第三十九話
「え?わかったの?おばあちゃん」
「ええ、なんとかね」
「どこどこ?どこにあるの?ぼくたちでも行ける?」
「そうせっつかないの。明日は悠斗はうちに来るんでしょう?」
「うん。昼から隆之介の家に行くけどね」
「じゃあ、地図とか準備してあげるから、それを持っていくといいわ」
「えー?どこにあるかくらい、今教えてくれてもいいのに」
「悠斗はうちの市の地図、頭の中に描ける?」
「……描けない」
「部屋にも地図はないでしょう?だったら明日、その目で地図を見たらいいわ」
「わかった。ありがとう、おばあちゃん」
「み・や・さ・ん」
「……ありがとう、みやさん」
おばあちゃんとの電話を終わらせたぼくは、スマホを返しにキッチンに行った。
「おばあちゃんからの電話、何だったの?」
「んとね、夏休みの宿題で調べてもわからないことがあったの。教えてって言っても教えてくれなくて。そのかわり、調べるための資料を見つけてあげたわよって」
「そんなことだったら、わざわざ電話かけなおさせなくても。私に伝言頼めば済むような用事じゃない」
「うん。そうかも」
ほんとのことは、言えないもんな。
でも“宿題”なのはうそじゃないし……おばあちゃんに言わせると『うそではないのよ、方便です』だって。
「ところで、今日の夕ごはんはなあに?」
「ごめんね、悠斗。ママ今日すごく忙しくて買い物に行けてないのよ。だから勝手丼なの」
「ううん。全然かまわないよ。最近食べてなかったから、そろそろ食べたいなって思ってたんだ。ぼくがお手伝いすることある?」
「今日は、特にないわ」
「じゃあ、部屋で本読んでるね」
部屋に戻ったぼくは、玉を取り出して天狗さんに話しかけた。
「さっきおばあちゃんからの電話で、もうひとつの水くみ場の場所がわかったんだって」
【そのようじゃの】
「明日、おばあちゃんの家で地図を見せてもらうんだけど。どこにあるんだろう?なんだかドキドキしてきた」
【なぜじゃ?】
「だって、天狗さんの右手があるかもしれないでしょ?だからだよ」
【ぬしの手では、なかろうに】
「うん。でも、なんだかぼくが失くしたものがみつかるような、そんな気分になるんだ」
【そういうものかの】
「悠斗ー。ごはんよ」
「あ、ママが呼んでるから行ってくるね」
【うむ】
キッチンのテーブルには、きざんだお漬物、ミックスベジタブル入り炒り卵、ミートボール、ツナ、ちぎったレタスが並んでいた。
それと、ケチャップとマヨネーズ。
茶碗に食べたい量のごはんをよそって、好きな具材を好きな量のせて丼にするんだ。
昔、ママが熱を出したときに、料理ができないパパがぼくのために考えてくれたメニュー。
冷蔵庫の残り物とか缶詰とか、あるものだけで作る丼。
「明日はちゃんと買い物に行って、おいしいもの作るわね」
翌日は、起きてごはんを食べてすぐにおばあちゃんの家に行った。
だって、少しでも早くおばあちゃんが見つけた場所を知りたかったから。
「おばあちゃん!どこ?どこにあるの?」
「来る早々、騒がしいわね。早い時間からくるだろうとは予想してたけど、思ったとおり。起きてすぐ来たんでしょう?」
「もちろんだよ。だって、早く知りたいんだもん」
「まあ、いいわ。こちらにいらっしゃい」
おばあちゃんの後についてリビングに入る。
ソファのまえのテーブルには大きめのと小さめの、それぞれ一枚ずつの地図が置いてあった。
「こっちの大きい地図が市内の地図ね。このあたりがウチで」そう言いながらおばあちゃんは地図の一点を指した。
「そして、目的地はここ」そう言って指した部分には赤ペンで丸が書いてあった。
「ここって……すごく遠いんじゃない?」
「そこそこ遠いわね。車で四十分くらいじゃないかしら」
「えーっ!そんなに遠いの?」
「そうなのよね。それと、こっちを見てくれる?」そう言って小さい地図を出してきた。
その地図にも、一箇所に丸が書いてある。
「ここが目的地だけど、聞いていたとおりそばに駐車場がないのよ。クチコミで見てみると、小型の車だったらそばまで行けるけれど大きい車だと難しいって書いてあったわ」
「じゃあ、おばあちゃんの車だったら行けるんだね」
「……だれに留守番させるつもりなのかな?」
「あっ!」そうだった。
おばあちゃんの車は四人乗りで、でもぼくたちは五人で。
「……誰にも留守番させたくない。あ!バスは?この前みたいに」
「バスも、あることはあるんだけど、すごく本数が少ないのよ。だから考えたんだけど。悠斗のお父さんの車、貸してもらうことはできないかしら?」
「パパの?たぶん大丈夫だと思うけど」
パパは今単身赴任中だから、車は使ってない。
ずっと乗らないのは車に悪いからと、時々ママが乗るくらいだ。
「でも、パパの車って普通車だよ?おばあちゃん運転できるの?」
「当たり前でしょう。いまでこそ軽自動車だけど、昔は普通車に乗っていたのよ」
「そうなんだ」
ぼくが知ってるおばあちゃんはずっと軽自動車に乗ってたから、それにしか乗れないんだと思っていた。
「じゃあ、真智には私から頼むわ」
「うん」
ふと、あることに気がついた。
「でも、おばあちゃん。さっき言ってたよね?大きい車だと近くまで行くのは難しいって」
「近くまではね。だから、ここ」そういって小さい方の地図の一点を指した。
「ここに、駐車場があるのよ。この奥が広場になってて、自然公園みたいになっているらしいわ。公園って、ここのことだったのね。駐車場は無料だし、ここに停めて歩いて行こうと思うのだけど」




