第十一話
学校が終わってから、ぼくは隆之介の家に行った。
ほんとはいけないんだけど、ランドセルを背負ったまま。
ぼくの家とは逆方向になるし、一度帰ってからだと隆之介の塾の時間に遅れてしまうからだった。
「ちょっと待ってて」そういうと隆之介は家の中に入り、紙袋を持ってすぐに出てきた。
「このなかに、かあさんのおすすめがはいってるんだ。あと使い方とか書いたメモも入れてるって」
紙袋を受け取ると、思ったよりずっと軽かった。
「ありがとう」
「なんか、火をつかわないといけないからオトナの人と一緒じゃないとダメよってかあさんが言ってた」
「そうなんだ。明日にでもおばあちゃんちに持って行ってみるね」
「ただいま!」
「おかえりなさい。遅かったわね」
「うん。ちょっと用があって隆の家によってきたんだ」
手を洗って自分の部屋に入ってから、紙袋をあけた。
中には紙が一枚と透明なビニールの袋が入っていた。
ビニール袋を出してみると、中には白っぽい色の乾いた葉っぱが10枚くらい入っている。
顔を近づけてにおいをかいでみたけれど、なんだかよくわからないにおいがした。
でも、いやなにおいではなかった。
紙も取りだして読んでみたけれど、知らない漢字があってよくわからなかったのでおばあちゃんに任せることにして両方とも紙袋に戻した。
日課にしているクコ茶を作りにキッチンに行ったら、ママが話しかけてきた。
「それ、おばあちゃんと一緒にやった実験でしょう?まだ続けてるの?」
「うん。ちゃんと結果が出るまでは続けなさいって言われてるもん」
「もう一週間くらいでしょう?まだ出ないの?その結果ってやつ」
「うん。もうしばらくかかるみたい」
「まあ、何かを続けることはいいことだけどね。あ、それでね悠斗はると。急で悪いんだけど、明日ひと晩おばあちゃんちに泊まってもらえる?ママ急に出張が入っちゃったのよ」
「え?あ……うん。出張って?」
「最初はね、別の人が行くことになってたのよ。うちは今悠斗とママのふたりだから、ママが泊りで出張に行くと悠斗が夜、ひとりになっちゃうでしょう?だけど、その人が急に行かれなくなったからってママ相談されたの、代わってもらえないかって。で、おばあちゃんに悠斗をひと晩お願いできるか頼んだらOKもらえたの」
「ふうん。いいよ、おばあちゃんちだったら本もいっぱいあるし」
「よかった。ごめんね急な話で。そろそろ夕ご飯にしましょうか」
「うん。あ、これ部屋に持って行ってくるね」
ぼくはクコ茶が入ったマグカップを持って部屋に戻った。
(やった~!!!)
ドアを閉めてすぐぼくは心の中で叫んで、小さくガッツポーズをした。
翌日、ぼくは着替えをいれたバッグと昨日預かった紙袋を持って自転車でおばあちゃんの家に行った。
「みやさ~ん。おじゃましま~す」
「はい、いらっしゃい」
いつものようにリビングに行ってソファに座ると、おばあちゃんが聞いてきた。
「クコ茶は毎日続けてる?」
「うん。もちろんだよ、昨日ママに『まだ続けてるの?』っていわれちゃったけどね」
「そう、でも続けてるのは偉いことよ」
「それ、ママも言ってた」
「それで、効果は出てきてる?」
「うーん、天狗さんに聞くと少しずつだけどせいきが戻ってきている気がするって。でもまだなんだかすっきりしないって。あ、それでね、昨日友達が“お母さんおすすめ”のものをくれたんだ。だから今日持ってきてみたんだけど」
そう言ってぼくはおばあちゃんに紙袋を渡した。
「ホワイトセージ?」
紙袋から紙を取りだしたおばあちゃんんは、書かれている文字を読みビニール袋の中身を取りだした。
「あのあと浄化について少し調べた時に見た名前だけど、実物を見るのは初めてだわ」
「おばあちゃんも見たことないの?」
「パワーストーンとか、あまり興味がわかなかったからね」
「ふうん。それで、どうやって使うの?」
「この葉っぱに火をつけて、その煙にくぐらせるらしいけど」
「燃やすの?危なくない?」
「ずっと燃やすわけではないみたいね。火をつけたらすぐに消すんですって。消したら煙だけが残るみたいよ」
「え~?やってみたい。でも天狗さん、煙たくないかな?」
「一回につき燃やす葉は一枚だそうだから、そこまで煙たくはないんじゃないかな?」
「だったらいいけど」
「じゃあ、準備しなくちゃね。火をつけるから燃えるものの上ではダメだし。何かあったかな?」
おばあちゃんはあちこちをガサガサと探し始めた。
「あった、あった」
しばらくしておばあちゃんは小さい箱のようなものを持って戻ってきた。
「捨てずにおいてよかったわ」
「それ、なあに?」
「むかし、じいが貰ってきた粗品の灰皿よ。灰皿はほかにもいっぱいあったから使わないままだったの」
おばあちゃん、自分のことは“みやさん”と呼ばせるくせに、おじいちゃんのことは“じい”なんだ……ちょっと不公平?そんなことを考えてしまった。
「ほら、火をつけるから玉を準備しなさい」
おばあちゃんに言われて、ぼくはポケットから玉を出した。
「天狗さん、今から浄化?っていうのをやるよ。セージの葉っぱを燃やした煙にくぐらせるから、もしかしたら煙たいかもしれないけれど、ごめんね」
【かまわぬ。ぬしがいつも入れてくれる湯のおかげで精気も戻りつつあるし、きっとその煙もよきものであろう】




