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第二十二話

 「わき水……ねえ」

ぼくたちは座り込んでそれぞれ考えたけれど、簡単には思い出せそうになかった。

「考えてても思いつかないしさ、宿題ってことにしてかくれんぼ始めようよ」智生(ともき)が言った。

「そうだね。じゃあ、じゃんけんしようか」隆之介(りゅうのすけ)も賛成して立ち上がった。


 ぼくと蓮れんも立ち上がって『最初はグー!じゃんけん……』

今日は隆之介が()()になった。

「じゃあ、いくよ。せーの!いーち、にー、さーん……」ゆっくり十数え終わって、三人で探しに走りだした。

今日はどの回も順調に探せたので、五時をを知らせるメロディが流れるまでにみんな二回ずつ()()になることができた。


 「来週までに、どこかひとつでも候補地が見つかるといいよね」帰りぎわに隆之介が言った。

「そうだね。あーあ、来週もママ出張に行ってくれた……いてっ」言い終わらないうちに蓮がぼくのおでこを指ではじいた。

「悠斗、それって言っちゃいけないことだと思うぞ?おばさんがかわいそうだよ」


 「そうだよ?天狗さんの姿を取り戻すのに熱心になるのもいいけど、その前に家族を大事にしなくっちゃ」隆之介も言った。

「ええっ?ちゃんと大事にしてるよ?ただ……ママがいたら自由がきかないもん。出張に行ってくれたら、家にいなかったら、今日みたいにおばあちゃんの家に行って井戸に行ったりできる……いたたたた!」

急に頭がぴりぴりとした痛みに襲われた。


 【この馬鹿もの!】

「て、天狗さん?ぼく、何かした?」ぼくは痛む頭をさすりながら、与えた本人……天狗さんに文句を言おうと思って声をかけた。

だって、天狗さんが嫌がるようなことはなんにもしていないんだもん。


 【……ぬしが、わしの頼みを聞いてくれようとする姿勢は有難く思う。じゃが、親を粗末に思うような事は勘弁ならぬ】

「え……そんな、粗末になんて扱ってないよ」

一時(いっとき)であろうと、いないほうがいいと思うのは粗末に扱あつこうておるのと同じじゃ。……わしは、己の欲にまかせて勝手に親の元を去った親不孝者じゃから偉そうなことはいえぬ。もちろん修行の道に身を投じた事は後悔しておらぬが、せめてひとこと言って出てくるのであったと。わしの凄さを解ってくれぬ阿呆な親に伝える必要などないと軽んじたことを、いまだに後悔しておるのじゃ】


 「ごめん……なさい」

【わかればよい。前にも言うたと思うが、時間なぞ、幾らかかっても構わんのじゃ。ぬしらができる範囲で手伝(てつど)うてくれれば、それでよい……む、頼んでおるわしが偉そうな口をきいてはいかんの。ほっほっほ】

……天狗さんが、自分でツッコミ入れて笑った。

話が聞こえていたらしい蓮たちも、目をまん丸くしていた。


  梅雨の長雨のせいでいつもの場所に集まれない日が続いていたある日、学校から帰ろうとしたぼくを『渡したいものがあるから、うちに来て』と隆之介が誘ってきた。

「母さんが、高橋君に渡してって言ってたんだけど持ってくるの忘れちゃったんだ」

「?いいけど、このまま行ったがいい?」


 「そうだね、できればそうしてほしいかな」

ふたりで肩を並べて歩き、学校から少し離れたところまで来たとき隆之介がふと口を開いた。

「ほんとは、渡したいものってのは口実。伝えたいことがあったけど集まれないし、学校では言えないからね」

「あ、天狗さん関係?」


 「うん。とうさんが教えてくれたんだけど……悠斗は観音像を見に行った事ある?」

「観音像?えーと、仏像みたいなやつ?知らない……見たことないけど、どうしたの?」

「観音像がある敷地内にわき水がわいているらしいんだけど、その水が霊水と言われているんだって」


 「そうなの?霊水って、どんなご利益があるんだろう?」

「なんでも、若返っただとか病気が治ったとかいう話だったようだよ。言い伝えだけどって」

「へえ、若返るとか病気が治るなんて、昔話の養老の滝みたいだね」

「そうだね。でもさ言い伝えとして残っているということは、ほんとにそういう使われ方をしていたのかもしれない。それにさ」


 「うん?」

「もし、そういう水だったら。天狗さんが“なかった”としても、体力(ちから)を取り戻す助けになるかもしれないと思ったんだ」

「あ!そう、そうだよね」

隆之介が言うとおりだ。


 元の姿を取り戻すことばかり考えてたけど、体力的なものも回復させてあげる必要もあるもんね。

「その場所……行ってみたいね。どこにあるの?」

「場所は父さんに聞いたらわかると思う……今度は校区内だったらいいんだけどね」

「そうだよね。ぼくたちが自分で行ける場所ならうれしいんだけどね」


 その週末は久しぶりによく晴れて、ぼくたちはいつもの公園で顔を合わせることができた。

「こないだなんだけどさ」

集まるが早いか隆之介が話しだした。

「こないだって?」智生が聞いてきた。


 「ああ、ごめん。悠斗には話したんだけど、わき水が出ている場所をとうさんが教えてくれたんだ」

「ほんと!すっげ~。どこどこ?」

「えーとね。合田(あいだ)地区っていうところなんだって。とうさんと出かけた時に『この前言ってたのはこの近くだよ』って教えてもらったんだけど……」


 なんだか隆之介の口調が変?

気になったので聞いてみることにした。

「だけど?何かあるの?」

「場所が……ね。微妙に校区から外れているんだ」

「それって……」

「そう。もしも行こうと思ったら、保護者の許可をもらうか連れて行ってもらわないと行かれないんだ」


 

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