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第十三話

 玉をはちみつ湯に入れてしばらくすると、またお風呂に入ったような感覚がした。

それも、さっきよりもずっと強く。

「天狗さん、気持ちいい?」

【これは……よいぞ。なにやら蘇るような心持じゃ】


 「そうなの?ねえ、おばあちゃん。天狗さんね……」

「私にも聞こえたわ。さっきより、ずっとはっきりと」

しばらくたって湯飲みから玉を取り出して拭いたら、前よりももっともっと輝いているように見えた。

おばあちゃんに言ったら、私もそう思うと同意してくれた。


 これって、天狗さんの力が強くなっているってことなのかな?

でも天狗さんの声をおばあちゃんと一緒に聞けるようになったのは、すごく嬉しい。

だって、天狗さんが使う言葉って、時々難しくて全然わからなかったりしたから。


 「ねえ、天狗さん」

【なんじゃ?】

「天狗さん、前に『元の姿を取り戻す手伝い』してほしいって言ってたでしょ?」

【うむ。いかにも】


 「それって、どんなことをしたらいいの?ぼくにできることなの?」

【できるかどうか、ぬしの能力を知らぬからわからぬが。わしを残りの部分を探してほしいのじゃ】

「どこにあるか、わかるの?」

【わからぬ……が、この村周辺であることは間違いなかろう】


 「村?で、でも、どこにあるのかわからなかったら、探しようがないんじゃない?すっごく広い場所から探すのって大変そう」

【手がかりは、ある】

「え?あるの?どんな手がかり?」


 【わしと残りの部分とは相通ずるものがあって、近づくと共鳴するようになっておるのじゃ……と、わしを封じた者が申しておった】

「……また大雑把な手がかりだこと」

おばあちゃんが呆れたように言った。


 「もう少しわかりやすい手がかりはないのかしら?というか、封じ込めたのはいったいどなたなの?」

【……父上じゃ】

「父上って、お父様?どうしてお父様が息子を封じ込めるの?」

今度はびっくりしたような口調で尋ねてる。


 ぼくもびっくりした。

だって、お父さんが自分の息子を封じ込めるだなんて。

いくら天狗っていう、人間ではない?力を持っている存在だとしても、そんなことってひどいよ。

【父上といっても、わしの生みの親ではないぞ。天狗としての父上じゃ】


 「え??天狗さんってお父さんがふたりいるの?」

【驚くのも無理はなかろう。わしはもともとは、ぬしのような人間の子どもとして生まれてきた。自分で言うのもなんだが聡さというえに、することなすこと誰よりも秀でておった。そんなある日、父上がわしの前にあらわれて『我われの子になって天狗となる修行をせぬか?』と問うてきたのじゃ】


 「それで、どうしたの?」

【わしはそのころ、周りの者のあまりの無能さに辟易しておっての、己おのが能力を試したい。こんなちっぽけなところから出ていきたい。ここは我われが居おるには勿体ない……そんなことばかり考えておった。それ故、一も二もなく父上のもとに弟子入りすることにしたのじゃ】 


 「おとうさんたちには?おうちの人には、ちゃんと言って行ったの?」

【まさか、その頃はそのようなことは些細な事と思うておったからの。わしが帰らなかったことは“神隠しにおうた”と諦めたらしいと、のちに聞いたわ】


 ぼくもおばあちゃんも、ただびっくりして天狗さんの話を聞いていた。

天狗さんって、もともとはぼくやおばあちゃんと同じ人間だったんだ。

でも??


 「ねえ、天狗さんって、ぼくたちと同じ人間だったって言うけど。その、病気になったりとか年をとったりはしないの?いったい今、何歳いくつなの?そして、あの……」

【ぬしが問うておるのは、寿命のことか?いわゆる死なぬのか?と聞きたいのであろう?】


 ……聞きにくくて口ごもったことをズバッと言われて、ぼくはついうつむいてしまった。

【何歳か……は、わしにもようとはわからぬ。修行の間は里との交流を断っておったからの。奥深い山の中におったゆえ、人の世の流れがわからぬのじゃ。おまけにこれに封じられてからは、季節さえもわからぬようになったからな】


 「そう……なんだ」

【それから、死なぬのかということじゃが。おそらく、命あるものとしていずれは死ぬこともあろう。じゃが、それが何時いつかまではわからぬ。父上も、教えてはくれなんだ】

なんだか、想像しても追いついていかない。


 ぼくがまだ子供だから?と思ったけれど、横目でみたおばあちゃんもあっけにとられたような顔をしていたから、いろんなことを知ってるおばあちゃんのような大人でもわからないことなんだと少し安心した。


 ふと思いついたことがあったので聞いてみた。

「ねえ、天狗さんは“父上”に言われて天狗になる修行をしたんでしょう?」

【うむ】

「じゃあ、なんで封じられちゃったの?ちゃんと天狗さんになれたのに?」


 ぼくは、修行が上手くできなかったから封じられた……閉じ込められたって思ったんだ。

おばあちゃんちで読んだ昔のまんがにあった、いたずらしたり言うことをきかなかったりしたら物置におしおきで閉じ込められるってシーンを思い出したから。

【いや、その逆じゃ。ちゃんと天狗になれたから封じられたといったが正しいの】


 

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