第五十一話
「遅かったわね、どうだった?」
トンネルの出口には、おばあちゃんが待っていた。
「天狗さんは、あったの?」
「あ……」
なにから、どう話していいのかわからなかった。
それより、なにか言うとまた泣いちゃいそうで。
「……悠斗?それにあなたたちも、もしかして泣いてたの?」
おばあちゃんは困っているようだった。
「いったい、中でなにがあったの?ここで聞きたいけれど、時間も遅いし……だけど、そんな呆ほうけた状態でこの石段を降りるのは、いくら手すりがあるといっても危ないし。どうしたものかしらね」
≪……先ほどは最後と言ったが、手助けのひとつなりしてやらんとな≫
「え?だれ?」おばあちゃんが、びっくりしたような声を出した。
「!!大天狗さん!手助けって?」
「え?大天狗さんって、どういうこと?」
「おばあちゃんにはあとで、ちゃんと話すよ。大天狗さん、出てきてくれたんだ」
≪お前の祖母殿が困っているようだったからな。ちょいと石段を下りる手助けをしてやろう……お前たちは高いところは得意か?≫
「おれはだいじょうぶ」
「おれも」
「ぼくは好きなほうかな」
三人が口々に言う
「ぼくは……少し苦手だけど、大丈夫」
≪祖母殿は、どうだ?≫
「私も、基本は大丈夫……です」
≪よかろう。ならば……≫
大天狗さんがそう言うと、ぼくたちの周りで風が吹き始めた。
そして……ぼくたち五人の身体がふわっと浮いて木の上に出た。
「おおおっ!」蓮が小声で叫んだ。
ぼくたちはそのまま空中を進んだ。
足元には木が茂る山が見える。
ちょっと怖いけど、きれいな景色だと思った。
≪ここでよいだろう≫
ぼくたちが下り立ったのは、洞穴へ続く山道の入り口だった。
「すっげ!空、飛んだな」
「智生、飛ばせてもらった、だよ」
「ありがとう!大天狗さん」
≪礼がわりの余興だな。では、本当にこれで最後だ。元気で過ごせよ≫
ぼくたちは帰りの車の中で、おばあちゃんの質問攻めにあった。
そのほとんどは隆之介が答えてくれて、すごくありがたかった。
……こうしてぼくたちのTTPは、無事に終わった。
そして、夏休みも終わった。
「なんか……めまぐるしかったな」智生が言った。
「そうだね。玉を拾った時……一番最初が四月だったから……五ヵ月か」
「いろいろあったけど、楽しかったな」
ぼくは、持ち歩くのがくせになってしまった玉を取り出して、みんなの話を聞いていた。
そうだ、これ言っておかなくちゃ。
「ねえ、みんな。いまさらだけど、ぼくの変なお願いにつきあってくれて、いっぱい手助けしてくれてありがとう」
「なんだよ?それこそ『なにをいまさら?』だよ」智生が笑いながら言った。
「そうそう。おれらからしたら『おかげで楽しい経験ができたよ。ありがとう』だぜ」蓮も言った。
「またいつか、天狗さんたちに会えるといいね」隆之介がにっこり笑って、言ってくれた。
「うん。そのときは、また」
「「「「みんなで!」」」」
手の中の玉もキラッと光ったようだった。




