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第四十七話

 ぼくは呼吸をととのえながら水筒の水を飲んだ。

目の前には大きな岩壁があって、すみのほうに入口みたいな穴があいている。

「あそこが入口かな?」横に立っていた(れん)が聞いてきた。

「たぶん、そうだと思う」

「ふたりとも、もう大丈夫?」隆之介(りゅうのすけ)が聞いてきた。

「うん、大丈夫」

「おれも」

「おばあさまは?」


 「わたしもなんとか。さすがにみんなみたいには上れなかったけどね」

そう言うおばあちゃんも、ぼくたちにほとんど遅れずに上ってきたのにはちょっとびっくりしちゃった。

「まあ、明日か……明後日にはきっと筋肉痛でしょうけどね」

「じゃあ、みんなそろったところで。しゅっぱぁ~っつ!」

智生(ともき)……元気すぎる。


 「ちょっと待って」隆之介が智生を止めた。

「なんだよ?」

「中。真っ暗かもしれないでしょ。だから、これ」

そう言って小型の懐中電灯を手渡した。

「あ、そっか。サンキュ」

その場でスイッチをいれると、青白い光がついた。


 「お~!これ、明るいやつ!」

「あら、隆之介くんも持ってきてたの。ありがとう。じゃあ、私が持ってきたのは悠斗(はると)が持ってなさい」

「ありがとう」

おばあちゃんから受け取った懐中電灯をつけてみた。

ちゃんと青白い光がついた。


 「もしも真っ暗でも、懐中電灯が二つあると安心だね」

「そうね」

穴の前では智生がおそるおそる中をのぞきこんでいた。

「どうしたの?」

「いや、なんとなく緊張しちゃってさ」

「そんなこといってないで、サクッと中を照らしてみればいいだろ。悠斗、それ貸して」

蓮はそう言ってぼくの手から懐中電灯を取ってスイッチを入れ、入口から中を照らした。


 「あ、ひでぇ」

「あ、ひでぇじゃないだろ?目的は中に入ることじゃないのか?」

「それはそうだけど、なんとなく初めて入るわくわく感って長びかせたくないか?」

「おれは、早く目的を達成する方が大事だよ。智生は“リーダー”なんだろう?」

「……わかったよ。じゃあ、入るぞ」


 「入る前に」隆之介が言った。

「中って、どんな感じになってるの?」

入口があまり広くないから、蓮と智生の体で中が見えない。

「えーっと、地面はここと一緒で土かな。壁は岩みたいで、ゴツゴツしてる。せまくてトンネルみたいな感じで……あれ?」

「どうしたの?蓮」

「気のせいかな?ちょっと灯り消すぞ。……見間違いじゃない。向こうの方が明るくなってるから、出口があるみたいだぞ、(りゅう)


 「じゃあ、ここは洞穴じゃなくトンネルってことなのかな?」

「どこかに抜けられるんだったら安心だな。じゃあ、出発!」

「……ねえ、隆。もしかして行き止まりかもって心配してたのかな?智生」

「そうみたいだね」

先頭の智生に続いて蓮、隆之介が入って行った。

そしてぼくが入った後におばあちゃんが入って……来れなかった。


 「あれ?おばあちゃん?」

「どうしたのかしら?入れないんだけど」

ぼくは穴の外に出て、おばあちゃんを先に行かせようとした。

でも入れなくて。

手をつないで入ろうとしても、おばあちゃんの体の一部が入ろうとすると外に出ているぼくの手も入れなかった。


 「もしかしたら()()なのかもしれないわね。私はここで待っているから、悠斗はみんなのとこに行きなさい」

「わかった」

なんで、おばあちゃんだけ入れないんだろう?そう思いながらみんなのあとを追った。

懐中電灯は持ってなかったけれど(さっき蓮が持っていったからね)トンネルの中はぼんやりと明るくて歩くのには困らなかった。

進むにつれて向こう側の光がだんだん大きくなり、突然ぱっと明るくなった。

「まぶしっ!」一瞬、目をつぶってそろそろとあけると、みんなが立ってきょろきょろと周りを見回していた。


 「どうしたの?」

「あ、悠斗。遅かったね……って、おばあさまは?」

「なんか、入口の所から入ってこれないって。きっとここは結界だろうから外で待ってるって」

「そうなんだ……結界。さもありなんって感じだよ。ここ」

言われてぼくも周りを見回した。

「ここって……」

そこはトンネルを抜けた先の外ではなかった。


 周囲にはごつごつした岩の壁がある。

ぼくたちが通ってきた道以外には、道はない。

「ここって、まだ洞穴の中?」

「そうみたい。あそこが外へ続いてはいるみたいだけど」

そういって隆之介が上を見上げた。

見上げた先には、空が見えた。


 「あそこから光が入るからトンネルの中も、うす明るかったんだろうね」

「こんなとこ、初めてだな。岩の洞穴ってかっこいいな」

入るのためらってたのも忘れて、智生が興奮している。

「なんだか、隠れ家?秘密基地って感じがするよな」蓮も楽しそうだ。

「ところで」コホンとひとつ咳払いをして隆之介が言った。

「ここに来た目的、忘れてない?」


 あ、そうだ。

ぼくも忘れるところだった。

ぼくはポケットから玉を取り出して話しかけた。

「天狗さん。今日は洞穴?洞窟?みたいなところに来ているんだけど。ここには天狗さんの分身って、ありそう?」

【ここか?】

天狗さんは、いつものとおり周囲を探っているようだった。

【む!ここは!】

「?どうしたの?」


 【わしは、ここにあるようじゃが。それより、ここは!!】

「どうしたの?ここって、天狗さんが知っている場所なの?」

【ここは、わしの。わしが……】

天狗さんが何か言おうとしたとき、声が聞こえた。

≪ようやくたどりついたか≫


 

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