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「第3話」バイオレンスコミュニケーション

 ──アポロちゃんに絵を教えてもらうようになってから三年経った。


 小学校四年生に進級した俺は、クラス替えの名簿を眺めていた。

 四年一組。俺は、すぐにクラスメイトの名簿に目を通す……すると、ああやっぱりかと言いたくなった。──背後。なんだか物凄い気配がして、振り返る。


 「げっ」

 「驚かそうたってそうはいかねぇぞ」


 新学期初っ端からイタズラを仕掛ける気満々だったのだろう、アポロちゃんの表情は物凄く不満そうだった。俺はその顔を満足気に眺めながら、どんな煽り言葉をぶつけてやろうか……と、そんな思考は暴力によってぶっ潰された。


 「死ねぇ!」

 「たぁっ!?」


 思いっきりフルスイングした拳(萌え袖)が鳩尾に直撃した。思わず俺は腹部を押さえ、眼の前のドヤ顔女を睨みつける。


 「なに、すんだ……このっ」

 「あんコペの分際で私をコケにしようとした罰だ。金玉狙わなかっただけいいと思えよな!」


 この野郎、と。俺はいつも通りの異常に苛ついていた。

 こいつは俺と話す時とか、廊下ですれ違ってきた時に必ずと言っていいほど暴力を使用する。話しかけるために声を掛けるのではなく、話しかけるためにまずぶん殴る……それがこいつである。


 「へっ、友達だからこれぐらいにしてやったんだ。慈悲深い私に感謝しろよっ☆」


 可愛いから余計にむかつくアニメ声を発し、アポロちゃんはどこかへと走って消えていった。追いかけようにも、鈍足の俺では俊敏なあいつには追いつけない。


 「ちっ……くしょうあの野郎……昔からコミュニケーションの仕方なんも変わってねぇ……!」


 俺は鳩尾を押さえながらゆっくりと立ち上がる。

 じんじんと痛む胸の下あたりは、彼女が少しずつ成長して力も強くなってきていることを示していた。初めて会ったばかりの頃はどうってことのない威力だったのに、今では自分のフィジカルを持ってしてでも中々に痛い。


 「……友達、か」


 ふと、自分でも驚くぐらいに冷静になる。

 そう、三年前のあの日から俺とあいつはなんだかんだ友だちになった。最初は絵を教えてもらって、なんか一緒に遊ぶようになって……気づけば、学校では常に一緒にいるようになった。


 俺はポケットにいつも忍ばしている古ぼけた紙の容器……俺にとってのお守りを取り出し、それをじっくりと眺めた。


 思い出すのは、あの日の衝撃。

 生足で踏んだアポロを食わされた、初対面での衝撃。


 (……あ、涎垂れてきた)

 

 自分でも信じられない、が。

 俺は、今でもあの味を……脳に染み出すような甘さが忘れられなかった。






 「豆知識」

 アポロちゃんはこの頃俺のことを「あんコペ」と呼んでいた。

 何故か知らないが突然俺のことを「あんバターコッペパン」と言い出したのがきっかけなのだが、何故そんなあだ名になったのかは今でもわからない。

 ただ一つ分かっているのは、この頃はあだ名をつけられるほど親密な友人関係が保てていたということだけである。

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