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第二十七話

 「水がわいてるのって、きっとこのお堂の裏側だよね?さっき橋の向こうから見た時は裏は森みたいだったんだけど。森の中に水がわいている場所があるのかな?」お堂の前に立って話していたぼくたちからは、裏側は見えなかった。

森の中だったら……探すのが大変かもしれない。

そう、思った。


 「どうなんだろう?こっちに裏側へ行けそうな道があるんだけど」隆之介(りゅうのすけ)が言いながら数段の石段がある小道を上っていった。

ぼくたちも、後に続く。

「う……わぁ」最初にお堂の裏手に回った隆之介が、びっくりしたような声をあげた。

「す、ごい」


 「なになに?なにがあるんだ?」智生(ともき)が言いながら追いかけていく。

「え!すげぇ~」

いったい何があるんだろう?

ぼくと(れん)はいそいで二人について行った。


 お堂の裏。

そこには森なんてなかった。

あったのは、あまり奥行きが深くない石窟で、森のように見えていた木はその石窟の上に生えていたのだった。

「こんなとこに、こんな石窟があるなんて……」隆之介が言った。


 ほんとに、そうだった。

ふつうの石窟なんだけど、なんだか凄かった。

「なんか……雰囲気あるな」蓮が言った。

「お──────い」智生が急に大きな声を出した。


 「おい!なんだよ?急に。驚くだろ!」蓮が怒ったように言った。

「いや、さ。石窟ってちょっとした洞窟だから声が響くかと思ったんだ」悪びれもせず智生は言った。

たしかに……ちょっとはそういう気もしたけれど。

でも、ふつうはやらないかも……。


 「それで、これがわき水?」隆之介が立ち止まって上を見上げている。

視線の先からは水がポタタッポタポタッ……と落ちてきていた。

「なんだか想像していたのとは違うね。ぼく、地面からわき出ていて池のようになってると思ってたよ」

「あ、おれも」蓮が言った。

「まあ、これでもわき水なんだろうけどね」


 「これ、飲めるのかな?」ぼくは聞いてみた。

「霊水としての言い伝えがあるって事は、たぶん飲めるんだろうけど……どうやって?口をあけて上を向く?手をくぼませてためてもいいけど、服がぬれそうでいやだな」隆之介が言った。

「なあ、これな~んだ」ちょっと離れたところで智生が言った。

なにか手に持っているようだけど。


 「それって、ひしゃくじゃないかな?」隆之介が言った。

「ひしゃくがおいてあるっていうことは、これにためて飲んでいいって事だよね」隆之介がいくつか置いてあるひしゃくのひとつを持って、水が落ちてきていた場所に戻ろうとした。

「そっちに戻らなくても、ここからもわいてるみたいだぞ」ひしゃくが置いてある場所の向こう側に立っていた蓮が上を見て言った。


 蓮が見上げた場所からも、さっきと同じように水が落ちてきている。 

「そうだね、でも水の量が少ないから、ぼくはあっちでひしゃくにためるよ」そう言ってひしゃくを手に元の場所に戻っていった。

ぼくもひしゃくを持って隆之介の後に続いた。

落ちてくる水の量が少ないのでしばらく待ち、ようやくひしゃくの半分までたまった水を飲んでみた。


 ……ふつうの水。

でも暑かったから、それはそれで美味しく感じた。

「さて……と。この場合どっちのわき水になるんだろう?」隆之介が腕組みをして考え込んだ。

「井戸のときは一ヶ所だったから探さなくてよかったけれど、ここは二ヶ所でわいてるし。あと、もしあった時にまぶしく光るとしたら、他の人はいないほうがいいよなぁ」


 「ねえ、あるかどうか、あるとしたらどこかは天狗さんに聞いたが早いかもよ?」ぼくはそう言って玉を取り出した。

「ああ、確かに。それが一番確実だね」

取り出した玉は、この前と同じようにうっすらと光って見えた。


 「ねえ、天狗さん」

【何じゃ?】

「今日来ているわき水のところって、天狗さんの分身はいるのかな?」

【しばし、待っておれ。探ってみよう】

玉の光が少し強まったように感じた。


 むこうでわき水を飲んだらしい智生と蓮がぼくたちのほうに近づいてきた。

「あ、天狗さんの分身って見つかった?」智生が聞いてきた。

「ううん、まだ。わき水が二か所あるでしょ?どっちかわからないから天狗さんに聞いてるとこ」

「ふうん……あ、ほんとに前に見たときよりも光ってる感じがする」

「智生にもそう見えるんだね」


 【小僧よ、もうちぃとばかり移動してもらえぬか?】

「え、あ、どっちのほうに行ったらいいの?」

【この場所のほかに、もう一か所水がわいておる場所があろう?】

「うん」

【そちら側へ移動してくれぬか】

「わかった」


 ぼくは玉を持ったまま、ふたつのわき水の中間あたりまで進んだ。

【ここじゃ】

「ここ?」

【ここで、わしを持った手を上へとあげてくれぬか】

「こんな、感じ?」

ぼくは玉を落ちないように両手で包むように持って、上へと伸ばした。


 パアアアアアアアアアアッ

まぶしい光がぼくたちを包み込んだ。

「わあっ!」

前回で経験してたはずなのに、まぶしくてつい声を出してしまった。

隆之介たちは初めてだったから、もっとびっくりしたと思う。


 でも、まぶしかったのはほんの一瞬で、あたりはすぐに元通りの明るさに戻っていた。

「天狗さん、どう?」

【ふむ。ここには足があったようじゃの】

おそるおそる玉をのぞきこんでみた。

「あ、足が両方とも戻ってる!?」


 玉の中には、頭と身体、そして両足を取り戻した天狗さんの姿があった。

玉の光も強くなった気がするし、なによりまた大きくなってない?

「天狗さん、どうだって?」隆之介が聞いてきた。

「あ、ここには足があったみたい。それも両方とも」

ほら、と隆之介に玉を手渡した。


 「ほんとだ」

「おれにも見せて」智生が手を出す。

「今度は、いらないこと言うなよ」隆之介が釘を刺しながら智生に渡した。

どれどれ……とのぞきこんだ智生が言った。

「だるまの次は……コケシ?」


 

 

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