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第三十八話

 そうだった。

今度もみんなで行きたい。

「とりあえず遅くなるから、もう帰りましょう。今日は真智(まち)は家にいる日でしょう?帰ってお手伝いしなさい。隆之介(りゅうのすけ)くんもごめんなさいね」

「いえ、大丈夫です。じゃあね、悠斗(はると)

「うん、ばいばい。また明日ね」


 家に帰ったぼくは夕ごはん作りの手伝いをした後、食べながらママに今日入った水風呂とわき水の話をした。

話題としては、そのあとの拓也(たくや)がおしおきを受けた話のほうがおもしろかったけれど“ないしょ”だから言わないようにするのがちょっと大変だった。

「そんなにおいしいお水だったのね。知ってたらペットボトルにくんできてもらえばよかったわ」


 「おばあちゃんも帰りがけに言ってた。『今日は悠斗たちのつきそいでバスだったから、ペットボトルを持ってくるの諦めたのよ』って。荷物になって重いからだって」

「ほんとは忘れただけでしょ。まったく、おばあちゃんったら」


 翌日、いつもの公園に行った。

今日は智生(ともき)が家の用事で来られないらしい。

「昨日は楽しかったな」(れん)が言った。

「家に帰ってかあちゃんに話したらさ、『そんなにおいしいお水だったら、ペットボトルにくんできてもらえばよかった』って言われたよ」


 「あ、ぼくもママにいわれた」

「ぼくも、かあさんに言われた」

「みんな地元なのに、なかなか行ってないんだな」

「地元だからかもしれないね。いつでも行けるという安心感」

ほんと、そんなものかもしれない。


 「そういえば昨日蓮たちが帰った後に悠斗のおばあちゃんが言ってたんだけど。山のほうにも水を汲める場所があるらしいんだ」

「へえ。悠斗のおばあちゃん、誰からか聞いたのか?」

「昨日の場所に水をくみに来ていた市外の人なんだって。な、悠斗」

「うん。おばあちゃんも場所がよくわからないんだって。その人に大体の場所は聞いたけど地名がわからないから探しにくいかもって。たぶん今日はPC(パソコン)でいろいろ探してると思う」


 「このあたり、山が多いからな。山のほうってだけじゃ見つけにくいよな」

「ぼくも昨日少し調べてみたけど、ちょっと見つけられなかったんだ。今日は検索ワード変えて、探してみるつもりだけど」

「ごめんね、任せっきりで」

「ううん。かまわないよ」


 「ところで、今日は智生がいないけどかくれんぼ、するか?」

「そうだねえ。三人でやるのもいいけれど、暑いからこのまま図書館に行かない?そろそろ宿題用の本も選びたい」

「あ、それいい考え。図書館だったらクーラーで涼しいし」

「あ~あ、宿題なんてなくなればいいのにな。読書感想文とかとくに」


 「ぼくは自由研究が苦手だな」

「そうか?いちばん(りゅう)向きだと思うけどな」

「あ、蓮は転校してきたから知らないんだ、あのね」

そう。隆之介は自由研究が得意。

得意すぎて、去年やりすぎちゃったんだ。

『教室にクーラー常備の現在、夏休みは本当に必要か~小学校の今と昔を比べて~』というタイトルで()()()()書いて提出したんだもん。


 あの時の先生の言葉が忘れられない。

「榊くん……もう少し子供らしい自由研究にしてくれる?」

「そ、そうだったんだ」

「でも、本質は間違えてないでしょ?自由なテーマで研究したことをまとめたんだもの」

「お、おう」蓮もさすがに面食らったようだ。


 「子どもらしい研究と言われてもね、思いつかないんだ」

たしかに植物や虫の観察とか工作とか、ぼくたちが思いつくことは隆之介らしくないけれどね。

「じゃあ、今年は?」

「だから、図書館でいい案が載ってる本がないか探すつもりなんだ」

「じゃあ、おれと悠斗はるとでそれが『子どもらしい』かどうか、判断してやるよ」


 「ありがとう。でも、その前に自分の本を探すのは忘れないでよ?」

「お、おう」

「うん。わかった」

「じゃあ、行こうか。あ、お節介かもしれないけど、ついでに智生の分も探してあげよう?」

「オッケー」


 図書館行きは、大正解だった。

涼しいのはもちろんのこと、みんなそれぞれお目当ての本を探すことができたから。

隆之介が図書館のPCで検索した本のタイトルを“本の場所を調べる専用”の機械で在庫確認して、本があったら実物を確認する。


 こういうと面倒なようだけど、ものすごくたくさんの本の中から選ぶわけだから、本棚だけを見ているよりもずっと効率的だった。

選んだ本をテーブル席で読みながら隆之介に小声で話しかけた。

「(ねえ、隆之介)」

「(なに?)」

「(ここのPCで、水くみ場のこと探さないの?)」

「(こういう、公共の場所では探したくないんだ)」


 「(なんで?)」

「(履歴とか、残るのいやなんだ。消し方はわかるけど、念のため)」

「(ふうん)」

小声で話してたつもりだったけど、向い側の席に座ってたおじさんにじろっとにらまれてしまった。

すみませんと頭を下げる。


 「(ぼく、この本借りてくるね)」

「(あ、じゃあぼくも。蓮はどうする?)」

「(おれも、これに決めた。智生のぶんはどうする?)」

「(ぼくが代わりに借りておくよ)」隆之介が言って、蓮から本を受け取った。


 「明日は、どうする?」図書館を出たところで、蓮が聞いてきた。

「そうだね。明日もぼくの家にしようか?もし、場所がわかってたらそのまま打合せできるし」

「じゃあ、智生を誘ってから隆の家に行くよ」

「了解」

ふたりと別れて家に帰りついたぼくを、キッチンから顔を出したママが手招きして呼んだ。


 「悠斗、おばあちゃんから電話がかかってたからかけなおしてあげて」

「わかった。あ、ぼくの部屋で話してもいい?」

「いいわよ」

おばあちゃんからの電話だったら、天狗さんがらみの可能性が高い。

 

 ママのスマホを借りたぼくは部屋に入るとしっかりとドアを閉め、おばあちゃんに電話をかけた。

「もしもし。悠斗だけど、どうしたの?」

「あ、悠斗?わかったわよ、例のアレ」

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