第三十一話
え……?
ぼくが、天狗さんの末裔もしくは血筋かもしれないって?
ポカンとした顔をしていたようだ。
「まあ、『かもしれない』だけどね。あくまでも、ぼくの空想だから」隆之介が言った。
空想でも隆之介が言うと、妙に説得力があるから困ってしまう。
でも、そう考えると天狗さんが『波長がわかる人とわからない人がいる』っていうことも説明がつくかも。
天狗さんと同じ血を引いているかもしれない……それはそれでいいことだよね、きっと。
そのおかげでこうやって『TTP~天狗さんを助けるんだプロジェクト』(いつのまにか智生が名づけてた)を進められるんだもんね。
「まあ、それはおいておくとして」蓮が言った。
「残りの、両手ってどこにあるんだろうな?」
「最初が井戸、だったよね。つぎがわき水。だから今度も水に関係した場所じゃないかとは思うんだけど」隆之介が言った。
「水……ね」蓮が言った。
「水かぁ。水と言ったらプール、入りたいよな」智生が言った。
「だな、毎日暑くてかなわないよ。それなのに市営プールは改修でお休みなんてさ」
「老朽化で漏水したらしいね。市の施設、古いのばっかりだからね」隆之介が蓮をなだめるように言った。
「そういえば……」智生が思い出したように言った。
「プールじゃないけど、夏限定の水風呂があるの知ってるか?」
「夏限定の水風呂?」ぼくと蓮が同時に言った。
「あ、なんか聞いたことがあるような。けっこう山の方に入っていくんじゃなかったかな?」隆之介が言った。
「そうそう。サウナがあって、水風呂もあるらしいんだ。おれの叔父さんが近くに住んでてさ、夏になったら毎日のように行ってるんだって」
「へえ、水風呂って気持ちいいだろうな」蓮が言った。
「気持ちいいのなんのって。すっごく暑い日でも、入った後はしばらく涼しさが続くって叔父さん言ってたよ。ただし」
「ただし?」
「入った時は、キュ~ってちぢみあがるんだってさ」
ちぢみあがる……寒い日に外に出るとブルブルってきて鳥肌がたつけど、あんな感じなのかな?
でも、暑い日でも涼しさが続くっていうのなら入ってみたいかも。
蓮と隆之介も同じ気持ちのようだった。
「それ、入ってみたい!!」言うのも三人同時だった。
「おれも入ってみたいけど、どうやって行く?叔父さんちからなら歩いて行けるらしいけど、そこまでが結構遠いぞ。おれが伯父さんちに行くときはパパかママの車だけど、二十分くらいかかるもん」
車で二十分……どのくらいの距離かわからないけれど、すっごく遠いということはよくわかる。
「今度は、歩いていくというわけにはいかなそうだね」隆之介が言った。
「おそらく十キロ近くあると思う」
「十キロか……でも、今度は水風呂だろ?こないだよりは親の許可、もらいやすいんじゃないか?」蓮が言った。
「許可がもらえたら、自転車で行かれるんだろ」
「道……わかる?」隆之介が言った。
「このまえは歩きだったから地図を見ながら行けたけど。それに十キロの距離を自転車で走ったこと、ある?ぼくは、ないよ。経験がないから言うわけではないけれど、走り切る自信もない……帰り道も十キロ走るんだからね」隆之介が言った。
「おれもないな」蓮も言った。
「おれも……悠斗は?」
「ぼくも、ない」
このまえ三キロ歩いた時も、そこそこ疲れたというのにその三倍以上。
考えただけで気が遠くなってしまう。
でも水風呂……すっごく入ってみたい。
「そういう施設だったら、HPとかもあるだろうし。今夜にでもPCで調べてみるよ」隆之介が言った。
「そんな面白そうな場所、知ったのに行けないなんてつまらないからね。なんとかして行き方を考えてみるよ」
翌日。
ぼくたちは隆之介の家に集まった。
最初はいつもの公園に集合したんだけど、邪魔が入ったらいやだからという理由で、隆之介が自分の部屋を提供してくれたんだ。
もちろん“親の許可はもらってる”らしいけど。
「おじゃましまーす」
玄関のところまでは来ることがあっても、中に入るのは久しぶりだ。
「適当に座ってて」
隆之介はぼくたちを部屋に案内すると、ドアから出て行った。
「すげーなあ。本ばっか」智生ともきが部屋の中を見回して感心したように言った。
「マンガとか持ってないのかよ?っていうか、これ隆専用のPCかよ。すげぇ」
智生の言葉じゃないけど、ほんとに本がずらっと並んでいる。
おばあちゃんの本棚よりは少ないけれど、それでもぼくよりたくさんの本を読んでいるみたいだ。
「マンガは、別の部屋に置いてあるよ。とうさんやかあさんが買ってるのを読ませてもらってる」
ペットボトルの麦茶が四本乗ったトレイを手にして、隆之介が部屋に戻ってきた。
冷えた麦茶を飲みながら隆之介は説明を始めた。
「まず行く方法なんだけど、平日と土曜は市営バスで行けるみたいなんだ。ただ、土曜日は蓮が無理だから除外して。平日は一時間に一本あるかないかで運賃が片道百五十円。施設の利用料が二百円だから合計で五百円。高いと感じるか安いと感じるかは個人によるけどね。どう?」
「五百円。マンガ一冊分か……」
「智生、またマンガかよ?」蓮が突っ込んだ。
「だっておれに一番身近なものなんだもん。まあ安くはないけど大丈夫」
五百円。
そのくらいだったら、お年玉の残りもあるから大丈夫そう。
「おれは、大丈夫かな」蓮も言った。
「ぼくも」
「じゃあ、お金の面は解決だね。あと……やっぱり家の人の許可はもらっておいたがいいと思う。少なくとも行く日にちと場所は言っておかないとね。ほんとはだれか大人に一緒に来てもらうのが一番なんだけど」




