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第二話

 「悠斗(はると)。お前、いったいどこから顔出してるんだよ?」(れん)が言った。

「え?変かな?」

「変も何も、そんなとこに穴なんてあるのかよ?」

蓮のあわてた声に智生(ともき)隆之介(りゅうのすけ)がてっぺんに上ってきた。

「どうした?」智生が言った。

「いや、悠斗がへんな場所から顔出すから」

「変な場所?」隆之介が言いながら穴をのぞきこんで、穴を見上げてたぼくと目を合わせた。


 「ああ、そこにかくれてたんだ。よく入れたね」

「うん。ずいぶん前に見つけてたんだけど、なかなか()()になれなかったからね。やっと今日使えたんだ」

(りゅう)も知ってた場所?」蓮が言う。


 「うん。知ってたけど、ぼくでは隠れられなかったから使わなかった。たぶん智生もそうだと思うよ」

「うん。知ってたし入ろうとしたけど、頭とか足とかどこかがそとに出ちゃうんだよな」

「ふたりとも知ってたんだね。知らなかったのは蓮だけなんだ」

「いいから、出てこいよ。光るものって見つかったのか?」智生が聞いてきた。


 「うん。ポケットにいれてる。そっちに上ったがいい?それとも下りる?」

「下で集まろうよ」隆之介が言った。

「あ、おれ、悠斗がかくれてた場所、見たいから見てからそっちに行く」蓮がちょっと悔しそうに言った。

一緒に遊んでる4人のうち自分だけ知らなかったってなると、確かに悔しいよね。

でもさ。


 「あ~。蓮には見られないんじゃない?」智生が言った。

「ぼくもそう思う」隆之介も同意する。

ぼくは隠れ場所を出て穴を下り、トンネルをくぐって出口に立って三人を待った。

「そんなはず……たしかにおれには無理だ」蓮が残念そうに言い、三人とも滑り台を滑って下りてきた。


 下りてきてすぐ、蓮はぼくに質問をぶつけてきた。

「見れなかったから聞くけどさ。あのたて穴のどこに隠れ場所があるんだ?」

ぼくは落ちていた木の枝を拾って、地面に絵を描いて説明した。


 「滑り台のてっぺんから下に続くたて穴があるよね。そこの真ん中くらいにできそこないの穴みたいな狭いスペースがあるんだ」

「そうそう。すっごく狭くてさ」智生も説明に加わる。

「だね。なんでここに穴がいるの?って最初思ったもん」と隆之介。

「で、お前たち入ったことあるの?」蓮が聞いてくる。


 「おれは前に隠れようとしたら頭が出てたらしくて見つかっちゃた」と智生。

「ぼくは隠れようとしたけど、身体がかたくて諦めた」と隆之介。

「なんだよ。試せてないの、おれだけかよ」残念そうな蓮。

「だって・・・・・・蓮には絶対無理だし」と智生が追い討ちをかけた。

「絶対とか、ひでぇ」

「だって、その体格で子供の遊具にもぐって遊ぶとか、無理だろ?」


  智生がさらに追い打ちをかけたので、蓮はその場にガックリとひざをついた。

「それを言うなよ~。これでも、気にしているんだ」

智生が言う“その体格”、蓮は小学四年生で百五十cmある。

それだけだったら『背が高いんだね~』で終わるけど問題は体重。

春の健康診断で、なんと五十三kgだったっていうからビックリ。


 ぼくなんか三十kgにもなってないのに。

でも、大きいけれど太っているわけじゃない。

運動は大得意で、かけっこなんてクラス一早いんじゃないか?って思うくらい。

本人も“将来の夢はプロ野球選手かJリーガー!”って言ってるし。

実際、なれちゃうんじゃない?というのがクラスのみんなが感じていることだ。


 だけど、どんなに運動ができても物理的な問題はクリアできないらしい。

問題の穴は蓮のように大きいと入れないくらい、せまいんだ。

もっと小さいときに入ってたら、横穴の存在を知ってただろうけど、蓮は四年生になる時に転校してきて、そのときにはもう今の体格だったから知る機会がなかったんだ。

智生も隆も小さい時に隠れてたけど、今ではもう無理らしいし。

ぼくも、いつまで隠れられるかな?


 「それにしても、そんな穴があるとはな~」改めて蓮が言う。

「あるけど、あっても無意味だよね」と隆之介。

「一年とか二年はまず力がないから、はしごを上れないから気づかないし。おれたちくらい力がついても、今度は体が大きくなって入れない。まさか悠斗のためだけに作ったとか?」と智生。


 「え~?ありえないよ、そんなの。だって、ぼくたちが生まれる前からあれ、あったじゃない」

「わかってるって。冗談だってば」笑いながら智生が言う。

隆之介も蓮も、つられて僕も笑った。

「それはそうと、もう一回やるんじゃなかった?かくれんぼ」蓮が言った。

「あ、そうだった。じゃあ、最初はグー……」隆之介がじゃんけんの音頭を取ろうとした時、公園に設置されているスピーカーから夕方五時を知らせる音楽が聞こえてきた。

ぼくたちの市内で朝の七時と夕方の五時に流れる、耳になじんだメロディ。


 「なんだよ、もう五時かよ」残念そうに蓮が言った。

「まだこんなに明るいのにな~。こっそり続ける?」ぼくが言う。

「だめだよ。一応学校からも親からも、音楽が鳴ったら帰ってきなさいっていわれてるんだし。また明日、遊べばいいだろ?どうせ休みなんだし」

隆之介に従って、ぼくたちは“また、明日!!”と口々に言って、それぞれの家に帰った。

拾ったもののことは、みんなすっかり忘れていた。


 

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