第二十六話
「悠斗ってば、どうかしたの?さっきから何か考えてるみたいだけど?」隆之介が聞いてきた。
「歩いてても何だか上の空だし。もしかして暑くて体調悪くなった?だったら今日は無理に行かなくても……」
「あ、体調は大丈夫。ごめん、心配かけて。えっとね、さっきの隆の話聞いて、ぼくだったら“自分で考えて行動”なんてできるかな?って考えちゃったんだ。いつも、おばあちゃんやみんなに頼ってばかりな気がして……」
「なーに言ってるんだよ?」智生が言った。
「いっつも一所懸命考えて行動してるだろ?」
「そうそう。決めるまでちょーっと時間はかかるけど、決めたことは曲げないしな」蓮も言った。
「今日のもそうだけど、天狗さんに元の姿を取り戻してあげるって活動、やるって決めたのは悠斗だろ?おれたちは話を聞いて、興味がわいたから手伝ってるけど。おれたちがいなくても、ひとりでもやるつもりだったんだろ?」
天狗さんのこと。
たしかにひとりだけでもやるつもりだった。
どうやっていいか、わからなくなって途方に暮れてたかもしれないけれど。
「悠斗は、ちゃんと考えて行動ができていると思うよ。自分で考えて、ひとりではできないと思ったら周りの人に相談する。それでいいと思うよ。ぼくだって自転車のこと頼むのに、かあさんのこと頼ったし。今日の水筒だって、かあさんが準備してくれたし」
そっか。
自分で考えて行動することと、自分だけでやることとは違うんだ。
言われてみるとあたりまえだけど、なんだか新しいことを知った気分がした。
「そろそろ行こうか?」隆之介が出発を促した。
ぼくたちは田んぼの間を進み、その道はだんだんと住宅地に入っていった。
「こんなとこ、来たのって初めてだよ」智生が言った。
ぼくも初めてだ。
たまに、おばあちゃんやママの車で出かけるけど、ここは初めて通る。
「ぼくは、さっき信号を渡った道なら通ったけど。車の中からと歩くのとでは風景が違って見えるね」隆之介が言った。
「全員初めてってことは……冒険してるみたいで面白いな。というか、ほんとにこんなところにわき水がわいてる所なんてあるのか?家ばっか建ってるぞ」蓮が言った。
「もうそろそろだよ。あ!あのカーブの向こうが、その場所だよ」
地図を確認しながら歩いていた隆之介が言った。
両側に家が建っていて、圧迫感を覚え始めてた視界が急に開けた。
広々とした景色が、目の前にある。
そこそこの広さがある川には橋がかかっていて、その向こうにはお堂っぽい建物が建っているようだ。
お堂の後ろは、うっそうとした森のように見えた。
「やっと、着いた~。疲れた~」智生が言った。
「だけど、思ってたよりも早く着いた気がするぞ?」蓮が智生の“やっと”に応えるように言った。
「しゃべりながら歩くと、早く感じるのかもね。時間的には予想通りだったよ。だいたい一時間ってとこかな。本題はこれから。敷地内のどこにあるか……だね」隆之介が言った。
橋を渡って敷地内に足を踏み入れたとたん、ふうっと涼しい風がぼくたちの間を通り抜けていった。
「おお~、涼しい!暑かったから生き返る」智生が言った。
目の前に立っている建物は、やっぱりお堂のようだった。
お堂の近くに立っていた案内板を読んでいた隆之介が、ぼくたちのところに戻ってきて言った。
「ここにある観音像って、なんだかすごく古くていわれがあるらしいよ」
「へえ、どんな像なんだろう?見てみたいなっていうか、どこにあるんだ?」智生が言った。
ぼくたちは、周りをきょろきょろと見回してみた。
でも、それらしい像なんてどこにも見当たらなかった。
「すごく古いっていうなら、建物の中にいれてあるんじゃねえ?」蓮が言った。
「そうかもね……その可能性は高いかも。行き方にばかり気をとられて、敷地の中がどんな感じなのか、なにがあるのか調べるの忘れてた。ごめん。観音像のことも,とうさんに聞いてたはずなのに」隆之介が言った。
「そんなことないよ。道順を調べてくれただけで、すごくありがたいよ。自転車を置く場所だって頼んでくれたんだし」ぼくも言った。
「そうそう。その観音像ってやつ、ここにあるのは間違いないんだろ?だったら改めて見に来ればいいんじゃね?」智生も言った。
「観音像を見に行くって理由があれば、ここまで自転車で来る許可がもらいやす……ああっ!その手があったんだ。今日もそういうことにしておけばよかったんじゃ?」
「それは結果論。観音像は、今日ここに来た理由から見たらおまけみたいなものだからね。だいたい、ぼくたち小学生が観音像に興味があるって言っても、なかなか信じてもらえないと思うよ」隆之介が言った。
たしかに“霊水に興味がある”のほうが信じてもらいやすいかも。
許可するかしないかは別問題としてね。
「それで、どこにあるか探さなきゃいけないんだけど。悠斗、この前の井戸の時はどうやって探したの?」
「この前は、特に探してないんだ」
「そうなの?」
「うん。井戸があるって聞いたでしょ?それで神社に行って、井戸の場所に着いて。それで、どうやったら天狗さんの分身を探せるんだろう?と思ったのね」
「うん……それで?」
「とりあえず玉をポケットから取り出してみたら、ちょっとだけ光っているような気がしたんだ。それで、玉を持ったまま井戸に近づいたら、とつぜんパアッッて」
「光に包まれた……と」
「そうなんだ。だから特に探したりはしなかった」
ぼくと隆之介の会話を、蓮と智生も興味深そうに聞いていた。
「それってさ」蓮が言った。
「お互いがひきつけあうっていうやつじゃないか?もともとは同じひとつの身体だったんだからさ」
「そうかもしれないね……だとしたら一番可能性があるのは、やっぱりわき水のそばか」隆之介が言った。




