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第五話

 おばあちゃんちは、ぼくの家から海がわに自転車で10分くらいのところにある。

ここは、ママのおばあちゃんち。

パパのおばあちゃんちは車を使わないといけないくらい遠くにあるから、年に何回かしか行かれないんだ。


 でも(れん)は、どっちのおばあちゃんちも飛行機に乗らないと行かれないくらい遠いって言ってた。

会えるのは何年かに一度だから、しょっちゅうおばあちゃんちに行けるぼくがうらやましいんだって。


 おばあちゃんちについて自転車にかぎをかけ、前かごから袋を取っておばあちゃんちの玄関まで行った。

右上のインターホンを押す。

『ピィィィィンポォォォォォォォン』


 相変わらず間がぬけた音を出すなぁ。

ぼくんちみたいに『ピンポーン!』とか隆之介(りゅうのすけ)んちみたいに『ビビィー』ってするどい音が鳴る方がかっこいいと思うんだけどな。

チャイムを鳴らしてから玄関の引き戸に手をかけると、かぎはかかっていなかった。


 引き戸をあけて玄関に一歩入ったぼくは、声をかけた。

「おばあちゃーん。ぼく!悠斗(はると)。ママから頼まれたもの持ってきたんだけど、どこにおいたらいいの?」


 ──返事がない。

家の中はシーンとしている。

まあ、いてもテレビとかつけないおばあちゃんだから、静かなのはあたりまえだけど。


 そして思い出した。

おばあちゃんは“おばあちゃん”と呼んでも、返事をしてくれないことを。


 「みやさーん。ぼく!悠斗。ママか……」

「はい、いらっしゃい」

ぼくがしゃべり終わる前に、()()()()()から声がかかった。


 「わあっ!」

驚いたぼくをみて、“みやさん”……おばあちゃんはにやにや笑いながらぼくの横をぬけて玄関から部屋の中に入っていった。

「ほら、突っ立ってないであがっておいで。荷物は玄関の隅においててかまわないよ」

「はあい。おじゃましま~す」


 くつを脱いで、ちゃんとそろえておばあちゃんのあとに続く。

リビングに入りソファに座ると、おばあちゃんがキッチンから麦茶の入ったコップを持ってきてくれた。

のどがかわいてたぼくは、氷が浮いたコップをもらって麦茶をひとくち飲んだ。


 「で?今度は何を拾ったの?」

ゴフッ!!!


 おばあちゃんの言葉にびっくりして、飲み込もうとした麦茶にむせてしまった。

「なん……ゴフッ、で……ゴフッ、なにか……ゴフッゴフッ、拾ったって……ゴフッゴフッ」

ああ、苦しかった。


 ようやく落ち着いたぼくに、おばあちゃんは事もなげに言った。

「だって、悠斗は何か拾うと必ず私のところに来るでしょう?拾ったんだけど、どうしよう?って」


 図星。

前に捨てられてた子犬を一回、子ねこを二回道ばたで拾ったことがある。

飼いたいんだけど、ママが犬が苦手で、ねこアレルギーだからウチでは飼えなくて。


 でも、そのままにしておくのもかわいそうだったから、おばあちゃんをたよった。

子犬も子ねこも、おばあちゃんがお友達とか知り合いに聞いてくれて無事に飼ってくれる人が見つかったんだけど。


 おばあちゃんは言ってた。

「私も動物が好きだから飼ってあげたいけれど、真智(まち)(ぼくのママ)が遊びにこれなくなるからね」って。


 でも、今度のは……。

「おや?なにか生き物拾ったんじゃないの?見たところ何も持ってないし、自転車にも乗せてなかったよね?」


 「うん。拾ったのは拾ったよ。でも生き物って言っていいかがわかんなくて」

「いったい、何を拾ったの?」

「これなんだけど」


 ぼくはポケットからビー玉を出して手のひらにのせ、おばあちゃんに見せた。

「拾ったのは、このビー玉なんだけど。中に天狗さんがいるんだ。だから天狗さんを拾ったことになるんだけど・・・・・・天狗さんって生き物なのかな?」


 「ちょっと見せて」

おばあちゃんはぼくの手からビー玉を取って親指と人差し指ではさみ、中をのぞきこんだ。

「これはビー玉じゃないね、水晶玉よ。で、その天狗さんはどこにいるの?見たところ何の姿も見えないけれど?」


 「あのね、真ん中あたりにくすんで見えるとこがあるでしょ?昨日はそこがもやもやって黒っぽくなって、天狗さんの姿が見えたの。でもしばらくしたら疲れたからって消えたの」

「じゃあ、悠斗は姿を見たんだ。っと、その前に。なんで天狗さんって呼んでるの?」


 「天狗さんが自分で言ってたの。“村の者からは天狗様と呼ばれてる”だったかな」

「そうなの。じゃあ悠斗はその天狗さんと意思疎通ができたのね」

「……いしそつうって?」


 「ほら、そうやってすぐ人に聞かないで。自分で調べてごらん」

おばあちゃんはビー玉を持ってない方の手で辞書をわたしてくれた。

そしてしばらくビー玉をながめた後、キッチンから小皿を持ってきて机の上に置き、ビー玉を皿に置いた。


 ぼくは渡された辞書をひいたけれど“いしそつう”ではのってなかった。

「おばあちゃん?いしそつうって、どこで区切るの?」

「……」


 「……みやさん。いしそつうってどこで区切るの?」

「いし、そつうよ」

「ありがとう」


 (いしは・・・・・・意思かな。思ったこと、考えていること。そつうは、疎通しかないから。意見などが途中で妨げられず、よく通ずることかあ)

「えーっと。“思ったこととかがちゃんと通じること”であってる?」

「はい。正解。辞書ひくのがうまくなったね、悠斗」


 そりゃ、毎回のように調べさせられたら慣れてくるよ。

おかげで、学校で辞書使う授業のときは困らないどころか先生にほめられたけど。


 


 


 

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