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第十七話

 「水だったら何でもいいというわけではないと思うよ」隆之介(りゅうのすけ)が言った。

「でもさ、試してみてもいいんじゃ?せっかく玉もあるんだし」智生(ともき)は“実験”してみたくてたまらないみたいだった。


 「まあ、むだだとは思うけど。悠斗(はると)はどう思う?」と、隆之介がぼくに意見を聞いてきた。

「う~ん。ぼくも、あの池はなんとなく違う気がするんだけど。智生が試したいって言うならいいと思うよ」

「よっしゃ!決まり。じゃあ行こうぜ」智生はそういうと一番に走りだした。


 ぼくたち三人は顔を見合わせた。

みんな(やれやれ)という顔をしていた。

それでも、智生が走っていった方向へぼくたちも走ってむかった。


 ぼくたちが着くと、智生はもう池のすぐそばに立っていた。

「おっせーよ。つーかさ、実験、おれやりたい!やっていい?」

「別にいいけど……あ、池の中に落としたりしないでよ?」ぼくは玉を智生に渡しながら言った。

「わかってるって」智生は池のそばにしゃがんで、玉を親指と人差し指でつまんで水に近づけた。


 玉が水につかろうとしたとたん『いたたたたっ』と智生が頭を押さえてしりもちをついた。

はずみで土の上に落ちた玉を、ぼくは急いで拾った。

【馬鹿者!なんというものに近寄せるのじゃ!】

天狗さんの声が頭に響く。


 拾ったときよりも元気?になったからか、響き渡るような声だ。

声はぼく以外の三人にも聞こえてたみたいで、みんな不思議そうに周りをきょろきょろと見回していた。

「天狗さんの声だよ。ぼくも最初聞いたときはびっくりしちゃった」そうみんなに説明をした後で『ごめんなさい』とぼくは天狗さんにあやまった。


 そして(りゅう)が思いついたことと、この実験をするまでのいきさつを説明した。

【ふうむ。わからぬでもないし、わしを助けてくれようとする心意気はありがたい。が、しかし。かような汚けがれ水にわしを近づけるなど、もってのほかじゃ】

「悪かったよ。謝るよ。でも、だからって、あんな痛いこと……」智生が半分べそをかきながら言った。


 ……きっと、ぼくと同じ“ぴりぴり”をされたんだろうな。

元気になった分、きっとぴりぴりも……そう考えたぼくは、智生には悪いけど実験したのがぼくじゃなくてよかった、なんて思った。


 「そりゃたしかにきたない(よご)れた水だけど、(けが)れ水は言いすぎなんじゃないの?」それまでずっと黙っていた(れん)が口を挟んだ。

そうだよね。

たまにだけど釣りをする人だっているんだし。


 【汚れた(にお)いがするから、そう申した。わしが住まっておったころには、かいだことがないにおいじゃ】

汚れた臭いって、どういうことなんだろう?

そう思ってたら隆之介が言った。


 「……池が汚されてるってことじゃないの?ほら、観たことないかな?ずっと前のアニメ映画で、たくさんのゴミで汚された川の神様が出てくるやつ」

そういえば前にテレビで放映してたのを観た覚えがある。

一緒に観てたママが、高校生だか大学生のころ最初に観たって言ってた。


 「あ~、そういえばあったね」ぼくは言った。

「ああ、あったような……でも、よくそんなの思い出したな」と蓮が言った。

「まあね、なかなか興味深い映画だったから。ときどき観なおしたりもしてるし」隆之介が言った。


 「多分この池も、そういうゴミ?自然の中にないものが捨てられてるんだと思うよ」

「そういえば、兄ちゃんが言ってたんだけどさ」痛みから回復したらしい智生が言い出した。

「ここの池、学校が近いだろ。昔、校庭の朝礼台が投げ込まれてたことがあったってさ」


 「ええ?それ、運動会とかで校長先生が立つあの台だよね?そんなもの、小学生で運べるの?」びっくりして、ぼくは聞き返した。

「まさか。小学生じゃないよ。中学生か高校生かわからないけれど、学校に忍び込んで持ち出してイタズラしたんだって。兄ちゃんも人から聞いた話って言ってたけどね。うそではないらしいよ」智生が言った。


 「まあ、その話がホントかウソかはともかく、この池は道路にも近いからね、こっそり何か捨てに来る人がいてもおかしくないよ」隆之介が言った。

「たとえ壊れて捨てるにしても、ちゃんと捨てないと。モノには念がこもるからね。ぞんざいに扱うと、悪しきものともなりうる……とかあさんが言ってた」


 「隆のかあさん、すげえ」智生が言った。

「まあねえ。オカルトとか摩訶不思議なものとか大好きな人だからね。ぼくにまで強要することはないから、そこまで気にしてないけど。やっぱりいつの間にか覚えちゃってるもんだね」苦笑しながら隆が言った。


 「この池がダメでもさ、川とかだったら大丈夫なんじゃね?この辺の川は浅くて底も見えてるし。ゴミとかないと思うんだけど」蓮が言った。

「う~ん。それでも生活排水も流れてると思うし。たんぼや畑にまいた農薬や化学肥料も雨で溶けて流れてそうだし。天狗さんが暮らしてたころは、そういう“人工のもの”なんてなかったんじゃない?」


 そっか。

天狗さんが何歳かはわからないけれど、自然の力を操ってたって言ってたから周囲には自然しかなかったはず。

「あ、そういえば。隆は『水にかかわる場所』って思いついたときに、どんな場所を想像してたの?」ぼくは聞いてみた。


 「池は違うと思うって言ってたけど……」

「ぼくも最初は川か海かって想像してたんだ、流れがある水。だけど、さっきの天狗さんの反応から池はもちろんのこと川も海もリストから外れちゃったんだよね。あと思いつくのは井戸なんだけど、今でも井戸を普通に使っている家なんてないよね」


 

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