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第三十話

 【いま、探しておるのが()()ということを、ぬしは失念しておるようじゃの?】

天狗さん……なんだか『やれやれ』って思ってる?

探してるのは天狗さんの分身だって、忘れるはずないじゃない。

分身……え?もしかして。


 「もしかして、天狗さんってば分身さんと会話したの?」

分身って、さんづけで呼んでいいものだっけ??

【しゃべってはおらぬ。頭以外に口はないのでな。以前、わしと残りの部分とは相通ずるものがあって、近づくと共鳴するようになっておると言うたと思うが。あの場でひとつになるまで、その気配が『足』とはわからなんだが、わしの一部があるということだけは感じておった】


 「へえ、そうなんだ」

そんなことって、ほんとにあるんだ。

波長とか気配とか目に見えないものだけど、実際に玉の中の天狗さんには足が戻ってきているわけで。


 「ねえ。その気配?波長?で、残りの……両手がどこにあるかを探すことはできないの?」

【さすがに、それはできぬ。わしが居る場所の周囲わずかな範囲であれば探ることは可能じゃが、あまり広くなるとわしの意識が薄まるので、あったとしても察知できぬのじゃろう】

「ふうん……。あ、そういえばぼくの波長はよくわかるって言ってたでしょ?」

【うむ】


 「じゃあ、ぼくが天狗さんを見つけるまでに誰かの波長を感じたことはなかったの?」

【あるにはあったが、むこうがわしに気づかなんだ。ほんの足元におっても知らぬまま行ってしまう者もおったな】

だとしたら、ぼくが気がついたのは、ほんとにおばあちゃんが言うように波長が合ったからなのかな?


 「まあ、人間同士でも合う合わないってあるからね。悠斗(はると)にもそういう人いない?すごく気が合う人とか、その逆でどうしても仲良くしたいと思えない人とか」

「……いる」

ぼくはクラスメイトのひとりの顔を思い出していた。


 別に悪いやつだとは思わないけど、どうしてだか仲良くしたいと思えない。

人の好き嫌いがはっきりしている隆之介(りゅうのすけ)なんかは、あからさまに冷たい態度をとってるけど。

「あら、悠斗でも苦手な人っているんだ?」

「そりゃ、ね。嫌いってわけではないんだけど」


 「そう。まあ、そういう相手がいてもいいとは思うわよ。すべての人と仲良くできる人なんていないしね。ところで、天狗さんと悠斗が出会ったのは波長が合って惹きあったっていうの、設定としてはおもしろいわね。ううん、いっそ血が呼び合ったというほうがおもしろいかも。ふふふ、『天狗と出会った私の孫、実は天狗の末裔だった!』なんて小説書いたら楽しいかもしれないわね。今はやりのラノベみたいで」


 「お、おばあちゃん?!」

「みやさん、でしょ」

……末裔の意味は、あとから辞書で調べた。

おばあちゃん……よくそんなこと思いつくよね。


 「悠斗のばあちゃんって、ぶっとんでるな!」

週が明けた火曜日、公園で週末のことをみんなに話したら開口一番に智生(ともき)が言った。

隆之介(りゅうのすけ)(れん)も肩を震わせている。

「もう!笑うならちゃんと笑ってよ!!」

ぼくがそう言うと、三人ともおなかを抱えて笑いだした。


 すっごく笑うから、最初はばかにされているようで面白くなかったけど、みんなが笑う姿みてたらなんだかおかしくなって、ぼくもいっしょに笑ってしまった。

「でもさ、悠斗は広い意味では末裔なんじゃない?」やっと笑いがおさまったらしい隆之介が言った。

「なんで?」

「だってさ、悠斗の家っておかあさんの血筋はずっと豊入とよいり市に住んでいたんでしょ?」


 そう。

前に授業で『自分の根っこルーツを知ろう』っていうのをやったんだ。

両親の出身地(県だったり、その次にくる市とか郡ね)、おじいちゃんおばあちゃんの出身地、そしてわかるならばひいおじいちゃんやひいおばあちゃんの出身地を家の人に聞いてこようっていう宿題が出たんだ。


 そして自分を花にたとえて、その根っこがどんなふうに広がっているかを絵にしようっていう内容だった。

先生が説明してくれた書き方は、こんな感じだった。


「まず自分を花で書きます。花の色は……青で塗ろうか。ほかの色が好きな子もいるだろうけど、今日は我慢してね。そして角度をつけた2本の線を引いて……角度は90度くらいでいいよ。そしてそれぞれの先に○を書く。この丸はお父さんとお母さんね。君たちのお父さんとお母さんがここ豊入市の出身なら青で、それ以外なら赤で塗る。おじいちゃんやおばあちゃんも同じように線と○を書いて塗ってみて。もしもわかるなら、ひいおじいちゃんとか、それより前の人たちもね」


 書きあがってから順番に発表したんだけど、ほとんどのクラスメイトがおじいちゃん・おばあちゃんどまりで……それより前はわからなかったり、親戚のだれも覚えてないってことだったんだ。

塗ってある色も、青よりも赤の方が多い感じだった。

お父さんとお母さんのどちらも赤っていう人もいたし。


 そんな中ぼくのママは、おばあちゃんはもちろんおじいちゃんも青だったし、その前にさかのぼっても少なくともどちらか片方は青が続いていた。

「あら……先祖代々ずっと豊入市って、高橋くんだけ?それはそれですごいことだわ」

先生がそう言った。


 たまたま資料が残ってたというのもあったけど、なんとひいひいひいひいひいおじいちゃんも豊入市の人だったらしいんだ。

もちろんその頃は違う地名……豊能(とよの)村って言ってたっけ……だったらしいけど。


 「たしかに、ずっとここの市に住んでるけど。それがどうして“広い意味の末裔”につながるの?」

「天狗さんは、この地域の生まれだったんでしょ?ということは両親がいたわけ」

「うん。そうじゃなかったら生まれてないもん」

「天狗さんは結婚してないらしいから直接の子供はいないけど、天狗さんには兄弟がいたんじゃない?その人たちが結婚して子供ができたら、天狗さんに近い血をもった子供ができるよね?」


 「それは、そうかもしれないけれど。だからってぼくが末裔ってことにはならないんじゃない?」

「昔は、今みたいに自由に移動できなかったというからね。だから悠斗のご先祖様みたいにほぼ江戸時代にこの地域にいたということは、その前からもこの地域にいた可能性が高いんだ。それこそ、いつかはわからないけれど天狗さんが生まれたころからいたかもね。そして悠斗のご先祖様の誰かと天狗さんの近親者の子孫の人が結婚したかもしれない。まあ、こうなると末裔というより血筋と言った感じだけど」 


 







 




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