第四十五話
翌日、公園で集合したみんなに昨日のことを話した。
「よかった……なにかがあって」隆之介は、なんとなくホッとしているようだった。
「天狗さんの身体が見つかった場所には何かの法則があるはずと思って、悠斗に地図を託したんだけど。もし何もなかったらどうしようって思ってたんだ」
……自信満々な顔で渡してくれたから確証があるんだと思ってたけど、そうでもなかったんだ。
「それで、その場所には行ってみたのか?」蓮が聞いてきた。
「ううん。地図の場所を特定するのに時間がかかったし、そこに行くのはみんなと行きたかったから。だからおばあちゃんが下見もかねて連れて行ってくれたんだけど、行っててよかったよ。道も結構探しにくかったから」
「ありがと、悠斗」隆之介が言った。
「それじゃあさ、いつ行く?」智生が言った。
「もう夏休みも終わるしさ、明日?明後日?早く行ってみてえ」
「ぼくと智生のとこは、悠斗のおばあちゃんと出かけるとなったら文句は言わないと思うからいつでも。だから蓮が行ける日だったらいつでもいいよ」
「おれもどっちでも大丈夫だから、悠斗のおばあちゃんの都合次第だな」
「おばあちゃんはいつでも大丈夫そうだけど……。念のため明日聞いて確認してからがいいよね。じゃあ、一応明後日ということでいい?時間はいつもどおりで」
「そっか、車借りたりもあるもんな。じゃあ、明後日ということで明日の返事を楽しみにしておこう。で、今日は何して遊ぶ?」智生が言った。
「なんでもいいけど……智生はもう宿題はカンペキなんだよね?」
「えっと……ナンノコトカナ?隆りゅう」智生がとぼけた顔で返事をした。
「ぼくが聞いてるのは、宿題は終わってるよね?ってことだよ……日記は仕方がないとして。ぼくたちが選んだ本、ちゃんと読んだよね?」
「え……あの本、おれには難しすぎるよ」
「と、いうことは感想文の宿題、終わってないということだよね?」
「う……」
「それ以外は?ドリルとか」
「そっちはなんとか」
「じゃあ感想文だけと……そうしたら今から本を選びなおしに図書館だね。蓮と悠斗はそれでいい?」
「もちろん」
「涼しいとこなら大歓迎」
「えぇ!!」
不満たらたらの智生を追いたてるようにして、ぼくたちは図書館に行った。
智生の本選びは隆之介に任せて、ぼくは自分が読むための本を探しに書棚にむかった。
「あら、悠斗も来てたの?」
「あれ、おばあちゃん。どうしたの?」
「昨日の場所についてなにか解かるかもと思って郷土資料のコーナーに行ってたんだけど、なにも見つからなかったのよ。特にいわくがない普通の洞穴なのかもしれないわね」
「そうなんだ。あ!そうだ、そこに行くのいつにしようって話をみんなとしてたのね。それでぼく、明日おばあちゃんに聞くから明後日はどう?って言ったんだけど……おばあちゃん、行ける?」
「私はどっちでも大丈夫だけど。車が借りられるかどうかよね。今日は真智の仕事、何時までかわかる?」
「たしか……三時くらいまでって言ってた気がする」
「そう?じゃあ、電話しても大丈夫かしら……悠斗はまだ図書館にいるんでしょう?」
「うん、まだいるつもり」
「じゃあ、ちょっと電話してくるわ」
そういっておばあちゃんは図書館のドアから外へ出ていった。
しばらく待つと、おばあちゃんが戻ってきた。
「明日も、明後日も車を使う予定はないらしいわ。どっちでも好きな日に使っていいんですって」
「ほんと!じゃあ、みんなに聞いてくるから、ちょっと待ってて」
ぼくは隆之介たちを探して棚の間を見て回った。
(あ、いた)
児童書のコーナーの机で智生がページをめくっていた。
「(あ、本決まったの?)」
「(うーん。隆之介に選んでもらったんだけど、なかなか読むの大変でさ)」
「(そう?その本、ぼくも読んだことあるけど面白かったよ?)」
「(そうかあ?漫画だったらサクサク読めるんだけどな……あ~あ、漫画で感想文書いちゃだめなのかな)」
「(さすがにそれは、だめだと思うけど。あ、ねえ、みんなはどこ?)」
「(たぶん、あっちの本棚だと思う)」
「(じゃあ、ちょっと呼んでくる。そこでおばあちゃんに会ったんだ)」
隆之介たちはミステリーのコーナーにいた。
「(隆も蓮も、ちょっといい?)」
「(どうしたの?)」
「(さっき、おばあちゃんとばったり会ったんだ。だから今すぐでも日にち決められる)」
「(わかった)」
三人で智生のところに戻ると、まだ読み続けているようだった。
「(智生、まだ読みおわらないの?)」
「(そんなこと言っても、難しすぎるよ、隆)」
「(そんなんじゃ、智生だけ留守番だな)」
「(なんで留守番なんだよ?蓮)」
「(さっき悠斗がばったりおばあさんに会ったんだって。だから、今すぐでも行く日にちが決められるけど……宿題が途中の智生は連れて行かれないなっていう話)」
「ええ!そんな、ひで……」
「(シ───ッ!)」
「(わかったよ。急いで読むから!今日中に絶対読むから。でもって明日書くから)」
「(明日中に、絶対だよ?)」
「(約束する!)」
「(……そういうことだから、決行は明後日だね。時間と場所はいつもどおりで)」
ぼくはおばあちゃんのところに戻った。
「おばあちゃん、あのね智生の宿題が明日までかかりそうなんだ。だから行くのは明後日でお願いしたいんだけど、いい?」
「いいわよ。なあに?智生くん宿題終わってないの?」
「感想文がまだなんだって。いま隆之介がサボらないように見張ってるとこ」
「隆之介くんも大変ね。ところで時間と場所はいつもどおりでいいの?」
「うん」
「わかったわ。私はこれで帰るから、みんなによろしくね。あ、明日もうちに来るんでしょう?」
「うん。ばいばい。おばあちゃんありがとう」
バイバイと手を振りながら、おばあちゃんは図書館を出て行った。
こういう所では“みやさんチェック”入らないんだ。
みんなのところに戻ると、智生がものすごく真剣な顔をして本を読んでいた。
「(ねえ、隆。もしかして『あの場面』に入ったのかな?)」
「(多分そうだと思うよ)」
あの本、『あの場面』に入ってからすっごく面白くなるんだよね。
きっと読み終わるのも早いかもしれない。




