暫くはまた、悪夢に悩まされる日が続くかも知れない。現場の捜索が終了したらクワンティコのエマのもとを訪れて、精神安定剤か誘眠剤でも処方してもらおうか。

 そう考え始めた頃、未来のフォードはフレデリックスバーグの静まり返ったダウンタウンを走り抜け、一路東へと向かっていた。深夜故に全く他の車はおらず、この分ならばナビの予想時間よりも早く現場に到着できるだろう。死体発見現場は街外れの交通量が少ない一般道路脇で、街灯も殆どない。こう言うときは未来の瞳に内蔵された闇視フィルターのお陰で、先が見通せるのが非常にありがたかった。

 暗闇が支配する空の様子は車の中から確認できないが、月明かりが全くないようだ。厚い雲が天を覆っているのなら、夜が明けてからもかなり寒くなりそうな予感がする。

 冷たく暗い空気のにうねうねと続いているハイウェイの途中では、やたらと道路補修工事の現場が目についた。本格的な冬を前にして、傷んでいるアスファルトを今のうちに換えておく必要があるのである。車通りが絶えた真夜中は、おおっぴらに工事ができる時間帯なのだ。

 未来が車窓から4回目に目にした現場では、かなりの規模でやっているようだった。白く輝く反射板をつなぎに貼りつけた作業員を腹に収め、車輪になっている足で器用にでこぼこ道を走る大型ロボットが見える。動いているロボットは数台のようだが、足やアームの形状が異なる大小の作業用ロボットが道路脇に10台以上並んでいた。

 未来もアメリカの道路でで実際に作業をしているロボットを見るのは初めてだ。しかし、はげかけのアスファルトを一気にひっぺがしたり、重い資材をアームでつまみ上げている姿をいざ確認すると、あれなら人間の身体を引き裂くことなど容易いだろうと納得できた。

 このような大型重機ロボットは、アメリカで一般に普及している数少ないロボットのうちの一つである。昔は工場の中でのみ使用されていたものに一定の基準が設けられ、その範囲内においての生産が許可されたものだ。

 20年ほど前は高価な機械だったが、工業製品や自動車部品における新素材の開発と大量生産に伴い、ロボットパーツもコストが低下して導入しやすくなったということもある。今では人間が乗り込むタイプの作業用ロボットはピックアップトラック並に安く、重量も軽いものでは小型車とほぼ同じくらいのものも出回っている。この中でも中型タイプのロボットは用途が実に様々で、建築や工場内での運送などで幅広く利用されていた。

 しかし開発が容易になった分、正式な登録がされていないロボットが横行していることも事実である。ティアーズ事件でも、違法製造されたロボットが更に改造されたものが使用されていることは、ほぼ間違いない。

 CVCは、将来的に全米のロボット犯罪全般の取り締まりも視野に入れて設立された組織である。その最初の事件がロボットを悪用した連続殺人なのだから、皮肉極まりない状況だと言えるだろう。

 こうした犯罪を未然に防ぐには、まず違法ロボットの製造業者を摘発せねばならい。が、まだ生まれたての組織ではとてもそこまで手が回らない。この先十何年とかけて気長にやっていく以外、確実な手段は存在しないのだ。

 やがてナビが示した目的地から半マイル(約800メートル)以内に入ると、パトカーの回転灯が闇に青い光をちらちらと放っているのがわかるようになってきた。車を進めるにつれ、その数は増えていきている。未来がスピードを落とした頃には、道の両側の至るところに停めてある警察車両が目につくようになっていた。

 その中に、見覚えがある車があった。未来がフレデリックスバーグ駐在事務所に勤務していた時分によく話を聞きに行っていた、ウエストモアランド郡警察のカーター刑事のものだ。後ろに丁度1台分のスペースが空いていたため、彼女はそこにフォードを滑り込ませてエンジンを切った。

 助手席に置いてあったコートを羽織り、現場用のバッグを掴んで車から降りると、制服私服が入り乱れた警察関係者たちの話し声と靴音、衣擦れの音が一気に鼓膜の奥へとなだれ込んでくる。明け方よりも早い時間の空気は、皮膚に痛みを覚えるほどに冷たい。

 それもそのはずで、すっかり葉を落とした木々の枝の間から覗く真っ黒な空を仰ぐと、細かい雪が軽やかに舞い落ち始めているのがわかった。

 現場は片側一車線の狭い道路から脇に逸れた林の中だ。そのため、道路自体が赤いコーンと立入禁止を示す黄色いテープとで遮られている。その手前には近所の住人らしい人々が数人固まっており、ベッドから起き出したままに上着を羽織った格好で話をしているようだった。雪は彼らの髪やコートに小さな水の球を作り、アスファルトにも水の模様を描き出している。

 未来は一度軽く身震いしてから野次馬の横を通り過ぎ、騒ぎの中心である道路の先へと歩き出した。道に渡された黄色いテープの前では、プロレスラーのような体格の警官が威嚇の視線を周囲に投げかけている。

 巷を騒がせている連続殺人事件の発生に緊張しつつ立っているらしい彼に身分証を出そうと、未来は歩きながらコートの内ポケットに手を突っ込んだ。

「ミキなのか?久しぶりだな」

 その小さな背中に、若い感じの男の声がかけられる。彼女は門番である警官が自分を追い返そうとしている気配を察してむっとしながらも、振り返った。

「あ、カーター刑事……」

「彼女はFBIの特別捜査官なんだ。現場には俺が案内するから」

 後ろから歩いてきた男は未来の言葉を遮って警官に言うと、さっさとテープを跨ぎ先へどんどん歩いて行ってしまった。未来が慌てて身分証の写真と署名が警官にはっきり見えるように掲げ、テープを飛び越える。

「驚いたな。突然いなくなったから、てっきり余所へ転勤になったと思ってたんだけど」

「今はクワンティコにいるんです。一連の事件で、新しく担当になったんですよ」

 後ろから走ってきた未来が追いついたタイミングで、彼はちらりと視線を投げかけてきた。

「そうか。道理で、FBIが検死官よりも早く来るわけだ」

 ニコラス・カーター刑事は、こげ茶色のくるくる巻いた髪に緑がかった瞳をした29歳の白人男性だ。顎にだけ髭を生やしているのは、欧米人には珍しい童顔を嫌ってのことである。背は低めで、やや頼りなげな細い身体をしていた。

 未来がフレデリックスバーグ駐在事務所の捜査官として着任した当時、ウエストモアランド郡警察にアーロンと挨拶に出向いたことがあった。そこで差し入れとして、紙箱入りの38口径の弾丸1ダースを手渡した相手が、このニコラスだった。彼は歳の近い未来とは気さくに話してくれ、FBIが担当する事件の捜査にも協力的な人物であったが、今は暗い影が顔に落ちているようだった。

 道路の要所に設置された捜査用ライトの強い光を浴び、鑑識のスタッフが行き交う間をぬいながら、ニコラスは未来に説明した。

「とりあえず死体にはまだ誰も触ってないし、なるべく近寄らないようにしてある。うちの連中は、周辺の捜索に当たってるところだよ」

「雪が降ってきてるし、早くしないといけませんね」

 未来が寒さのためにかじかんできた手を擦り合わせて息を吐きかけると、ニコラスは無言で頷いた。そして腰くらいまで高さがある草が既に人に踏まれて倒れ、ちょっとした道を作っている道路脇の茂みへと入っていく。その先に、問題の死体があるのだ。

「死体には雪避け用に、ビニールシートを被せておいた。調べる時だけどければいいだろう」

 雪は未来が車を降りてから、勢いを増してきている。この分だと、夜が明ける頃にはもう辺りが薄っすらと白くなるくらいだろう。微細な証拠が雪に隠されてしまう前に、検分を急がねばならなかった。

「死体の第一発見者は?」

「長距離のトラック運転手だ。見ての通り、この辺りにはサービスエリアが近所にないからな。ちょっと用を足そうとトラックを停めて林の奥に入ったところで、運悪く死体を発見したと言ってるんだ。一通りの聴取はして、今は車の中で待機してもらってる」

 ニコラスの未来に対する返事は、必要以上に淡々としていた。

 損傷の激しい遺体は、死体を見慣れない者にそれだけで激しいショックを与える。気の毒なトラック運転手にとって、恐らく今日が人生で最悪の日に違いない。

 とは言え今が冬で、屋外が凍えるほどの寒さである分だけましな方だ。遺体の腐敗が早い夏などは凄まじい腐敗臭が現場周辺に充満して、この世のものと思えない凄惨さとなるのだ。

「その人に、私も話を聞けます?」

「もう少し落ち着いてからじゃないと駄目だな。かなり動揺してるようだし。まあ、あんなものを見せられちゃ無理もないけどな」

 未来の質問に、ニコラスは首を横に振ってぼそりと答えた。

 彼はまだ若く、市民の役に立ちたいとまだ青臭い使命感を引きずっている年齢である。普段は殺人事件もそんなに多くないこの平和な地区で、それはある程度叶っていると言っても良かっただろう。なのに、ここへ来て連続殺人の被害者が出たのだ。

「テレビやインターネットであの事件を見る度に、うちの管轄で被害者が出ないことを祈ってたんだが。神様も、意地悪をするもんだ」

 小さく溜息をついたニコラスの声は、明るいと言えない。刑事という職業柄、肝っ玉がすわっていて男っぽい人物が多い中で、彼は異彩を放つタイプだった。

 しかし彼の暗い調子に合わせたら、未来までやる気が削がれてしまう。無言で頷くだけにして、未来は質問を続けた。

「被害者の身元はわかってるんですか?」

「いや。何も持ち物がないみたいだし、最近捜索願が出されたというわけでもなさそうなんだ。過去5年分の行方不明者のリストを確認してるところさ。しかし……」

 そこでニコラスが言葉を濁す。

「現場付近で写真入りの身分証でも見つからない限り、すぐには難しいだろう。何せ、頭が殆ど潰れてるからな」

 彼が次に吐き出した嘆息は、先のものより大きくなっていた。

 未来はようやくその時になって、5番目の遺体が発見された現場に転がっていたジューン人形のことを思い出した。確か、頭が踏まれたようにぺちゃんこにされていた筈だ。

 自分が生唾を飲み下した音が、やけに大きく聞こえる。この寒さのおかげで死体はまだ腐敗していなくとも、相当酷い状態であることは想像に難くない。未来は捜査道具を入れたバッグの柄を、無意識のうちに強く握り直していた。

 やがて茂みが終わり、二人は落ち葉が地面を覆っている林の中へと出た。そこから右方面に22ヤード(約20メートル)程度行った先では、鮮やかなブルーのビニールシートが地面に広げられている。その回りでは小さな証拠物品が落ちていないかどうか探すため、郡警察の鑑識スタッフがマグライトや金属探知機、小さな集塵機を手に、何人も地面に這いつくばっているのが見えた。

「あれですね」

 未来がバッグから手袋と一眼デジタルカメラを取り出すと、ニコラスが頷いた。足を止めた彼を残し、彼女は小走りにブルーシートへと近寄っていく。

 僅かながらに腐臭と血の臭いが感じられたが、木々の間を吹き抜ける冬の風が臭いの大半を空へと散らしてくれているのだろう。未来は地面にかがみ込み、雪が白い粒を点々と残し始めているブルーシートの端をそっと持ち上げた。

 途端にむっとする血の臭いが広がったが、息を予め止めていた未来は顔をそむけなかった。

 死体の詳細を見るには光量が足りない気がするが、未来の場合は瞳の暗視フィルターを働かせるだけで良く、追加の明かりは必要ない。途端に視野が明るく色づいて、昼間と同じ色彩が蘇った。

 まず彼女の瞳に飛び込んできたのは、卵の殻が割れた時のように歪な砕け方をした頭蓋骨のかけらと破けた皮膚、その間から押し出されている血まみれの脳だった。

 加えて不自然にへこみがついた頬、黄色い脂肪組織や白っぽい筋組織が首の上にあるのがわかった。浅黒い皮膚の裂け目の下にあるものが剥き出しになっているのだ。

 眼球は殆ど飛び出しており、めくれ上がった瞼は瞳を保護する役割を果たしていない。鼻は赤黒い血肉のどこにあるのかわからず、口も潰れた顎に残された歯が見える辺りにあったのだろうと考えるしかなかった。

 シートの下にあった若い黒人男性と思しき遺体は、頭部が原型を留めていない有様だった。事件を知らない者が見たら、大型の車両に頭を轢かれたのかと思ってしまうかも知れない。

 しかしこの遺体では首の皮膚が引っ張られたように裂けており、身体がうつ伏せになっているのに対し、顔は仰向けになっている。詳しい検死をすれば、彼の首が無理矢理捻じ切られたことがはっきりするだろう。

 無惨に割れた頭から垂れた体液と血液は、落ち葉と地面をまだら模様に染めていたが、ここで頭を割られたにしてはその量が少なすぎる気がする。また、ブルーシートを更にどけて全身が見えるようにすると、血染めの背中に穴が開いているのがわかった。

 背中を上にして倒れている遺体は、ベージュのニットに色褪せたブルーのジーンズとスニーカーという身なりだ。ジーンズの尻ポケットは平べったいままで、見たところ何も入っていないようである。

 ニットは首と穴の開いている箇所を中心にして真っ赤になっており、地面にまで血が垂れていた。恐らく犯人から逃れようとしたところを、背後から撃たれたのだろう。

 しかしこれも、地面に流れ出している血液の量が少ない。今までの被害者と同じように、彼はどこか別の場所で殺されてからここに運ばれてきたのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
web拍手始めました!お気に召しましたらポチしてください
★Web拍手を送る★


アンケート始めました!
★あなたの好きなキャラクターを教えてください★

ランキングに参加中です
小説家になろう 勝手にランキング
お気に召しましたら、ポチしてください
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ