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第十四話

 「それって、どういうことなの?っちゃんと天狗になれたから閉じこめられたって,変じゃないの?」

ぼくは聞いてみた。

ちゃんと言われたとおりに修行して天狗になれたのに、閉じ込めるなんておかしいよ。


 封じられたって天狗さんは言ってたけど、出てこられないところに入れるんだもん閉じ込めたのと同じじゃない?だから聞いたんだ。

【閉じこめ、ではない。封じ、じゃ】

「どっちも同じでしょ?出られないって事だし」


 「ちょっと、違うかな」

おばあちゃんが口を挟んできた。

「どう、違うの?」

「そうねえ。閉じこめるだと今持っている能力がそのまま使えるけれど、封じるだとその力が使えなくなるの。・・・・・・悠斗は確か視力がよかったわよね?」


 「うん。両目とも一・五だよ」

「だったら、近くも遠くもよく見えるでしょ?閉じこめだったら、そのよく見える目のままでいられるの。でも封じるだと目が見えないようにされる、そう言ったらわかるかな?」

 

 ほんとだ、全然違う。

「じゃあ、天狗さんが封じられたってことは、天狗さんの能力?も使えないようにされたってことだよね?でも、それってどうして?」


 【わしが、己の能力に奢おごっていたということじゃ。先さきも申したとおり、わしは周囲の者よりも秀でておった。修行はさすがに厳しいものではあったが、重ねるうちに容易たやすくこなせるようになっていった。それによって能力ちからもどんどん高まっていき、父上もわしを褒めてくれるようになっていった】


 「すごいじゃない!」

【じゃが、わしは道を誤った】

「あやまった?悪いことしたの?」

【そうではない。わしは能力を悪しきことに使つこうたのじゃ】


 「あしきこと?」

「悪いことってことよ」

「悪いことって、泥棒でもしたの?」

【そのような愚かなことはせぬ。わしらは修行により、風や水など自然の力を借りて我が力のように使うことができるのじゃ……空を飛んだり、水の上を歩いたりもできる。意のままに風を吹かせることも、雨を降らせることも可能になった。その『借りている』はずの力を『己の力そのもの』と勘違いしたわしは……】


 「??どうしたの?」

大風(おおかぜ)を吹かせて里の者が丹念に育てた作物を駄目にしたり、干ばつで雨を乞うておるのに降らせなんだり……誰かが困り嘆くのを見ては楽しむようになっておった。本来は誰ぞの助けになるために得た力を逆のことに利用したのじゃ。幾度か父上に諫められたがわしは聞く耳をもたなかった。そしてとうとうある日、父上の逆鱗に触れ、このように封じられたという次第じゃ】


 「何をされたんですか?封じ込まれるほどのことだから、よほどのことじゃ?」

【……人を殺めたのじゃ】

(あや)め……殺したってことですか?」


 おばあちゃんがおそるおそるといった感じでたずねた。

【そうじゃ。弁解するようじゃが、直接この手を下したわけではない。あの日、大雨を降らせたまではわしの所業じゃった……無論、頃合いをみて止ませるつもりじゃった。じゃが、まだ大丈夫と調子にのって降らせすぎたせいで川が氾濫し、川下の家が流されて……家の者たちが命を落としたのじゃ】


 「間接的に……。でもそれ以前にも作物を駄目にされてたでしょう?その時には、そういう……ことは起こらなかったのですか?」

おばあちゃんが疑問を口にした。

ぼくも同じことが気になっていた。


 【作物は、風で飛ばすも半分以上は無傷なまま残したし、雨も干あがり過ぎぬうちに降らせたりしていたのでな。人命に関わるには至らなかった。それ故、悪戯(いたずら)というには程度が過ぎておったが、父上も諫めるまでで、なんとか堪こらえてくれたのじゃ】

「そんなことがあったんだ」


【激高した父上は、その場で消し去ることもできたであろうわしを、六つの部位に分けた。両の手、両の足、身体そして頭とな。そして頭のみを玉に封じ残りを違う場所へと飛ばしたらしい。そしてこう申された『反省せよ。いずれ時が過ぎ、おぬしの声に反応し協力するものが現れれば、もしや元の姿を取り戻せるかもしれぬ。全てはおぬしに関わる場所にある』とな】


 「『おぬしに関わる場所にある』これまた、抽象的なたとえね。まずはその謎から解かないといけないわけか。気の長い話ね」

おばあちゃんがため息混じりにつぶやいた。

そして壁の時計を見上げた。


 「あら!もうこんな時間。悠斗、おなかすいてない?昼ごはんにしましょう」

そう言われてぼくも時計を見てびっくりした。

いつのまにか一時を過ぎているんだもん。

天狗さんの話に夢中になって、時間が経つのを忘れちゃってたんだ。


 おばあちゃんが作ってくれた焼き飯を食べながら、ぼくは天狗さんの分身がありそうな場所を色々考えてみた。

でも、さっぱりわからなかった。

おばあちゃんも同じことを考えていたみたいで、時々頭をひねっていた。


 天狗さんは、さすがに長くしゃべったせいで疲れたのか『しばし休む』と言ったきり出てきてくれなかった。

昼ごはんを食べた後で、おばあちゃんがまた湯飲みにはちみつ湯を作ってくれたので玉を入れた。

これで、また元気になってくれてるといいな。


 午後は、ずっとおばあちゃんの本を読んで過ごした。

いつもは探偵ものを読むのだけれど、今日は『ロビンソン・クルーソー』を読んだ。

二冊あったからめくってみて、漢字が少なそうな方を選んだ……もしかしてぼくのために買ってくれてたのかな?


 夕方になって一緒にスーパーで買い物して、夕ごはんを作るお手伝いもした。

うちでもたまにお手伝いしてたけど、おばあちゃんのところでするお手伝いはなんだか新鮮で楽しかった。



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