第八話
お昼ごはんを食べてかたづけをすませたら、もう一時になっていた。
「一時間半ってとこね。そろそろ、どうかしら?」
おばあちゃんは蛇口をひねって水をとめ、コップから玉をとりだしキッチンペーパーで水気をふいて、ぼくに渡してくれた。
見た感じは、ぜんぜん変わっていない。
窓の光にすかしながら、聞いてみた。
「天狗さん、気分はどう?」
【ふむ。悪くはない。精気もわずかだが回復しておるようじゃ】
「よかった。おばあちゃんが“浄化”っていうのをしてくれたんだよ」
【おばあちゃん?】
「えっと、ぼくのママのおかあさん……って、なんていったらいいの?おばあちゃ……みやさん」
「そこは、祖母で伝わるんじゃないの?」
「そっか、ありがと。えっとね、天狗さん。おばあちゃんっていうのは祖母のことだよ」
【ぬしの祖母殿か。世話をかけたの】
「世話をかけたの、だって」
「どういたしまして。もっと効果が高い浄化をしてさしあげたかったのですが。なにか御存知ないですか?……と聞いてくれる?」
「わかった。あのね、もっと効果が高い浄化をしたかったけど、なにかごぞんじないですか?って」
【ふうむ。浄化となるのかはわからぬが、強壮としてなら薬草などを煎じて飲む事があったぞ】
「ありがとう。あのね、きょうそうとして薬草などをせんじた茶を飲む事もあったって」
「薬草茶ね。確かに効果はありそうね。どんな薬草を煎じていたかも聞いてくれる?」
ぼくを通してしか会話ができないっていうのも、なかなか不便だよ。
なんとか直接会話ができるようになるといいのに。
「どんな薬草を煎じてたの?」
【そうさのう、玉竹、木瓜、枸杞、鳴子百合といったところかの】
……聞いたことがない名前ばっかりだ。
おばあちゃんからメモ用紙を借りておいてよかった。
「えっと、ギョクチク、ボケ、クコ、ナルコユリ……知らない名前ばっかりだよ」
「そうね。ボケとクコなら聞いたことはあるけれど今の時期手に入るかしら。あ、クコの実ならスーパーに売ってあるかもしれないわね」
「そうなの?」
「悠斗は杏仁豆腐食べたことないかな?あの上に赤い実がのってるでしょうあれがクコの実なのよ……スパイスコーナーに売ってあるといいんだけど。クコの実でお茶を入れる方法やその他の薬草はあとで調べてみるね」
「うん。ありがとう」
ふと時計をみると三時を過ぎていた。
「あ!もうこんな時間。友達と遊ぶ約束してるから、ぼく行かなくちゃ。あ、ビー玉どうしよう?」
「わたしが持っていてもどうしようもないし。とりあえず持って帰りなさい。なんならあとでスーパーに行くから、クコの実を見つけたら買っておくわ」
「じゃあ、明日も来ていい?」
「いいわよ、いらっしゃい」
「悠斗、おせーよ」公園に近づくぼくを見つけた蓮が言った。
「ごめーん。おばあちゃんちに行ってたんだけど、出るのがおそくなっちゃった」
おばあちゃんちから待ち合わせ場所の公園まではゆるい上り坂になっているので、自転車をこぐのは結構大変なんだ。
「悠斗来たから、さっそくやろうぜ!かくれんぼ」智生が言う。
「最初はグ……」
「ちょっと待って!」ぼくは、じゃんけんのかけ声をかけようとした隆之介をさえぎった。
「なんだよ?」
いつもはクールな隆之介の声が少しだけとんがってる……。
「あ、ごめん、隆。あのね、その前に昨日拾ったものをみんなに見てもらおうと思ったから。来るのが遅くなったのも、そのことでおばあちゃんちに行ってたからなんだ」
「そういえば、なにか拾ったって言ってたよね。何を拾ったの?」智生が聞いてきた。
「これなんだ」言いながら、ぼくはポケットからビー玉を出してみんなに見せた。
「なんだよ、ただのビー玉じゃないか」のぞきこんだ蓮がつまらなそうに言った。
「それが、ただのビー玉じゃなかったんだ」ぼくは言った。
「それって、どういうこと?」隆之介が聞いてきた。
「これ……水晶玉で、中に天狗さんが封じ込まれているんだ」ぼくが言うと、三人は口々に言った。
「ウソだぁ!信じられるかよ?そんなこと」
「そんなこと、あるもんか」
「遅れたいいわけだったら、もっとマシなウソつこうよ」
ひと通りみんなが言い終わったあと、ぼくは言った。
「ぼくだって、信じられないよ。でも、ホントなんだ」
そうして、昨日みんなと別れて帰ってからあったことを、今日おばあちゃんちで話したことも含めて、みんなに聞いてもらった。
「ほんと……なのか?まあ、悠斗がそんな手のこんだウソつくとは思えないから多分ホントなんだろうな」隆之介がポツリと言った。
「それで?悠斗は手伝うの?その、天狗さんだっけ」蓮が言った。
「うん。手伝ってあげようかな?って思ってる。でね、みんなにも手伝ってもらえないかな?って思うんだけど、どう?」こんなこと頼むの、図々しいかな?と思いながらぼくはみんなの顔を見回した。
みんなも、それぞれの顔を見比べている。
「……いいんじゃない?手伝うのも」最初に口を開いたのは隆之介だった。
「だね。困ってるみたいだし。先生たちもいつも言ってるもんね、困ってる人がいたら、助けてあげなさいって」智生も同意する。
「人助け……いや天狗助けなんて、なかなかできる経験じゃないもんな」そう蓮が言って、ニヤッと笑った。
「じゃあ、やりますか!」隆之介が音頭を取り、ぼくたちはハイタッチをかわしあった。
「で、なにをすれば天狗さんを助けられるの?」智生が聞いてきた。
「それが……よくわかってないんだ、まだ」