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第九話

 「え~?なんだよ、それ?」(れん)が言う。

「わかんなかったら、手伝うもなにもないだろ?」

「あ、ごめん。言い方が悪かったよ。なにをどう手伝えばいいかは、天狗さんに聞いたらわかるみたいなんだ。だけど、なかなか聞けなくて」ぼくは慌てて言い足した。


 「なにが、聞けないの?」隆之介(りゅうのすけ)が聞いてきた。

「この玉の力?だかが落ちてるせいで、ぼくとしか会話ができないんだ。だけど言ってる言葉がむずかしくてわからなくて。力が戻って誰とでも話せるようになったら、おばあちゃんに聞いてもらおうって思ってるんだけど」


 「ふうん。玉の力……かぁ。この玉、水晶って言ってたよね?」隆之介が言う。

「うん。ぼくがビー玉拾ったって見せたら、持ったとたんに『これは水晶だよ』って」

「じゃあさ、悠斗(はると)のおばあちゃん『浄化』って言ってなかった?」


 「言ってた。というか、まずは一番簡単にできる浄化をしてみましょうって流水にさらして。少し力が戻った天狗さんに聞いた浄化に使えるもの、天狗さんはきょうそうって言ってたけど。天狗さんが使ってた薬草の中でクコの実だったら手に入りやすいかもって、探してもらってるとこ……って(りゅう)はなんで『浄化』って言葉を知ってるの?」


 「ああ、ぼくのかあさんが天然石とかアロマに凝ってるから、ウチにいろいろそろってるんだ。ときどき『浄化しなきゃ』ってゴソゴソしてるの見てるし」

「そうなんだ」

「へえ、すっげぇ。隆のかあちゃんってカッコイイ趣味持ってるんだな」蓮も感心したように言った。


 「趣味っていうか、なんなんだろ?占いとかああいうの大好きみたいだよ。でもしょせんはシロートだから、どこまでできてるかは知らないけどね」

そうクールに言いながらも、隆之介は母親がほめられたのがうれしそうだった。


 「ねえ。じゃあさ、隆。おかあさんにどんな浄化法があるかきいてくれる?できれば簡単なもので」ぼくは隆之介にたのんだ。

「うん、いいよ。たしかこの何日かは出張って言ってたから。帰ってきたら聞いてみるよ。水晶の浄化……でいいよね。天狗さんのことは、どうしよう?」


 「隆のおかあさんって、そういうの信じる人?」

「信じるかはわからないけれど、TVで『神秘!』とか『ミステリー』ってつく番組は観てるから興味は持つかも。ま、深く聞かれたら伝えることにするよ」


 なんだかおばあちゃんと似たタイプかも……おばあちゃんはTV観ないけど、本棚にはそういう本がいっぱい並んでるから。

「よ~し。じゃあ、そういうことで決まりな。さ、やろうぜ!かくれんぼ」智生が言った。


 「最初はグー!ジャンケン……」ぼくと智生と蓮がグー、隆之介がパー。

今日は負けちゃった。

「じゃあ、数えるよ。いーち、にー……」ぼくらのカウントダウンの声を聞きながら隆之介は隠れ場所を探しにかけだしていった。


 「ただいまー!」

遊びから帰って玄関でスニーカーを脱いでいたら、キッチンからママが顔を出した。

左手に持ったスマホを耳に当てながら、右手でぼくを手招きする……どうやら誰かと電話中みたい。


 手を洗ってキッチンに行くと、ママは耳にあてていたスマホをぼくに渡しながら言った。

「おばあちゃんからよ。悠斗に用事があるみたい」

「ありがとう。……もしもし、悠斗だよ。どうしたの?」


 「ああ、悠斗。今日、話してたこと覚えてる?」

「うん。あ、あったの?」

「大した量は入ってなかったけどね、ちゃんと見つけたよ。今日はもう夕方だから、明日にでも試しに来る?」


 「うん!行く行く!ねえママ、明日もおばあちゃんちに行ってきていい?」ぼくは調理中のママにたずねた。

「いいけど。今日も行ってきたんでしょ?今度は何の用事?」ママは調理の手を止め、ぼくを見て言った。

ママがこう聞き返してくることは、おばあちゃんと予想していたことで。


 だからぼくは、おばあちゃんと予行演習していたいいわけを言うことにした。

「今日、おばあちゃんちに行ってた時にわからないことが出てきてね。おばあちゃんもすぐにはわからないみたいだったから、調べておくって言ってくれてたの。それで、わかったから教えてあげるって」


 「教えるって、電話じゃダメなの?」

「うん。ちょっとした実験が必要になるんだ」

「ふうん。まあいいけど、お昼ごはん食べてからにしなさいよ?」

「はぁい。あ、おばあちゃん。昼ごはん食べてからなら行っていいって」


 「わかった。じゃあ明日ね」

そう言っておばあちゃんからの電話は切れた。

ぼくはママのスマホを食卓の上において、自分の部屋に行った。


 机の前に座って、ポケットから出した玉に話しかけてみた。

「ねえ、天狗さん。起きてる?」

ちょっと間があいて返事があった。

【なんじゃ?】


 「あのね、おばあちゃんが少しだけどクコの実を見つけたんだって。だから明日おばあちゃんちに行って、浄化?きょうそう?を試そうと思ってるんだ」

【そうか】

「あと、昼間遊んだ友達のお母さんのひとりが、パワーストーンが好きで、浄化とかにも詳しいらしくて。いい方法があるか教えてもらう約束してるんだ」


 【ぱわーすとーんというのは、なんじゃ?】

「あ、天狗さんが入れられてる水晶?とか、天然石をそう呼ぶんだって」

【ふむ……それから友達というのは、昼間ぬしのそばにいたおのこ共のことか?】


 「おのこ……って?まあ、いいけど。ねえ昼間、ぼくの周りが見えてたの?」

【見るだけはな。声も聞こえてはおったが。ぬしのほかに三名おったの】

「あたり。でも声が聞こえてたのだったら、話しかけてくれたらよかったのに」


 【まだ、今のぬしとのように近しい位置にいないと声を届かせるのは難しいようじゃから、やめておいたのじゃ】

あ、そっか。

話しかけてくれてもぼくだけにしか聞こえないし。

そしたらまた通訳したりで大変だったかも……特に智生とかしゃべりたがっただろうな。


 



 

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