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第四十六話

 「智生(ともき)……遅いな」

約束の時間になっても、市役所の駐車場に智生の姿がなかった。

「変だね。こういうときは一番乗りしてるのに」

ほんとに……どうしちゃったんだろう?そう、考えていると自転車が猛スピードで走りこんできた。

駐輪場に停めて鍵をかけて走ってくるのは、智生だった。

「悪い!寝坊した!!」


 はあ、はあと息を切らせながら智生が言った。

「ゆうべ、遅くまで書いてて……なんとか書き上げて寝たら、寝坊しちゃって」

「大丈夫だよ。遅刻っていっても5分くらいだし」隆之介(りゅうのすけ)が慰めるように言った。

「いーや!おれにしたら大遅刻。一番乗りするつもりだったんだからな」

……やっぱり。


 「寝坊したって言ってるけど。智生くんは、ごはんはちゃんと食べてきたの?」

おばあちゃんが聞いたとたん、タイミングよくグゥ~と智生のおなかが鳴った。

「あらあら、じゃあ途中でコンビニにでも寄りましょ」


 コンビニで智生のサンドイッチとミルクティを買った。

お金を出してくれたのは、おばあちゃん。

ぼくたちにも何か要る?って聞いてくれたけれど、昼ごはん食べたばかりだから今はいいやって答えたんだ。

あとでなにかおやつおねだりしようかな。


 智生が夢中になって食べている間に、車は目的地へと近づいて行った。

「こんな場所、初めてだよ」隆之介が言った。

「おれも」(れん)も同意した。

「このまえはね、このあたりを歩いてたら知らないおじさんに声をかけられたんだ。でも……あれ?」

「どうした?」蓮が聞いてきた。

「あのとき、おじさんは畑仕事してたみたいだったのに……畑とかないなって」


 「場所が違うんじゃないのか?」

「そうかなあ?」

「そろそろ着くわよ」

車が停まった場所は、記憶していた場所だった。

というか、来たばっかりなんだもの。

だから、おじさんがいたあたりも間違えるはずがなくて。

でも畑がなくて……。


 「車の中からだと、違って見えるのかもしれないし。とりあえず行こうよ」隆之介が言った。

「そうだね。あのね、ここ。立て札があるところが入り口なんだ」

「へえ、立て札までたってるんだ。でも雑草で隠れちゃってるところを見ると、かなり長いこと誰も来てないみたいだね」

「でも誰も来てないわりには、道には雑草がほとんどないぞ?」

「あ、ほんとだ」


 この前は気づかなかったけれど、周囲はぼくの腰くらいの雑草が生えているのに、道には小さい雑草しか生えていない。

「でも、草がないほうが歩きやすくてラッキー。さっそく行こうぜ」

「そうだね」

智生が先頭を歩きたがったので、任せることにした。

もちろんこのまえのおじさんが『一本道』って言ってたからだけど。

智生の後ろを隆之介、蓮、ぼく、おばあちゃんの順で歩くことにした。


 「へえ、やっぱり山の中の木かげになると涼しいね」隆之介が感心したように言った。

少しだけ上り坂だったけれど、涼しいし歩きやすい道だったからぼくたちはどんどん歩いていった。

「ヒダリニマガリマス。ゴチュウイクダサイ!」突然智生が言った。

トラックとか大型車が角を曲がるときのアナウンスのまねをしているらしい。

「智生くんって、ユニークな子ね」うしろからおばあちゃんが声をかけてきた。

「うん、すっごくユニークだよ。なんていうのかなムードメー……」


 そう言いかけた時だった。

「げえっっっ!なんだよ?これ」角をまがったらしい智生が叫ぶ声が聞こえた。

「どうしたの?」

「なにがあった!」

あとを追って曲った隆之介と蓮もそれぞれ『ええっ!』『なんだよ、これ!』といった叫び声をあげた。

「なにがあったのかしら?行ってみましょう、悠斗(はると)


 角を曲がったぼくは、絶句した。

ぼくが見たものは、ずっと上まで続いていく急な階段。

いきなりこんなの見たらびっくりするはずだ。

それも上りなれている()()()()()()階段じゃなく、ごつごつした石でできた石段だった。


 「え~!これを上るのか?」智生が言った。

「上らないと、目的地につかないんだから。ここまできたら上るしかないじゃない?」

(りゅう)が言うとおりだよ。それに、そんなに上りにくくはなさそうだし。な、隆」

「うん。しっかりした作りの石段だし、簡単なものだけど手すりもあるし。これだったら頑張れば上っていけるよ」

「山道だから、歩くのが大変ってこのことだったんだ」ぼくはつぶやいた。


 「何か言った?悠斗」隆之介が聞いてきた。

「うん。道を教えてくれたおじさんが、ぼくが洞穴に行きたいって言ったときに『見どころがある』って言ってたの。そして『一本道だけど山道だから、歩くのが大変』って。そのときは歩きにくい道なのかな?くらいに考えてたけど」

「たしかに大変そうだけど、行くしかないよね。頑張ろ、みんな」


 「しかたない……(天狗さんを)T(助けるんだ)(プロジェクト)リーダーのおれがここであきらめたら名がすたる。上ってやろうじゃねえか!」

「やる気を起こしてくれたのはいいけど、いつ智生がリーダーになったの?」隆之介が聞いた。

「今」

「はあっ?」

「おれがリーダーで、隆が総司令官。蓮がボスで悠斗が総大将。そして悠斗のおばあさんが名誉会長」

「結局、みんなトップじゃねえかよ」蓮が笑いながら言った。


 笑ったおかげで、階段を見たショックも疲れもちょっとやわらいだみたい。

「じゃ、上りましょう。しっかりした石段だから大丈夫とは思うけど、気をつけなさい」

ぼくたちはさっきの順番で石段を上っていった。

上りながら数えてたけど、段を百段を超えたところで数えるのをやめてしまった。

そしてあとは、ただもくもくと上っていった。


 みんな無口になり、息づかいも荒くなってきた。

(あと、少し。あと、少し)そんな言葉を呪文のように胸の中で唱え続け……やっとのことで石段を上りきった。

立ったままひざに手をおいて、息を整える。

「やったな!」

「うん。やっと着いた」

智生と隆之介が汗をかいた顔を見合せて片手でハイタッチしていた。


 

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