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第四十九話

 「もっとも重要な場所?」

【うむ。わしが天狗となるきっかけとなった場所じゃ】

たしかここは、大天狗さんがいる場所だったから。

「じゃあここって、天狗さんが『天狗になる修行をしないか』と言われた場所?」

【そのとおりじゃ。父上に声をかけていただいた場所……】

天狗さんの声、なんだか懐かしそうに聞こえる。


 「天狗さんのスタート地点……初心に戻れ、か」

隆之介(りゅうのすけ)がぽつりといった。

≪まさに、そのとおり。こやつはなかなか()()を思い出さなかったようだが……思い出しても来られなかっただろう。なにせあのころと違って今は地名・住所がないとどこにも行かれないからな。現在いまを知らぬこやつでは伝えようがない≫


 「ところでここがスタートでゴールの場所だとして、ほかの場所はどうしてそこになったんだ?」(れん)が聞いた。

≪他の場所もすべて“修行”に関わる場所となっている≫

「そういえばわき水の案内看板に、そういうことが書いてあったような」隆之介が言った。

≪清い水は日々の糧としても大切だが、修行する我らにとっては(みそ)ぎのために必要かつ重要な場所となっているのだ。だから我は水の力が交わるこの場に我の窟を作った≫


 「くつ?」

「たぶん、岩山を掘って造った住居ってことだよ、悠斗(はると)

「ここは大天狗さんの家ってこと?」

「そう。そして天狗さんの分身を見つけた三ヶ所と、空ぶりに終わった一ヶ所。その四ヶ所がわからなかったら、多分ここへはたどりつけなかった」

≪そこの坊主は、物知りのようだな。冷静で頭のキレもよさそうだ。おお、そうだ。この場を導き出したのは、そこの坊主だったな≫

 

 「え?なんで大天狗さんがそれを知ってるの?」ぼくはびっくりして尋ねた。

≪我はこやつをずっと視ていたと言ったろう?こやつの周囲で起こることはすべて把握していた……手出しはしなかったがね≫

ぼくたちの行動、みんな見られてたんだ。


 ≪それから。女人禁制ゆえ外で待ってもらっているお前の祖母も、かなり柔軟な考えを持っているようだな。まさか座標を利用して移動するとは思わなかったぞ≫

「にょにんきんせい?」聞いたことがない言葉だった。

「女の人は入ってはいけない、ということだよ」隆之介が教えてくれた。

≪今のジェンダーフリーの時代にはふさわしくないが、昔からの決まりでね。仕方がないと思ってくれ≫


 「あ、だからおばあちゃんだけ入ってこれなかったんだ。おばあちゃんも言ってたけど、ここはそういう結界なんだね」

「それはそうとさぁ」ずっと黙ってた智生が言った。

「いったい、いつになったら天狗さんの右手が戻るんだ?元の姿ってやつ、早く見たいんだけど?おれ」

あ、すっかり忘れてた。


 ≪それでは、戻してやるとしよう≫

いつのまにか浮いていた玉は、ぼくの手の中に戻ってきていた。

≪さて、どうじゃ。おぬしはどこにあると思うか≫

大天狗さんの話し方が、古くさくなっている。

【わしは……】

ふうっと風が吹いた。


 【のう、すまぬがもう少し前へ進んでもらえぬか?】

天狗さんの話し方もいつもと違ってる。

「前って、こっちの方?」

【うむ……上に()いておる穴の真中(まなか)あたり……このあたりでよかろう。そのままわしを高くあげてくれぬか】

「このくらい?」

ぼくは石窟でやったように、玉を持った手を高く上げた。


 【もう少し、上へいけぬか?】

「ぼくじゃ、これ以上は無理だよ」

ぼくは手をできるかぎり伸ばし、精一杯背伸びしていた。

「高く上げるのって、悠斗(はると)じゃなくても大丈夫なんだろう?」

そう言って(れん)がぼくに近寄り、右手を出してきた。

「このくらいなら、どうだ?」

蓮は、ぼくが渡した玉をせいいっぱい背伸びして上にあげた。


 ピカ──────────────────ッ!!!

今まで見たこともないようなまぶしい光が洞穴を満たした。

さすがに慣れたから叫び声はあげなかったけれど、やっぱりまぶしくて目をつぶってしまった。

≪もう、目をあけてもいいぞ≫大天狗さんの声がした。

ゆっくりと目を開ける。


 「天狗さん、どんな姿になったの?」

いつものように、玉の中をのぞきこんだ。

そこには……なにもなかった。

「え?なんで?天狗さん、最後の右手も戻って元の姿を取り戻せたのでしょう?なんで姿が見えないの?」

≪お前……悠斗とかいう名前だったか。元の姿を取り戻すということがどういうことかわかるか?≫

「え?それは……頭以外の、バラバラに隠されている手とか足とかを全部見つけてひとつの身体に戻ること、じゃないの?」

≪その考えは、間違いではない。ただ悠斗が忘れていることがある≫


 「忘れてること?」

≪あやつの頭は、何故玉の中にあった?≫

「忘れてないよ!それは大天狗さんに封じられたから入ってい……」

あ……そうか。

「!封じがとけたんだ」


 ≪そう。元の姿を取り戻して封じが解けた。だから玉の中に姿がないということだ≫

「じゃあ、天狗さんはどこにいるの?ぼく、会いたい!」

≪会う……ことはかなわぬ≫

「なんで?元の姿を取り戻したんでしょう?その姿を見てみたいよ」

「おれも見たい!最後の手助けしたの、おれだし」蓮もとなりで言ってくれた。


 ≪確かにあやつは元の姿を取り戻せた。だが生身の姿としてお前たちに会うのは不可能だ≫

「だから、どうしてだよ!」珍しく蓮が苛立った声をあげた。

≪我たちが、いつからこの世に()るかわかっているか?≫


 



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