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第四話

 【わしは、そんな鼻はしておらんぞ。空は飛べるがな】

「鼻が長くない天狗(てんぐ)なんているの?」

【わしは、わしと違う姿の天狗は見たことがない】


 ぼくが絵本で見てた天狗じゃない天狗?

「ねえ、じゃあ天狗さんは、どんな姿をしているの?」

【ふむ……そのくらいの能力(ちから)は残っておろう。おぬしが持っている(たま)の中をのぞいてみるがよい】


 ぼくはまた机のライトを点けて、かざしてみようとした。

【その!日輪(にちりん)をわしに近づけるでない。まぶしうてたまらぬ】

声と共に、またぴりぴりとした痛みが走る。


 「いたたた。え?日輪?これ、ライトって言うんだけど……」

近づけてはいけないと言われたので、仕方なく天井灯の光の中で見ることにした。

……天井灯に直接むけるのは、やめておいた。


  じっと中をのぞきこむと、さっき見えたくすみみたいなものがもやもやと動いて、だんだん色が濃くなって、なにかの形を作っていった。

しばらく待つと、その姿はくっきりとした形を持った。


 絵本で見た天狗が着ていたような見慣れない着物を着て、手には何ももっていないようだった。

絵本の天狗は、たしか葉っぱで作ったうちわみたいなものを持ってたと思うけど。

そして背中には鳥のような羽が生えていて、その顔には……長い鼻ではなく鋭く尖ったくちばしがついていた。


 「くちばし…?」

【どうじゃ?これが、わしの姿だ】

初めて目にするモノに面くらって何も言えずにいたら、また声が聞こえた。


 【どうじゃ?ぬしが言ってるような長い鼻など、どこにもついておらぬであろう】

まじまじと見ていると、ビー玉の中の姿がぼやけだした。

【ふむ……思った以上に堪えるわい。さすがのわしも草臥くたびれた。これで消えるからの】

そう言ってビー玉の中の姿が見えなくなった。


 「あれ?消えちゃうの?天狗さん??」

え……?

今のは、なんだったの?

ママに聞いてみようかな?


 でもママは今のを見ていないし……話を聞いてくれても、ぼくが本やマンガばっかり読んでるから、作り話だって笑っちゃいそう。

明日、(れん)たちに聞いてみようかな?


 隆之介(りゅうのすけ)だったら色々知ってそうだし。

あ!そうだ。

おばあちゃんだったら、何か知ってるかもしれない。


 いつなにを聞いても、なんにでも答えてくれるもん。

“天狗さん拾った”って言ったら、なんて言うかなぁ?

あとでママに、おばあちゃんちに遊びに行っていいか聞いてみよう。


 あ~あ、早く中学生になりたいな。

『小学生の間は、校区外に自転車で行くときは保護者の許可をもらうこと』なんて決まり、めんどうだよな。

そう思ったとき、部屋のドアをノックする音がした。


 「悠斗はると?ごはん、できてるわよ?」

ドアをあけたママが言った。

「さっきから呼んでたんだけど、なかなか来ないから。話し声が聞こえたけど、誰かと話してたの?」


 「ううん?あ、ひとりごと!ひとりごと言っちゃってたかも。読んでたマンガのセリフがかっこよくて」

机にマンガ置いたままでよかった。

「そうなの?まあ、いいわ。ごはんにしましょ。今日は悠斗が好きなミートボールスパよ」

「やったぁ!」


  食卓につくと、ママがお皿にスパゲティを盛ってミートボールが入ったソースをたっぷりかけてくれた。

「いただきます!」

大好物のスパゲティをほおばっているとママが話しかけてきた。


 「ねえ悠斗。明日の土曜日、おつかい頼んでもいい?ママ、急に仕事が入っちゃったのよ」

ぼくは口の中のスパゲティを飲み込んで答えた。

「いいよ。何を買ってきたらいいの?」

「朝までにメモに書いて、お金と一緒にテーブルに置いておくわ」


 「うん、わかった。あ、ねえ。買い物も行くけど、おばあちゃんち行ってきてもいい?自転車で」

「おばあちゃんち?いいわよ。なにか用事?」

「特にはないけど、また本を貸してもらおうと思って」

「わかったわ。あとで電話しておくわ。あ、おばあちゃんちに行くなら持っていってほしいものがあるんだけど頼んでいい?」

「うん」


 「じゃあ、それも明日の朝までに準備しておくわ」

「うん」

ぼくはもくもくとスパゲティを食べ、おかわりもして食事を終えた。


  部屋にもどったぼくは机の前の椅子に座り、拾ったビー玉を持ってのぞきこんだ。

もちろん直接光にむけないように注意して。

でもくすみは見えるけれど、さっきのような姿は見えないままで。


 (もしかして、夢でも見ちゃってたのかな?声が聞こえたりとか頭の中がピリピリしちゃったりとか。でも、そんなマンガみたいなことは、そう簡単におきるはずはないよね)

ふでばこの中にビー玉をもどし、さっき読めなかったマンガを読むことにした。

 

 よく朝起きた時には、ママはもう仕事に出かけたあとだった。

ママの出勤が早いのではなく、ぼくが起きたのが8時だったからなんだけど。

キッチンに行くとテーブルの上にメモが置いてあった。

 

 『悠斗へ。

おばあちゃんちに持って行ってもらう荷物は袋に入れて玄関に置いてます。

もしかしたら少し重いかもしれないから、用心してね。

あと、牛乳とジャム(ヨーグルト用ね)を買っておいてね。

ジャムは悠斗が好きなのを買って下さい』


 ママからのメモと一緒に千円札が一枚、飛ばないように小皿でおさえてあった。

顔を洗って朝食を食べた僕は、ママのおつかいをすませるために袋を持って、戸じまりの確認をすませて、ビー玉をポケットに入れて自転車でおばあちゃんの家に向かった。


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