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第二十四話

 「それは、大丈夫」ぼくはおばあちゃんに(れん)が思いついた案を教えた。

おばあちゃんは大人だけど、どっちかというと“ぼくたち側”だから、他の大人に言いつけたりしない……と思う。

「ふうん。その子、なかなか大したものじゃない?よく知恵が回るわ」

「でしょ。さすがの隆之介(りゅうのすけ)もおどろいてたよ。あ……でね、おばあちゃん」


 「なあに?」

「このこと……」

「わかってるわよ。だれにも言わないわ。悠斗(はると)たちとの秘密ね」

「ありがとう!」

さすがは、おばあちゃんだ。

 

 「あ、そろそろ帰らなくちゃ。おばあちゃん、早くカゼ治るといいね」

「まあ、ぼちぼち治すわよ」

ぼくがおばあちゃんの家から帰ろうとした時、声が聞こえた。


 【これ!小僧!】

「え?天狗さん?どうしたの?って小僧だなんて……ひどいなあ」

まあ、こわっぱよりはマシだけど。

【ぬしの祖母殿は、病を患わずろうておるのか?】

「うん。カゼひいちゃったらしいんだ」


 【カゼとは、なんじゃ?】

「えーとね、熱が出て、くしゃみが出たり咳が出たりする病気だよ」

【ふむ……風病(ふうびょう)のようなものかの……これ、小僧。わしを祖母殿に渡してくれぬか?】

「だ~か〜ら~。ぼくは小僧じゃなくて悠斗だってば。おば……みやさん。天狗さんが玉を持っててくれって」


 「そうなの?……はい、このあとどうしたらよいのです?」

【そのままでよかろう。祖母殿、ちいとばかり不思議な心持がするかもしれぬが、堪忍の】

そういうと、玉はほわあっと光りだした。

その光が大きくなっておばあちゃんの身体全体を包んだかと思うと、ふっと消えた。


 「え?今のって何だったの?」

【わしの『気』を分けたのじゃ。おそらく風病は治癒しておると思うが、どうじゃ?祖母殿】

「おばあちゃん、どう?」

「え?あ!あら!喉の違和感がなくなってるし,咳も出なくなってるわ……さっき光に包まれたとき暖かい何かが入ってきて体全体に広がっていく感じがしたのだけど。天狗さんが風邪を治してくださったのですか?」


 【治したのではない。祖母殿の体内に自然より分けてもらった力を注いだまでじゃ】

そんなことって、できるの?!

天狗さん……実は、スゴイ人なんじゃ??

「天狗さん、病気を治せたりするんだ」


 【わしが治すのではない。その者のもっておる元々の治ろうとする力に手助けをしておるまでじゃ。言うたであろう?わしは自然の力を借りて、諸々の事を行なうておると】

……頭と身体だけしかないのにそんな不思議なパワーが出せるなんて。

元の姿を取り戻したら、いったいどんなすごいことができるんだろう?そう思いながら、ぼくは家に帰った。


 夏休み初日。

公園に集まったみんなに、ぼくは昨日おばあちゃんの家で目にした不思議な現象を話した。

「へえ。天狗さんって、そういうこともできるんだ」隆之介が感心したように言った。

「自然の力を意のままに操れるって、すごいことなんだね」


 ……隆之介ってば、ぼくよりも天狗さんのことを理解してるかも。

「うん。ほんとにそう思うよ。おばあちゃんの風邪がなかなか治らなかったら、わき水の所に行く日がもっと後になってたと思うんだ。だから天狗さんには感謝してる。もちろんおばあちゃんを治してくれたのが一番うれしかったけどね」


 「そうなのか?」蓮が言った。

「うん。おばあちゃんが風邪ひいてる間、毎日のようにママかぼくがおばあちゃんの家にオカズとか頼まれたものいろいろ持っていってたからね。夏休みになったら毎日ぼくが行くことになってたと思うんだ。そうしたら自由になる時間が減ってたと思うし」

「じゃあ、二重の意味でよかったってことか。風邪が治るのと時間ができるのと」蓮が言った。

「そうなんだ。と、いうことで。いつ行く?」ぼくが言った。


 「そのことなんだけどさ」隆之介が口を開いた。

隆之介にしては口調が重い気がするけど?

「この前、ぼく『一キロちょっと』って言ったけど。ごめん。ちゃんと調べたら三キロ近くあるみたいなんだ」

「さ、三キロォ?!」智生ともきがすっとんきょうな声を出した。


 ぼくもびっくりして、口がパクパクと動いた。

一キロと三キロじゃ違いすぎるよ。

「そんな距離、おれ歩く自信ないぞ」智生が言った。

隆之介は、ポケットから折りたたんだ紙を出してきた。


 広げられた紙は、ぼくたちの市の地図の一部のようだった。

一ヶ所に赤い丸が書いてあって、別の一部分を不規則な赤い線で囲って中をマーカーで色づけしてある、そんな地図だった。

「みんな、これ見てくれる?この赤い丸が、行こうとしている場所。そしてマーカー部分のふちの赤い線が、ぼくたちの小学校の校区の境。で……」言いながら隆之介は地図の一点を指して続けた。


 「ここに自転車を置いて歩いていくと、だいたい三キロになるんだ」

「ちょっと待った」智生が言った。

「ここ……」隆之介が指したのとは違う場所、赤い丸と赤い線がいちばん近く見える場所を指して言った。

「こっちの方がずっと近いんじゃないか?」


 「そこね。ぼくもそう思って調べてみたんだよ。でも、この地図じゃわかりにくいけど、そこからだともっと遠回りになるんだよ。目印も少なくて迷いやすそうだし。大きな道路を歩いたほうが迷いにくい場所なんだ」

「え~。じゃあほんとにも3キロ歩かないといけないのかよ?」智生が不満げな声をあげた。

「おれは歩くぞ」蓮が言った。


 「ぼくも」隆之介も言った。

もちろんぼくも歩くよ」

「智生、歩くのが面倒なら今回は来なくってもいいよ?ぼくたちだけで行ってくるし」隆之介が追い打ちをかけるように言った。

「くそ~!おれも行きたいに決まってるだろ?歩くよ!歩けばいいんだろ」


 

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