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第三十七話

 「外の声は聞こえるけど、中の声は外には漏れない。そしたら、あの姿も外からは見えないの?」隆之介(りゅうのすけ)が聞いた。

【無論じゃ】

「え?でも、ぼくたちには見えてるよ?」

【わしと一緒におるから、ぬしたちには特別に見えておるだけじゃ】

「ふうん」

隆之介はなにか考えているようだった。


 しばらくしてニヤッと笑ってぼくたちに言った。

「このあと、古田の横を通り過ぎる時、ちょっと立ち止まる。そこでぼくが“あること”をいうから、みんなは『ほんとかよ』とか『そうかもしれない』とか、適当に返事してくれる?」

隆之介ってば、なにをたくらんでいるんだろう?


 水くみ場の方で、男の人が「拓也(たくや)ー!帰るぞー」と言いながら周りを見回している。 

その声が聞こえている拓也が空間の中で慌てている。

「とうちゃーん!おれ、ここだよ!」とか言いながら両手を上げて振りまわしている。


 拓也の真横に来た時隆之介が立ち止まり、宣言通り話し始めた。

「そういえばさ、ここって霊水がわいている神聖な場所でしょ?そこでいたずらしたりいじわるしたり……とにかく人の嫌がることをすると神様が罰を与えるっていう話があるの、知ってる?」


 「ほんとかよ?」(れん)が言った。

隆之介ってば、打ち合わせしてなくても、そんな話されたらびっくりするよ。

「うん。言い伝えでは天罰が下るとか、神隠しにあうとからしい。悠斗(はると)、さっきいじわるされてただろ?神様に言いつけたらどう?」

「え?ぼくは……」


 「言いつけちゃえよ、悠斗」智生(ともき)もノリノリだ。

拓也の方を見ると、真っ青な顔でぼくたちの方を見ていた。

「ぼくは……いいよ。神様って、なんでもお見通しなんでしょ?じゃあ、次に誰かになにかいじわるしたら、罰を与えてもらえればそれでいいや。今後ずっと……ね」


 「ふうん。悠斗らしいな。でも、それもありだね」隆之介が言った。

「そろそろ、バスの時間よ!」おばあちゃんが呼ぶ声が聞こえた。

ぼくたちはそろっておばあちゃんの方にかけだした。

振り返って拓也を見ると、地面にうずくまるように座っていた。


 「ねえ、天狗さん。あの空間はずっとあのままなの?」

【それは、ぬし次第じゃ】

「だったら、ぼくたちがバスに乗って出発したら拓也を空間から出してもらえる?」

「そんなに早く出すのかよ?」蓮が言った。

「そうだよ、夜までそのままにして、真っ暗な中ひとりぼっちにさせちゃえよ」智生も言った。


 「うん。でもさ、一生懸命探してるお父さんがかわいそうだなって思って。それに閉じ込めっぱなしも、やっぱりかわいそうかなって」

「とか言いながら、しっかりシメてたもんな!」蓮が言った。

……やっぱりバレバレだったかな?今後、いつ天罰がくだるかわからないよってクギさすつもりで言ってた事。


 「あら、何かあったの?」

ぼくは、おばあちゃんがトイレに行ってる間にあったことと、そのあと天狗さんが拓也に下したおしおきのことを話した。

「そんなことがあったのね。おしおきなんて、天狗さんもいいところあるじゃない?あら、失礼。オトナがする発言じゃなかったわね。でも、できれば早めに解放してあげたがいいわよ。見つからないって警察に通報されたらそれこそおおごとになっちゃうから」


 おばあちゃん……気にするのはそっちじゃないと思う。

水風呂からの帰りは、バスの中で寝てしまって覚えていなかった。

おばあちゃんも寝ちゃってたから、市役所が終点でほんとによかった。

智生は降車ボタンが押せなくてがっかりだったけど、揺さぶっても起きないくらいグッスリ寝てるんだもん、押すどころじゃないと思う。


 「今日は、ありがとうございました」三人がおばあちゃんにお礼を言っていた。

そういえば、おばあちゃんって引率の保護者だったっけ。

なんだかすっかり忘れていた。

「こちらこそ、ありがとうね。隆之介くんも智生くんもお母さんによろしくね」

「はい!」


 「蓮くんも、いつも悠斗の相手をしてくれてありがとうね」

「いえ……おれも悠斗のおかげでいろいろ助かってる……ますし」

蓮が頭をかきながら言った。

「じゃあ、またな!」智生と蓮がそう言って帰って行った。


 「やっと、左手までそろったね」隆之介が言った。

「そうだね。いっしょにさがしてくれて、ありがとう」

「これで、あとひとつだね」

「うん」

「あと一ヶ所か……またPC(パソコン)で調べないとね」


 「いつも、調べてもらってごめんね」

「ううん、ぼくも調べるの楽しんでるから大丈夫だよ」

「そのことなんだけど」おばあちゃんが話に入ってきた。

「霊水とされているかは聞いてないんだけど、山の中にわき水をくめる場所があるらしいのよ」

「え!そうなんですか?」隆之介がぼくより早くおばあちゃんの話に反応した。


 「そうなのよ。今日聞いた話なんだけどね、あなたたちが水風呂に行ってる間に水くみ場に来ていた人達とおしゃべりしてたのよ」

人見知りのおばあちゃんにしては珍しい。

「その人たちは市外から来てたんだけどいろいろ詳しくってね。あなたたちが最初に行った石窟にも汲みに行った事があるんですって。ただ、あそこは水量が少ないからこっちで汲むようになったそうなんだけど。何回かに一度は山の水くみ場にも行くっておっしゃってたわね」


 「山の方……」

「私もめったに山手には行かないから、そんな場所があることも知らなかったけれど。なんでも公園があって、その脇の道を登って行った道路沿いにあるらしいわ。車で行けるけど駐車場がないしUターンしにくいから、なかなか行けないんですって。水そのものは美味しいから、しょっちゅうでも行きたいんですけどともおっしゃってたわね」


 「その場所……」

「もしかしたら、かもしれないね」ぼくと隆之介が同時に言った。

すごい……手がかりがこんなに早く見つかるなんて。

「ねえ、おばあちゃん。その水くみ場に行ってみようよ」

「行ってみようって簡単に言ってくれるわね。公園があるとは聞いたけれど、どのあたりかまでは聞いてないわよ。ちゃんと調べてからじゃないと。それに、あなたひとりで行くわけ?悠斗?」


 

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