第十六話
「ありがとう、助かったわ」
ピザを食べながらママが言った。
「ひと晩離れてただけなのに、なんだか急にしっかりした子になったみたいよ」
「そうなの?」
「だって前だったら、ママが作るのを待ってるだけだったでしょう?」
「そうかな?」
そうかもしれない。
だって、焼くだけの冷凍ピザでもママが焼いてくれた方が美味しいって思ってたもん……食べるだけの方がラクだっていうのが正直な気持ちだけど。
でもおばあちゃんの家にひと晩だけど泊って、お手伝いして気づいたんだ。
できることだけでも、手伝って『ありがとう』って言われながら食べた方がもっとずっと美味しいってことに。
そして、思った事をそのままママに言ったらニッコリ笑ってこう言った。
「それだったら、おばあちゃんにも感謝しなくちゃね」
そして続けていった言葉は、今のぼくにとっては嬉しいことだった。
「あのね、もしかしたらママ、出張することが増えるかもしれないの」
「え?そうなの?」
「うん。そんなにしょっちゅうということはないと思うんだけど、その時はまたおばあちゃんの家に泊まってもらうことになるけど、いい?大丈夫?」
「ぼくは大丈夫だよ。おばあちゃんの家も楽しいもん……テレビがないのはちょっとさびしいけどね」
「仕方ないわよ。おばあちゃんテレビ苦手なんだもん。でもよかったわ。その時はお願いね」
「うん、わかった」
夕ごはんが終わって部屋に帰ったぼくは、ついバンザイをしてしまった。
しょっちゅうではないにしても、堂々とおばあちゃんの家に行く口実ができたんだもん。
出張の時だけじゃなく、『忘れ物しちゃった』という言い訳も使えちゃうかもしれない。
天狗さんの謎ときに夢中になってたぼくは、ママの出張の日が早く来ますようにと祈ってしまった。
「そういえばさ」
何日かたった頃、学校で隆之介が話しかけてきた。
「前にさ、天狗さんは『水の神様の使い』だって言ってなかったっけ?」
「あ、なんか言ったかも。おばあちゃんが言ってたのを、そのまんま隆りゅうたちにも言った気がする」
「それで思いついたんだけど。もしかして天狗さんに関わる場所って水に関係がある場所なんじゃないかな?」
「え?水に?」
「うん。最初の浄化も流水でやったら、いくらかだけど効果があったって言ってたし」
……そうかもしれない。
「それ、アリかもしれないね。今度試してみようか」
「なになに?なんの話?」
たまたま横を通りかかってぼくたちの会話を耳にしたらしいクラスメイトの拓也が口を挟んできた。
(あ、めんどくさい奴に聞かれちゃった)そう思いながら隆を見ると、まるで何も聞こえなかったような顔をしてそっぽをむいていた。
「おい、シカトすんなよ!なんの話?って聞いただけだろ!」
確かにそうなんだけど……それにうっかり教室でしゃべってたぼくたちも悪いんだけど。
「古田はさ」
隆之介がこっちをむいて口を開いた。
「フェイクニュースって言葉、聞いた事ある?」
「フェイクニュース?聞いたことはあるぞ。なんのことかは全然わかんねえけど」
「フェイクニュースっていうのは、虚偽の情報でつくられたニュースのことなんだ。うそだと断言はできないけど『絶対にほんとう』とも言いきれない情報がふくまれる。で、さっきぼくが悠斗と話していたことは、その『不確実な情報』。そんな情報を第三者……この場合は君だけどね、古田。第三者にもらすわけにはいかないんだよ」
「高橋は、聞いていいのかよ?」
拓也はくいさがって聞いてきた。
「悠斗はいいんだよ。というか元々悠斗から聞いた話に関係する情報だから。ほんとうかも知れないし、うそかも知れない。それをちゃんと分かっている者同士でしか話せないことなんだ」
……さすが隆之介。
「だから、ちゃんと確実な情報とわかった時は、話すよ」
「わかったよ。絶対だな?」
「もちろん」
しぶしぶといった感じで拓也は教室を出て行った。
「さんきゅ、隆。でもさすがだね、あんなにすらすらと」
「それこそフェイクいれてるし。嘘も方便だよ。……ごめん。学校では言わない約束だったのに破っちゃって」
どこからが嘘でどこがほんとなのかは……ぼくにはわからなかった。
「ううん。だいじょうぶだよ。とりあえず、今度の土曜日でも試してみる?学校に玉を持ってくるわけにはいかないから」
「いいよ。ほかの二人にはその時に伝えよう」
そして土曜日。
ぼくは玉を持って公園に行った。
ぼくが着いたのが三番目で、蓮が少し遅れてやってきた。
四人揃ったところで隆之介が話し始めた。
「こないだ思いついたときに、悠斗には話したんだけどさ」
「なにを?」蓮が答えた。
「こないだ天狗に関わる場所ってどこだ?ってなってただろ?それで悠斗にも確認したんだけど、天狗は水の神様の使いだって話、覚えてる?」
「……そんな話、したっけか?」蓮が答える。
「したような気もするけど……」智生もイマイチ覚えていないようだ。
「──したんだよ」あきれたように隆之介が言った。
「それでね、思いついたのが『水に関係する場所』が、『天狗にかかわる場所』なんじゃないか?っていうことなんだ」
「あ!たしかに」智生が言った。
「見つけられるようにしないとヒントじゃないもんね。じゃあ、さっそく水の近くに行ってみようよ」
今にもかけ出していきそうな智生を、隆之介は冷ややかな目で見て言った。
「水の近くって、どこに行くつもりなの?智生」
「え?学校の隣の池だけど?」




