第四十三話
「おばあちゃーん!」
今日はママは午後から仕事だから、おばあちゃんの家で過ごしていい日。
それをいいことに隆之介の家から帰ったぼくは、昼ごはんもそこそこにおばあちゃんの家に行った。
「どうしたのよ?さわがしい」
「ねえねえ、これ見て。今日隆之介からあずかったんだけど」
「なあに?地図?」
「うん」
ぼくは隆之介の家でのことを話した。
「だから、この線が交差する場所がどこなのか、そのあたりになにがあるのを調べてほしいんだ」
「ここねえ、何があったかしら。とりあえずトレーシングペーパー探さなくちゃね」
「トレーシングペーパー?何に使うの?」
「目印になる道路と×の印を書き写して、同じ縮尺の地図に重ねるのよ。そうしたら交差する場所がわかるでしょう?」
「あ、そっか」
「……あると思ったけど、残ってなかったわね。クッキングシートは代わりに使えないかしら?」
見た目はそっくりだけど、どうなんだろう?
おばあちゃんは最初は机の上で書き写そうとしていたけれど、見えにくかったのか白地図にクッキングシートを粘着テープで貼りつけて、二枚一緒に窓に貼って透かして書き写していた。
「へえ、そんなやりかたもあるんだ」
「精密なものにはむかないけどね、あるものでなんとかしないと」
こういうのも年の功っていうのかな?
しばらくして書き写し終えたおばあちゃんはPCの前に座って市内の地図を画面に出した。
そして目印の位置が同じになるように地図を拡大していった。
「これでだいたい同じだと思うのだけど、プリントアウトしてみようか」
印刷された地図とクッキングシートを重ねると、ぴったりと位置が合っていた。
「さすが!」
「まだまだ、これからよ」そう言っておばあちゃんは交差した場所に針を刺して穴をあけた。
でも、そこは何の表示もない場所だった。
「地図がまだ小さいのね。えーと穴がここだから……地図のこの部分を拡大すればいいのね」
再度おばあちゃんは地図を拡大さた。
「おそらくこのあたりだけど、このあたりにあるものは……トンネル?ああ、道と通じてなさそうだから、もしかしたら洞穴ほらあなみたいなものがあるのかもしれないわ。洞穴なんて市内にあったのかしら?」
地図をのぞきこむと、そこには円を半分に切ったような形の記号が書いてあった。
「洞穴って?」
「この記号がある場所にはトンネルのような人工の構造物があるはずなのだけど、地図を見ても道路に通じてなさそうなのよ。近くに道はあるけれど直接、面していないの」
「だから、洞穴?」
「そう。人工物だけでなく、自然にできた洞穴にも使う記号だから、その可能性があるかもと思ったのよ」
「へえ、そうなんだ」
「……行ってみたいって、思ってる?」
「うん!」
「わかったわ。とりあえず場所の下見に行ってみましょう。行くならいつものメンバーで行きたいんでしょう?」
「もちろんだよ」
「だとしたら、また悠斗の家の車を貸してもらわなきゃいけないんだけれど……ここの道幅がどのくらいあるのか、知っておいたがいいと思うのよね」
それからおばあちゃんはPCでしばらく何か調べていたかと思うと、今度はスマホを取り出して操作し始めた。
「何してるの?」
「ナビよ」
「え?おばあちゃんの車、ちゃんとナビついてるじゃない?」
「あのナビは、住所とか施設名を入れないとだめなのよ。今から行く場所のように住所もなにもわからない時は使えないの」
「じゃあ、どうやって行くの?」
「悠斗は座標ってわかる?」
「ううん。わかんない」
「じゃあ、緯度とか経度は?」
「それも、わかんない」
おばあちゃんはまたPCを操作して、さっき使ってた地図とはちがう地図を画面に出した。
「この地図に、薄い青い線があるでしょう?」
「うん」
「この横線が緯度で、縦線が経度。緯度は赤道を0度として北極か南極までを90度でわけてあるの。赤道は、わかるわよね。 経度は子午線を0度として東西へ180度でわけたものなのよ。子午線は、イギリスの天文台に基準点がある線。地球上のどの場所も『緯度と経度の組み合わせ』で表すことができるの。それが座標」
「う……」
「まあ、今はわからなくてもいいわ。で、さっき見つけた場所の座標を調べて、スマホのナビアプリなら座標に対応しているから、数値を入力したところなのよ」
「えーと……じゃあ座標が住所がわり?」
「そう。ものわかりが早くなったわね。じゃあ、行きましょうか」
あてずっぽに言ったら当たったみたい。
「座標を目標にして走るなんて日が来るとは思わなかったわ」
運転しながら、おばあちゃんが言った。
ぼくは初めて見る景色に、きょろきょろしていた。
「ぼく、この道初めて通るかも」
「私も久しぶりよ。この道使う用事なんてそうそうないから……そろそろ目的地らしいわ」
おばあちゃんが車を停めた。
道路の片側は山で、反対側には田んぼや畑が広がっている。
家はところどころに建っているみたい。
「このくらい道幅があるなら、だいじょうぶね。あとは駐車できるような場所があるかしら」
(あまり離れたところには停めたくないんだけど)そうつぶやきながら、おばあちゃんはゆっくりと車を走らせて、少し走ったところで停めた。
「そうねえ、ここだったらちょっと路肩が広くなっているから停められそうね。悠斗、現地への道を確認するから降りておいで」
「はあい」
「おそらく、小道か何かあると思うのだけど」
車で来た道を、最初に車を停めた場所まで戻ったけれど道らしいものはひとつもみつからなかった。
「もしかして、遠くからぐるっと回ってこのあたりに戻ってくるのかしらね」
「地図を拡大したら道が出てくるんじゃない?」
「基本、車が通れる広さがないと表示されないのよ。こっちにないなら、向こうを確認しに行きましょう」




