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第四十四話

 「……ないねえ」

「そうねえ」

ぼくたちは駐車した場所から先にむかって5分くらい歩いてみたけれど、道らしいものは見つけられなかった。

悠斗(はると)、悪いんだけど、しばらくひとりで探してもらえる?」

「いいけど、どうしたの?」

「車を取ってきて、先の方まで行ってUターンして戻ってくるわ。そうしたら帰りも楽でしょう?」

「そっか。わかった」

「じゃあ、よろしくね」

そう言っておばあちゃんは車の方に戻っていった。

しばらくするとエンジン音が近づいてきた。

ぼくの横で減速した車の中でおばあちゃんは(バイバイ)と手を振り、前方へと走っていった。

「暑いなあ……」歩きながら水筒の水を飲む。


 「おや、こんな暑い中を散歩かい?」

とつぜん男の人の声がした。

「えっ?」

びっくりして見回すと、道路わきの畑の中に知らないおじさんが立っていた。

「あ、こんにちは。えっと、散歩じゃなくて道を探してるんです」

「道?どこに行く道なんだい?」

「あの、えっと、この山の中にトンネルか洞窟みたいなものがあるらしくって。そこに行きたくて道を探してたんです」


 「トンネルか洞窟?。……ああ!そういえばあったな。あんなところに何か用事があるのかい?」

「いえ、用事っていうか。あの、ぼく、洞窟とかそういうものが好きで。だから夏休みの間に行ってみたいなって」

ぼくってやっぱり、うそつくの下手かも。

「ほう、最近の子どもにしては見どころがあるな」

「え?」

「最近の子どもはゲームだスマホだと家の中にこもってばかりだからな。俺の孫たちもヒマさえあるとゲームばかりだ。ふうん、あそこに行ってみたいなんて話、久しぶりに聞いたな」

「久しぶりって、誰か聞いてきた人がいたんですか?」

「いやいや、そんな奴はいない。俺らが子供のころに友人同士で教えあって以来だってことだよ」


 「あの、ぼくも友達と行こうって思ってるんです。でも、どんなとこかわからないから下見しようって、おばあちゃんが」

「へえ、ばあさんが一緒なのか」

「はい。今、向こうの方に車で行ってて、こっちに戻りながら道を探してくれてるんです」

「なかなかフットワークが軽いばあさんのようだな」

「はい。いつもぼくに色々教えてくれます。って、おじさん、そこへの行き道知ってるんですか?」

「もちろん。ガキの頃さんざん遊んだ場所だからな。ほら、この道をもう少し行ったところに杉の木がたっているだろう、あそこが入口だ。道はほんとに狭いから車だと気づかないだろうな。入口で戻ってくるのを待っててやれ」

「あ!ありがとうございます」

「ああ、それと。一本道だから迷う心配はないが、山道だから歩くのは大変だぞ」

「ありがとうございます!」

ぼくはお礼を言って、おじさんが教えてくれた場所をめがけて歩き出した。


 目印の場所にはすぐにつくことができた。

おじさんが言うとおり、せまい道がある……みたい。

ほんとにせまくて、田んぼのあぜ道くらいの幅しかない。

両側には木が生えていて陽射しをさえぎってくれるから涼しいんだけど、あのおじさんに教えてもらわなかったら、歩いてても気づかなかったと思う。

木の下には雑草がしげってて、どんな木がどこに生えてるかもわからなかった。


 おばあちゃんが戻ってくるのを待とうと、ぼくは地面に座った。

(おばあちゃん、まだかな?)

座ったまま車が来るはずの方向を見た。

「あれ?これなに?」

雑草のあいだに木の棒のようなものが立っているのが見えた。

立ち上がって草をかき分けてみると、あまり大きくない看板のようなものが立っていた。

「なんて書いてあるんだろう?」


 なにか文字が書いてあるけれど、消えかかってて読めなかった。

(おばあちゃんなら、読めるかな?)座りなおしてそう考えた時、僕の前に車が停まって声がした。

「悠斗!どうしたの?こんなところに座り込んで。気分でも悪くなったの?」

窓を開けた車の中からおばあちゃんが叫んでいた。

「あ、おばあちゃん」

「あ、おばあちゃんじゃないわよ。どうしたの?こんなとこで座るなんて。体調が悪くなったの?」

「ううん、体調は大丈夫だよ。それより、入口が見つかったよ、ほらここ」

ぼくは、立ち上がっておじさんに教えてもらった小道を指さした。


 「ここ?ほんとに?」

車を停めて下りてきたおばあちゃんが疑わしそうに言った。

「うん。さっき畑で仕事してたおじさんが教えてくれたんだ。散歩してるのか?って聞かれたからトンネルか洞窟への道を探してるって言ったの。そしたら、おじさんが子供のころに遊んでた場所だろうって、入口を教えてくれたの」

「疑うわけじゃないけど、ほんとにここが道なの?」

「一本道だけど、山道だから気をつけろって言ってた。あとね」


 ぼくは草をかき分けて、さっき見つけた看板をおばあちゃんに見せた。

「ほら、こんな看板もあったんだよ。古くて字が消えかけててよく見えないけど。これ、なんて書いてあるの?」

「あら、立て札が立っていたの。でも文字がほとんど消えてるわね。多分、3文字……最後の文字は『洞』のような気もするけど。仕方がないわね。他に道らしいものは見当たらなかったから、この場所に賭けてみましょ。ここが入口だとしたら……このスペースに停めるしかないわね。でも場所が確認できてよかった。ぶっつけ本番だったら見つけられなかったと思うし。あら、もうこんな時間。早く帰らないと悠斗が帰るのが遅くなっちゃうわ」


 車に乗り込んだおばあちゃんは車のエンジンをかけ、カーナビに現在地を位置登録していた。

「こんどは、迷わずに来れるわよ」

帰る途中、さっきのおじさんの姿を探したけれど見つけられなかったので、おばあちゃんにそう言った。

「もう夕方だから、用事を済ませて帰られたんじゃない?今度来た時、会えたらお礼言いましょう」


 

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