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第二十話

 おばあちゃんの運転で富田神社に着いたぼくは、隆之介(りゅうのすけ)たちが言ってた場所にむかおうとした。

「ほら、悠斗(はると)。まずはお清めしなさい」

「え?あ、そっか」

 

ぼくはおばあちゃんに倣いながら、手と口とを手水舎っていう場所で洗った……清めたって言うのかな? 

「えっと、神社本殿にむかって右側の奥って言ってたから……こっちだね」

広い境内を横切って歩いていく……ほんとはお詣りを先に済ませたがいいのかもしれないけれど。


 「へえ、こんな場所があったんだ」

「私も来たのは初めてだわ。いつもお詣りを済ませたらすぐに帰ってたから」

そこは左右に木が茂ってて、通路が石畳になっている場所だった。

「駐車場のとことは雰囲気が違うわね」


 「うん。なんていうんだろ?なんか不思議な感じ」

ぼくもおばあちゃんも、きょろきょろと周りを見回しながら歩いた。

「ここじゃないかしら?」

おばあちゃんが立ち止まった。


 そこには小さな鳥居がたっていて、その奥には屋根だけで壁がない小さな建物が建っていた。

屋根の下には、木でできたふたが乗っている石造りの何かがあった。

「これが、もしかして井戸?」

「そうみたいね」

木のふたをずらして、中を覗き込んだおばあちゃんが言った。


 「つるべがないから、いつでもだれでも水を取ることはできないようになってるみたいだけど」

ぼくはポケットから玉を出してみた。

……なんだか少し光っているように見える?

玉を持ったまま井戸に近づくと、突然まぶしい光がぼくたちを包んだ。


 「わあっ!」あまりのまぶしさに、ぼくは目をつぶった。

しばらくしておそるおそる目をあけると、そこにはさっきと変わらない風景があった。

「あれ?ねえ、今すごくまぶしかったよね?」

「ええ。でも、なにも変わったところはないみたいね」


 井戸から離れて神社のほうを見てもなにも変わらないし、鳥の鳴き声や遠くのほうで車が走っている音も聞こえる。

「なんだったんだろう?」


 【わしが……あった】

「え??」

急に声が聞こえた。

これって天狗さんの声だけど。


 そう思って、手に持った玉を目の前に持ってきた。

「どうしたの?天狗さん?」

【ここじゃ。ここにわしの“身体”があった!】


 「ここって、井戸?でも井戸の中には入ってないから、お水にはついてないよ?」

【水の中ではない。この場所にあったのじゃろう】

「どういうこと?」

【今のわしの姿を、見せてやろうかの】


 そう聞こえたかと思うと玉の中にもやのようなものが広がって、だんだんと形になっていった。

「あ!ほんとだ。身体がある……でも」

ぼくは口ごもってしまった。

だって、天狗さんが見せてくれた姿って、頭と身体はあるけれど……手と足がなかったんだもの。


 【気にするでないぞ。身体が戻っただけで、随分と気分が(ちご)うておる。能力(ちから)もその分戻っておるしの】

ぼくは、おばあちゃんにも玉を見せた。

「おばあちゃん、ここに天狗さんの身体があったらしいの。身体が戻ったおかげでか、頭も見られるようになったみたい」


 天狗さんが言うように『身体が戻った分、能力が戻った』せいか、玉を覗くと、いつでも天狗さんの姿が見えるようになっていた。

ひとしきり玉を覗いたあと、おばあちゃんは言った。

「少なくとも、これで天狗さんの父上が言われてた言葉に嘘がなかったことはわかったわ。あとは“それがどこか”ってことよね」


 そうだった。

天狗さんは六個に分けられちゃってたんだ。

ぼくが最初に見つけたのと今日見つけたのとで、まだふたつ。

あとよっつも見つけないといけない。


 「あと四ヶ所……」どこにあるのか、ぜんぜん思いつかないや。

おばあちゃんは用事があるというので、一度おばあちゃんの家まで送ってもらって自転車で公園に行った。

「お~い。悠斗!」声がした方を見ると、蓮が妹を連れて立っていた。


 「蓮、来てたんだ。今日は(なお)ちゃんも一緒なんだね」

「ああ。とうちゃんとかあちゃんが出かけちゃってさ。おれに『直の面倒、ちゃんとみなさいよ』だって」

「へえ、そうなんだ。でも、いつものかくれんぼだったら直ちゃんでも遊べるから大丈夫じゃない?」


 「そうなんだけどさ……。あ、直。そろそろトイレに行ったがいいんじゃないか?さっきジュースたくさん飲んだだろ?」

「うん……でも、トイレの前で待っててよ?おにいちゃん」

「わかったわかった……あ、悠斗も来いよ」

「うん。いいよ」

なにか言いたげな蓮の様子に、ぼくもトイレまでついていくことにした。


 直ちゃんをトイレの前で待つ間に、蓮が口を開いた。

「遊ぶのはさ、直が一緒でもいいんだよ。でも、あいつがいるとあの話ができないだろ?」

「あの話……天狗さんのこと?」

蓮はこっくりとうなずいた。


 「おれたち四人だけの時にしか話さないがいいかなと思ってさ。古田の件もあるし。内緒にしとけよって言っても、あいつ、まだ小さいからついしゃべっちゃうかもしれないしな」

そうなんだよね。

天狗さんが『秘密にしろ』と言ったわけじゃないし、みんなで探した方が残りの天狗さんが早く見つかって“元の姿”に早く戻してあげられると思う。


 でも……なんとなく、だけど。

あまり大げさにしたくない気がするんだ。

「じゃあ、今日はその話はできないね。……報告したいこと、あったんだけど」

「なにか、あったのか?」

「うん。あのね……」


 「おにいちゃん、ありがとー」

言いかけた時に、直ちゃんが戻ってきてしまった。

蓮を見ると、苦笑いしていた。


 みんなが来るまでと、三人で『けん・ぱー』で遊んだ。

地面に小さめの円をひとつだけとふたつ並べたものとをいくつかたてむきに書いて、ひとつの円は片足で、ふたつ並んだ円は両足で踏んで進んでいく。

道具も何もいらないし、ルールもかんたんなゲームなんだけど。


 ……ぼく、けんけんって苦手なんだよな。

運動が得意な蓮は当然として直ちゃんまですいすいこなしていくのに、ぼくはなんどか転んじゃって……ちょっと悔しかった。

それに結局隆之介も智生もこないまま帰る時間になってしまった。


 「またな!」

「悠斗おにいちゃん、ばいばい!またあそぼうね!」

「ばいば~い!」

二人と別れたぼくは、物足りない気持ちのままおばあちゃんの家に戻った。


 






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