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第六話

 「で、意味がわかったところで。悠斗(はると)はどうやって、その天狗さんと意思疎通したの?」

「うーん。それがよくわかんないんだ。拾って、持ってかえって、机のライトにすかして見ようとしたら突然、頭の中に声が聞こえたの。それと一緒に頭がぴりぴりって痛くなったの」


 「頭の中、ねえ。マンガやSF小説の世界では“テレパシー”って超能力があるけれど。現代日本で、ねえ。その声は悠斗にしか聞こえないの?」

「わかんない。昨日ママが夕飯よって部屋に呼びに来てくれた時に『声がしてた』って言ってたんだ……ぼく、天狗さんと話すのにふつうにしゃべって答えてたから。だからママに天狗さんの声が聞こえてたかはまではわかんない。すがたが消えた後は声も聞こえてこないし」


 「ふうん。なかなか興味深いわね」

「でね、しゃべってる言葉がぼくにはよくわからなかったんだ」

「どんなこと、言ってたの?」


 「最初はね“こわっぱ”って言われた。あと“むら”だとか“ぬし”とか。あ、“としはのいかぬ”とも言ってた」

「……古い言葉遣いね。それを聞いてると悠斗が言ってることが作り話ではないのがよくわかるわ」

「わかってくれる?」


 「もちろん。いくら悠斗が私のとこに入り浸って本を読み漁っているといっても、まだそういう言葉遣いが出てくる本は読んでないはずだからね」

「うん。はじめて聞いた言葉でめんくらっちゃった」

「あとは?」


 「えっとね。なんか、ビー玉の中に入ったのではなく、封じ込まれたんだって。で、元の姿を取り戻すのを手伝ってほしいって」

「元の姿を取り戻す?」

「うん。そう言ってた」


 「そういえば悠斗は、天狗さんの姿を見たのよね。どんな姿だったか覚えてる?」

「うん。覚えてる」

「絵には……描けないよね。どんな姿だったか説明できる?」

「えっとね……」


 ぼくは昨日見た姿を思い出しながら、おばあちゃんに伝えた。

「ふうん。その姿だとここの市に伝わる天狗伝説のカラス天狗の姿みたいね」

「カラス天狗?」

「そう。市役所の近くとかに像がたっているのを見たことない?」


 「市役所って、行ったことない」

「まあ、小学生には用事がない場所だからね。社会見学とかでも行ったことない?」

「警察署と消防署なら行ったことあるけど」


 「そんなものかね。じゃあ天狗伝説も聞いたことがないのね。あれ?でも悠斗お祭りには行ってるんじゃないの?ほら、二年に一度天宝(てんぽう)公園でやってるやつ」

「お祭り?去年行ったやつ?」


 「そうそう。フリマで面白そうな本見つけたって見せてくれたじゃない?あのお祭り、てんぐ祭りっていうんだけど?」

「え?そうなの?ぼくふつうに秋祭りだって思ってた」

あのお祭り、ちゃんと名前があったんだ。


 「てんぐ祭りかあ」

「そうよ。市報に詳しいことが載ってると思うから、帰ったら真智に言って見せてもらいなさい」

「おばあちゃ……ここにはないの?」


 「ああいうものは、読んだらすぐ古新聞と一緒に出しちゃうから、置いてないのよ。置いておくと、本を置くスペースが無くなっちゃうでしょ。それよりも、私も天狗さんとコミュニケーションとってみたいんだけど。どうやったら可能なんだろうね?」

おばあちゃんはお皿のビー玉をつまみあげた。


 そのまま窓から入ってくる光にすかす。

「真ん中がくすんでいるような気はするけれど……。悠斗だったら出てきてくれるかもしれないね」

そう言ってぼくに渡してきた。


 「え~?」

ぼくは受け取って、おそるおそるおばあちゃんがやったように、窓の光にすかしてみた。

そして呼びかけてみた。

「天狗さん、起きてる?」起き

てる?って聞くのも違うような気がするけど。


 【……何用(なによう)じゃ?】

「あ、よかった。天狗さん出てきてくれた」

【出るも出らぬも、封じ込まれたと言うたであろう?己の意志では出ることはかなわぬわ】


 「悠斗?天狗さんは出てきてくれたの」

おばあちゃんが聞いてきた。

「うん。あ、じゃあ、おばあちゃんには聞こえてないの?」

「うん。なにも聞こえてこなかったわ」


 ぼくがビー玉に向かって話してた姿にびっくりしたのか、つい“おばあちゃん”と呼んだのにふつうに答えてくれた。

「『何用じゃ?』って天狗さんが言ったから、ぼくが『出てきてくれたんだね』って言って。そしたら天狗さんが『封じ込まれたのだから、自分では出られない』って」


 「……その玉を持ったら、声が聞こえるのかもしれないわね。ちょっと貸してくれる?」

ぼくはビー玉をおばあちゃんに手渡した。

おばあちゃんは、さっき僕がしてたのと同じようにビー玉をすかし持ち、声をかけた。


 「こんにちは。私の声が聞こえますか?」

……まあ、はじめましての声かけならそんなものかな。

しばらく待ったけれどなにも聞こえてこなかったようだった。


 おばあちゃんが返してくれたビー玉に、こんどはぼくが声をかけた。

「ねえ、おばあちゃんの声、聞こえた?」

【いや、何も聞こえておらぬ。わしも、おぬしは誰じゃ?と先ほどのおなごに声をかけたが、聞こえていなかったようじゃの】


 それを聞いて、ぼくはおばあちゃんにも伝えた。

「あのね、天狗さんにもなんにも聞こえてなかったし、おばあちゃんにむかって話しかけもしたって」

「そうなの……悠斗を介さないとコミュニケーションが取れないのは不便ね。もしかして封じられて力が弱められているからかしら?」


 そうしてしばらく考えてから言った。

「ねえ悠斗、天狗さんに聞いてくれえる?あなたの言葉こえを私も一緒に聞きたいけれど、どうしたらいいですか?って」


 

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