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第七話

 ぼくは、おばあちゃんに言われたことを天狗さんに伝えた。

「あのね、さっきの女の人は、ぼくのおばあちゃんなのね。それで、直接天狗さんとお話してみたいっていうんだけど、何かいい方法ってある?」


 【方法と言われてもな。わしがいくばくかでも能力(ちから)を取り戻せれば、可能かもしれぬが。如何せん玉そのものの精気も減っておるようでの】

ぼくはおばあちゃんに、がんばって記憶した天狗さんの言葉を伝えた。


 「えっとね、わからないことばが多かったから、そのまま言うよ?『ほうほうといわれてもな。わしがいくばくかでもちからをとりもどせれば、かのうかもしれぬが。いかんせんたまそのもののせいきもへっておるようでの』だって」

おばあちゃんは、ぼくの言うことを机の上のメモ用紙に書き写した。


 「力が戻れば、ね。精気が減ってるということは、どういう意味かしらね?天然石だとパワーが減ったと感じたら浄化しましょうって聞いたことはあるけれど。玉の浄化をしてみたらいいのかしら?」

そうつぶやくと、おばあちゃんはつと立ってリビングのすみにおいてあるPCパソコンのところに行った。


 「水晶……の浄化と」

カチカチとキーボードを打つ音が響く。

「そう、ねえ。どっちがいいんだか。太陽……塩……水……。あ!そういえば」


 今度は立ち上がってとなりの部屋に行き、しばらくガサゴソと何かを探すような音がしたかと思うと、ファイルを手にして戻ってきた。

「この説が本当だとすると……よし。これを試してみよう」

そう言って、ファイルをPCの横に置き、ぼくのところに戻ってきた。


 「悠斗(はると)、天狗さんは玉の精気が弱まってるって言ったんだよね?」

「うん」

「この玉ね、悠斗はビー玉って言ってるけど、それとはちょっと違って水晶という物質でできているのよ。ちなみにビー玉はガラスでできているの」


 「へえ……ガラスじゃないんだ。その水晶ってどういうものなの?」

「水晶は、パワーストーンのひとつでね。願い事をかなえたりとかお守りにしたりする、そういう特別なものなの。悠斗のママも薄水色の宝石が入ったペンダントつけているでしょ?」

「うん。すっごくきれいでキラキラしてる」


 「三月の誕生石でアクアマリンっていうんだけど、あれもパワーストーンになるのよ」

そうなんだ……たしかにママは三月生まれだけど、綺麗だからだけじゃなくお守りにもなってるんだ。

「それでね、そういうパワーストーンは時折“浄化”してパワーをとりもどしてあげる必要があるんだけど。その“浄化”をしてみようと思うのね」


 おばあちゃんはそういうと持ってきたファイルをぼくの前にひろげた。

「浄化には太陽に当てる方法、塩に埋める方法、流水にさらす方法……他にもいろいろあるけれど、簡単ですぐできるものがこのみっつ。で、この玉に封じられているのがカラス天狗だったら、この方法がいいと思う」


 そういっておばあちゃんはファイルの一部分を指差した。

「『カラス天狗は、水の神様の使い』……?」

「そう。水にまつわる存在のようなのよ。だから“水で浄化”してみようと思う。前に少しだけ調べたけど、湧き水のような天然水だったら短くていいらしいのよ。でも水道だからね……一時間か二時間か。そのくらいはかかると思う」


 「おばあちゃんちでやってくれるの?」

「……」

「みやさんちで、やってくれるの」


 「もちろん。こんな興味深い話を聞いたんだもの。私も直接話を聞いてみたくなるわ」

時計をみると、いつのまにか十一時半になっていた。


 「じゃあさ、その“浄化”っていうのをやってもらってる間に、ぼく一度ウチに帰ってきていい?ママに頼まれた買い物もあるし、お昼ごはんも用意してもらってるから取ってくる。あ、あと本も借りて帰っていい?」

「いいわよ。本棚の本は、どれを読んでもいいからね」

「ありがとう!」


 ぼくは、おばあちゃんの本棚にある『アルセーヌ・ルパン全集』の中から二冊選んだ。

学校の図書室でも同じ本を借りたことがあるけれど、表現が違うところがあって面白いんだ。

たとえば学校の新しい本は『イギリス人の』なのにおばあちゃんの本は『英国人の』といった感じ。

訳している人は同じなのにね。


 そういうとこを面白がるぼくは、(れん)に言わせると“物好き”らしいんだけど。

選んだ本をおばあちゃんに借りたバッグに入れ、帰りにスーパーに寄ってママに頼まれたものを買ってウチに帰った。


 借りた本を部屋の机におき、同じバッグにママが用意してくれてたおにぎりとカップスープを入れて、おばあちゃんのうちに戻った。

同じ日に二度もおばあちゃんちに行くなんて、めったにないことだ。


 「ただいま~」

まっすぐリビングに行き、テーブルにおにぎりとスープを置く。

「ねえ、ポットのお湯もらうよ?」


 「どうぞ。じゃあ、わたしも一緒に昼ごはん食べようかな」

おばあちゃんについてキッチンに行き、ポットのお湯をスープのカップに注ぐ。

野菜を食べるスープ……ミネストローネ風ていうの?トマト味で好きなんだ。


 おばあちゃんは『昨日の残り物』と言いながらお茶碗によそったごはんの上に冷蔵庫から出した麻婆豆腐をのせてレンジであたためていた。

麻婆どんぶりっていうんだって……麻婆豆腐、辛くて食べられないんだよな。


 「あ、浄化ってこうやってやるの?」

シンクにビー玉を入れたコップが置いてあって、ちょろちょろと蛇口から出た水が入ってはあふれ出ている。

「正しい方法というのはわからないけどね、ためた水よりは流水のほうがいいと書いてあったから」

おばあちゃんが教えてくれた。


 

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