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第十九話

 そして週末。

公園にいつものメンバーで集まったときに智生(ともき)が興奮気味に話し始めた。

「オレ、井戸の場所わかったかもしれない」

「ほんとに?」ぼくが言った。


 「マジかよ!」と言ったのは(れん)

「どこにあるの?ぼくも一か所聞いたんだけど、同じ場所かな?」と隆之介(りゅうのすけ)がうながした。


 「ほら、神社あるだろ?でっかいの」

「ああ、富田神社?」

「あそこの奥のほうに井戸があるんだって」

「え~?あんなとこにあった?」ぼくも何度か、というか初詣くらいにしか行ってないけれど、それでも井戸を見た記憶はなかった。


 「あの、入り口のところの、手とか洗うとこ?」

「違う違う。神社にむかって右の奥のほうに井戸があるんだって」智生が説明してくれた。

「そんなとこ、ぼく行ったことないや」

「……ぼくが聞いた場所と同じだね、智生」(りゅう)が言った。


 「昔、天皇の使いに水をケンジョーするのに使われた井戸だとか言ってたよ」智生が言った。

「誰に聞いたんだ?」蓮が聞いた。

「隣の家のばあちゃん。町内でいちばん年とってるから、何でも知ってるかな?って思って聞いてみたらビンゴだったよ」


 「ぼくは、かあさんに聞いたんだ。結構いわれがある神社みたいだね」

ふたりとも、すごいや。

「ふたりとも同じ場所ってことは、そこの可能性って高いんじゃない?」智生が興奮気味に言った。


 「ただ……問題があるんだよね」隆が言った。

「問題?」蓮が言った。

「うん。どうやってそこまで行くか……だよ」隆が言った。

「あ」ぼくが言った。

「校区外……だね」


 「そう。自転車で行ける距離なんだけど、親の許可がいるってやつ」隆が言った。

「そんなの、許可もらったフリしていけばいいんじゃ?」蓮が言った。

「そういうわけには、いかないよ」智生が言った。


 「おれの兄ちゃんが小学生の時、親に内緒で校区外に自転車で行ったんだけど、知ってる人には会ってないはずのになぜかバレて。親に連絡がいって、許可もらってないのバレて、家に帰ってから大目玉くらってたんだ。どこでだれに見られてるかわからないから……さ」

「だね。障子に目あり、だよ」隆が言った。


 「だから無難に行動しようとするとバスで行くか、だれかの家の車で連れて行ってもらわないといけないんだけど」

「……ぼくんとこは、すぐには難しいかも」ぼくは言った。

ママは天狗がどうのって話は、まず信じてくれない。

だから頼るとしたらおばあちゃんなんだけど。


 もちろんおばあちゃんは元気だし、もう仕事はしてない。

車の運転も問題ない。

だけどおばあちゃんの家も校区外だから、まずママの許可をもらわないといけない。

「ママに出張の仕事が入ったら、行けるかも……」


 そして、もう一つ。

おばあちゃん、すごく人見知りなんだよね。

「あと、おばあちゃん、すごく人見知りなんだ」


 いつになったら井戸に行けるんだろう?

そう心配してたけれど、案外早くチャンスはやってきた。

「悠斗、悪いんだけど今度の週末もおばあちゃんの家に泊まりに行ってくれる?」

「ママ、出張?」


 「そうなのよ。会社ったらママをあてにして遠くの仕事をどんどん請けるようになっちゃって。仕事があるのはありがたいんだけど……って悠斗に愚痴ってちゃいけないわね。ごめんね悠斗」

「ううん。大丈夫だよ。おとなって大変なんだね」

「大変ではないわよ。ママの好きな仕事だから」


 「ふうん。ぼくも好きな仕事できるかな?」

「あら?悠斗が好きなことってなんなの?『本を読むこと』のほかに好きなことできたの?」

……先を越された。

「ううん、まだ他にはないよ」


 「そう。じゃあ、ゆっくりでいいから探さなくちゃね。あ、でも『本を読むのが好き』っていうのは大切なことよ」

「そうなの?」

「本を読む……活字を読む習慣ができてると、この先受験だったり、仕事の資料だったりと文字を読まないといけないことが増えてきたときラクよ」


 翌朝ぼくが起きた時には、ママはもう仕事に出かけていた。

それをいいことに、朝ごはんを食べてすぐにおばあちゃんの家に行った。

「ねえ、みやさん」

「なに?」

「あのね、富田神社に井戸があるらしいんだけど、知ってた?」


 「ああ、そういえばあるみたいね。その井戸がどうかしたの?」

「あのね……」

ぼくはこの前ママの前だったから言えなかったこと……隆之介が『天狗が水の神の使いなら、水に関係する場所に分身があるんじゃないか』と考えたこと、学校の近くの池の水につけようとしたら天狗さんに叱られたこと、そして隆之介と智生が井戸の情報として富田神社の井戸の話を聞いてきたことをおばあちゃんに話した。


 「そうね……あの神社だったら古くからあるから。天狗さんの時代にもあったかもしれないわね」

「おばあ……みやさん。車で連れて行ってもらえる?できれば友達も一緒に」

「お友達?何人?」

「天狗さんのことを知ってるのは、ぼくを入れて四人だよ」


 「うちの車は軽だから、悠斗のほかには二人しか乗せられないわ。それに……」

おばあちゃん、人見知りって言ってたし……やっぱり会ったことがない人は苦手なのかな?

「悠斗にとってはお友達でも、おとなとしては、よその家のお子さんを勝手に車に乗せるわけにはいかないのよ。もしも事故にあって怪我でもさせたら大変でしょう?お友達の親御さんに許可をもらってからじゃないとね」


 そういうもの、なのかな?

「じゃあさ、今日はぼくだけ連れて行ってくれる?」

この前、井戸の話をしたときに『おばあちゃんが人見知り』って言ったら、とりあえずぼくだけでも連れて行ってもらって、ほんとに“ある”かどうかを確認してみようって話になってたんだ。

「今日?いいわよ」


 

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