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第四十二話

 「え?ないって……?ほんとに??」ぼくは天狗さんに聞き返した。

【間違いない。ここにはわしは()()

「そんな……だって、わき水だよ?ほら」そう言って玉をわき出る水にさらした。

【うむ。たしかによい水じゃ。じゃが、わしの気配は微塵も感じられぬ】

「そんな……」ぼくはぼうぜんと立ちつくした。


 「天狗さんの右手、ここにないって?」隆之介(りゅうのすけ)が聞いてきた。

「うん」ぼくは答えた。

なんで?どうして?という気持ちがいっぱいにふくらんだ。

「なんで、ここにないの?じゃあ、いったいどこにあるの?」


 きっとここで天狗さんの右手がそろうはず、そう信じて楽しみにしていただけにぼくは泣きそうになりながらそう言った。

「……ここになくて、残念というか悔しいんだろ?」(れん)が聞いてきた。

「うん」

「おれたちも同じだよ。というか天狗さんが一番がっかりしてるんじゃないのか?」


 「あ……」

そう、だよね。

「天狗さん」

【なんじゃ】

「右手、ここになくてごめんなさい」

【ぬしが謝ることではなかろう?】


 「そうなんだけど。見つからなくてがっかりしてるんじゃないかと思って」

【ふむ。がっかりしておらぬといったら、嘘になるが。ぬしらが懸命にこの場を探してくれたというだけで満足じゃ……手間をとらせるの】

……ぼくがなぐさめられちゃった。


【それに】

「なあに?」

【この水には憶えがある。なじみ深い懐かしい水じゃ。それだけでも満足ぞ】

「それなら、いいけど」

「まあ、ここの結果は残念だったけど。また次を探しましょう?ほらほら、早く下らないと水辺遊びする時間がなくなるわよ」おばあちゃんが声をかけてくれた。


 「そうだな!せっかく来たんだもん。遊びそこねちゃ損だよ」智生(ともき)が言った。

坂を下り水が入ったペットボトルを車において、タオルと水筒を持って水辺に向かう。

草が生えた川岸の奥には、ところどころにゴツゴツした岩がある広めの川が流れていた。


 「へえ、きれいな水」隆之介が川をのぞきこんで言った。

「あ!魚!!」智生が言うと「こっちにはカニがいるぞ!」と蓮が言う。

三人ともさっそく川遊びを楽しんでいるようだった。

「ほら、悠斗(はると)も遊んでいらっしゃいよ」

「うん……」


 でも何となく遊ぶ気分になれなくて……。

「いたたたた!天狗さん、いきなり何するの?!」

急に頭がピリピリした痛みに襲われた。

いきなりのピリピリ攻撃にびっくりしちゃった。

すごく久しぶりに受けた気がする。


 【わしの右手のことを気に病んでおるのじゃろうが。今日のところは忘れて存分に遊ぶがよい。祖母殿もおぬしの友とやらも、おぬしが沈んでおるのを気にしておるようじゃぞ】

川を見ると、三人が『早く来いよ!』って言いながらおいでおいでをしているのが見えた。


 「うん……行ってくる!」そういって、ぼくは川に向かって走り出した。

……でもピリピリ攻撃でなく、ふつうに話しかけてくれたがよかったな。

山のわき水では、天狗さんの右手を見つけることができなかった。

そのあとの水遊びは、とっても楽しかったけれど。


 あのあと、隆之介もおばあちゃんもそれぞれできる限りの方法でわき水がありそうなところを調べてくれたんだけど、なかなか“ここ!”という場所が見つからなかった。

夏休みも、もうちょっとしたら終わってしまう。

宿題は、自慢じゃないけどほとんど終わっていた。


 去年までだったら(もうちょっと後でいいよね)ってノンビリしてたけど、今年は“(天狗さんを)(助けるんだ)(プロジェクト)”ができない週末に頑張ったんだ。

……おばあちゃんのアドバイスなんだけどね。


 そういえばこっそり聞いたら、隆之介は日記以外は全部終わらせてるらしい。

塾とかいろいろやってて忙しいはずなのに。

いったい、いつやったんだろう?


 夏休み明け直前の登校日。

休み時間に隆之介が話しかけてきた。

「ちょっと、気になることを見つけたんだけどわからなくって。悠斗のおばあちゃんの知恵をかりたいんだけど、頼んでもらえるかな?」


 「いいけど。おばあちゃんの家に行く?……って、校区外だった。どうしよう?」

「ああ、大丈夫。悠斗が今日の帰りにぼくの家に寄ってくれれば。気になったところをプリントアウトしてるから、それを見てもらってほしいんだ」

「いいよ」


 放課後、隆之介の部屋でその“気になるもの”を見せてもらった。

それはぼくたちの市の白地図で、天狗さんが見つかった場所それぞれに×印がつけられていた。

「ここ、天狗さんが見つかった場所だよね?」


 「そう。最初に悠斗が見つけた場所と、身体があった場所と……って印をつけてみたんだ。場所になんらかの法則があるんじゃないかと思ったんだけど、そこから先が思いつかないんだ」

「法則……そういえば最初の玉以外は、みんな水にかかわる場所にあったんだよね。その法則がこの前は狂ったんだけど」

「そうなんだ。でも、見つかった部分だけだとなんかピンとこないんだよね……あ!もしかして」


 隆之介は白地図をもう1枚プリントアウトして×印をつけなおした……最初の場所を除いて。

そして最後の、空振りだった場所に新たに印をつけた。

「そこ、ダメだったところじゃない?」

「うん。そうなんだけどちょっと、ね。確か、ここの水に憶えがあるって天狗さん言ってたでしょ?で、四か所の印を二本の線で結ぶと」


 ……地図の上には、大きなバツ印が描かれた。

「この交差したあたりに、なにかあるんじゃないかな?」

白地図では、分からない。

大体の場所を地図で探したけど、わからなかった。

「ぼく、この地図持っておばあちゃんのところに行ってくるよ」

「頼むよ。もしかしたらぼくの思い込みかもしれないけれど」


 


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